会社にて
それから、海斗は「行ってきます」と、「お休み」の時に、
決まってキスをすることにした。
ニコは少しづつ成長しているみたいだった。
「にー」から、赤ちゃん語を喋るようにまでになった。
そして、ついに、
「かいとー」
海斗は大喜び。
「やったな、言ってくれたなー」
海斗はなんだか、明るい気分になって、ニコを抱きしめた。次第に、少し、泣けてきた。
「いったよー」
まだ、オウム返しだったが、自分の名前を言ってくれたのが感無量だった。
海斗が、愛情を注いでいるからか、ニコはゆっくりとだが、順調に成長していた。
この頃は、身体が大分と大きくなっていっていたのだった。
だが、会社にはいかないといけなかった。
実は、海斗はあるキャリアウーマンに困っていた。
態度がデカいのだ。その上村梓と言う女は、
海斗が担当している商品の開発に携わっていた、いわゆる、研究マニアであった。
「上村さん」
「なあーんですの?河野さん」
「だから、貴方の研究を止める気はありませんが、予算が大幅にオーバーしています」
「しょーがないでしょう?ビジネスチャンスをモノにする為にはね」
「……とにかく、もう少し出費を少なくしてください」
「……はいはい」
そう言って、上村はため息をつきながら、海斗の前から去った。
―俺の立場も考えてくれよなー
そう思う海斗であった。
家に帰ると、珍しく、直行でニコの所まで行かなかった。仕事で疲れているのだ。
ニコの所へ行ったもののあまり会話せず、ビールを飲みに食卓に消えてしまった。
その後も、テレビを見て、……しかしそれもあまり面白くないのか、ため息を吐いては、コーヒーを飲んでいた。
ニコは、その海斗を、静かに見守るのみであった。




