5 南木千早 Ⅰ ~救世主ヤペテ~
9月13日、夜。岐阜県岐阜市のとあるホテル。安全性とおしゃれなデザインで人気のホテルだった。女性の間では、かなりの人気だった。そのホテルの302号室に、1人の女子大生がいた。腰まで届く長い黒髪の美少女だった。名前は、南木千早。そう、あの新瀬戸の美青年が見ていたモニターに映っていた女性である。
「大変なことになったな・・・。まさか、ボクが旅行している時に、こんなことが起きるなんて・・・」
と南木千早はつぶやいた。南木は、岐阜に旅行へ行っていた。松本・箱根・宇部の事件は、その旅行中に起きたのだ。南木は、東都大学の3年生だった。伊吹とは、同級生であり、最大の親友でもあった。そして、南木には伊吹と共通した悩みがあった。それは、激しい頭痛のことだった。さらに、夢で声が聞こえるというものだった。あまりはっきりした声ではなく、南木は聞き取ることができなかった。しかし、「愛知」「時間がない」などの言葉は理解できた。でも、この夢を南木はあまり気にしていなかった。いつか元に戻るだろうと思っていたからだ。
その夢は、最近はっきりした夢へと変わっていった。頭痛も次第に激しくなるばかりだった。病院にも何度も行ったが、医師は「疲れによる一時的なもの」と判断した。一応、頭痛に効く薬をもらったが、効果はほとんどなかった。
「仕方がない・・・、今日は寝て、明日東京へ戻るか・・・」
南木は、そう独り言を言うと、ベットに行き、眠りに就いた。
そして、南木は夢を見た。内容はいつもの夢だったが、いつもとはっきりと違うところがあった。それは、声がかなりはっきりしていたことだった。これまでの夢は、何を言っているのか聞き取れない声だった。しかし、その声は南木の耳にはっきりと聞こえた。
「新瀬戸市の滝ノ水池に来い・・・時間がないのだ・・・」
と。南木は、あわてて飛び起きる。目には、いつもの現実世界が映った。時刻は、9月14日、午前4時50分。まだ早いな・・・と思い、南木は寝ようとした。しかし、あの夢の声がどうしても気になってしまう。なかなか眠ることができなかった。南木は、とりあえず夢に従ってみることにした。夢に従っても、それほどの害はないだろう。南木はそう思っていたのだ。夢に従ったことで、大きな使命を負うことになるとは、知らずに・・・。
午前10時15分。南木は、荷物をまとめた。そして、部屋を出て、フロントでホテルのチェックアウトをして、ホテルを出た。外には、人はあまりいなかった。まだ、緊急避難警報は出ていなかったが、いつ出るか分からない状況だ。こんなときに外出する人は、あまりいない。ホテルから出る人は、他にもたくさんいた。ほとんどの人が旅行の途中だったようだ。おそらく、自宅にでも帰るのだろう。しかし、南木は違った。彼女は、これから新瀬戸市へ向かおうとしていた。
彼女は、鉄道を何度も乗り換え、新瀬戸市に行った。まだ、被害にあった3つの場所以外の鉄道は止まっていないようだった。しかし、自宅にみんないるせいか、人はあまり乗っていなかった。途中で、名古屋駅の前を見てみたのだが、中部地方の中心都市とは思えないほど静かだった。
「新瀬戸市の滝ノ水池・・・。ここか・・・」
南木は、地図を見ながら言った。これから、何が起こるのか。南木は、それが楽しみでもあったし、不安でもあった。
「南木千早・・・、到着したようだね。ノア、彼女をこちらに呼んできてくれ」
美青年が、隣にいるノアと呼ばれた男性に言った。ノアは、35歳あたりだろうか。外見からして、そのくらいだった。
「分かった」
とノアは承諾する。そして、地下空間の出入り口から、外へ出た。この出入り口は、カモフラージュされていて、素人には見つけられないようになっている。さらには、侵入者を撃退するシステムまで配備されているというものだった。
「救世主か・・・、ついに私の子ともいえる人物との対面となるな・・・」
とノアはつぶやきながら、南木に近づいていった。そして、南木に声をかけた。
「南木千早さんか・・・。私は、君をここへ呼び出したものだ。頼みがある。力を貸してくれ」
と。南木は、突然声をかけられて、少し驚いていた。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、しばらく考えた。そして、夢の声と同じような声をしていることに気付いた。南木は、ノアの言うことは本当だと確信し、ノアについていった。少し疑いと警戒の目を向けていたが・・・。
カモフラージュされたドアを開けて、2人は地下空間の中へ入っていった。そして、地下空間にたどりついた。南木は、あたりを見回していた。そして、かなり驚いていた。まさか、新瀬戸市の地下にこのような空間があるとは、と。地下空間には、建物が1つポツンとあった。しかし、それは地下空間が大きいからポツンと見えるだけであって、建物が小さいというわけではなかった。建物は、かなり大きく、南木の予想を超えていた。
「カイン、千早さんがお見えだ」
「そうか、すぐ行く」
と、ノアはポケットにある電話のようなもので、何か連絡を取った。電話は、南木が見たこともないほど、小型化されていた。なぜ、このような高度な文明が地下空間に存在するのか―。南木はそう思った。
しばらくたってから、カインが現れた。そして、カインは、南木にこういった。
「ようこそ。千早さん。いや、今は救世主ヤペテと呼ぶべきかな?」
救世主・・・。何やらとんでもない話になりそうだ、と南木は思った。もう、後戻りのできないところまで来てしまったのかもしれない。ボクは、重要な仕事をしなければならない。南木の心を不安が支配した。
南木千早。一人称は「ボク」、いわゆるボク少女ってやつですよ。コナンの越水・世良の影響もありますね。でも、萌えを狙っているわけではありません。理由は、主に2つ。1つ目は、救世主が二人とも女性なので、一人称を別にした方が区別が付くから。2つ目は、ただ単に一人称が「ボク」の人物を書きたかったからです。
次は、カインとノアの目的が明かされます。戦争もまもなく始まっていきます・・・。ちなみに、巨大ロボットの登場はありませんので、ご了承を。