10 絶たれた道 ~降伏拒否~
※一部、残酷な描写があります。ご注意ください。
ケープタウンの地下避難所にいた住民を全員殺害した第1分隊は、ハデスの命令により3つに分けられた。本隊、アピントン方面隊、ポート・エリザベス方面隊に分けたのだ。本隊は、ブルームフォンテーンへ向かうことになった。
「明日は、ブルームフォンテーンへ向かう!今日はゆっくりと休め!」
とハデスが兵士に向かって言った。と言っても、直接ではなく無線機越しだったが。その一方でハデスは夜襲対策もした。敵は、技術力の差を戦術で補ってくるだろうとハデスは読んでいたのだ。いくら技術力の差があろうとも、奇襲をかけられると不利になってしまう。敵が決戦兵器を投入した場合には、損害は免れない。ハデスは、兵士をあまり失いたくなかった。部下にも家族がいるのだ。そのことを考えると、戦死者はなるべく少なくしたかった。だから、ハデスは奇襲を警戒していた。
しかし、ハデスの様子はアフリカ方面軍には伝わっていなかったようだ。ハデスが情報の流れをストップしたのである。つまり、ハデスが奇襲を警戒していたことを知らなかったのだ。だから、ウィナーは、
「今夜、夜襲をする。準備しておけ」
と指示をした。だが、この作戦に反対する者もいた。敵は夜襲の備えをしているだろうと考えていた人もいたのだ。しかし、ウィナーは決断を変えなかった。夜襲部隊をつくり、出撃させた。夜襲部隊の戦闘機には
特殊爆弾を載せた。夜襲が成功すれば、敵に大打撃を与えることができたはずなのだが・・・。
「分隊長!北東の方角から空軍が接近中です!おそらく、夜襲部隊かと思われますが・・・」
とハデスの部下が報告にやってきた。報告を受けたハデスの口には笑みが浮かんでいた。敵は夜襲をしてきたのである。ハデスの読み通りだった。ハデスは、迎撃部隊に出撃させるように命令した。そして、轟音とともに、戦闘機が飛び立っていった。夜襲部隊を迎撃するために。
「大変です!敵機が前方にいます!夜襲作戦は読まれていたようです!」
と夜襲部隊指揮官からの叫び声ともとれる報告があった。ウィナーは、驚いた。まさか、敵が夜襲に気付いていたとは・・・。ウィナーは、敵は油断していると考えていた。それだけに、驚きも尋常ではなかった。普通に戦闘をすれば、必ず負ける。そう思ったウィナーは、夜襲部隊に退却を指示した。そして、夜襲部隊は退却を始めた。しかし、それに迎撃部隊が攻撃した。次々と夜襲部隊の戦闘機は撃墜されていく。やっとのことで、退却に成功した戦闘機もエデンの戦闘機に追われていた。エデンの戦闘機は、ブルームフォンテーンを空から攻撃した後、プレトリアに向かった。
プレトリアは、地下緊急避難所計画実施都市だった。つまり、地下に避難所があるということである。アンダーシェルター計画は、想定外の危機が起きた時の避難所を地下に建設するというものである。地下避難所には、一般人が避難していた。さらに、司令部も地下にあった。この施設を守るように特殊装甲があった。この特殊装甲は、核兵器による攻撃を受けたとしても、損傷率は最大50%という優れものだった。軍人は、この特殊装甲に自信を持っていた。だから、特殊装甲がある限り、自分たちは安全と思っていたのである。
プレトリア上空に着いたエデン軍の戦闘機は、高威力爆弾での攻撃を始めた。特殊装甲は次々と破壊された。特殊装甲は20枚あったが、そのうちの10枚が既に破壊されていた。残りの特殊装甲が破壊されるのも時間の問題だった。
「・・・仕方ない。L.F.爆弾を使用する、何としてでも敵を撃退するのだ!」
焦ったウィナーは、地球一と言われる威力の爆弾の使用を許可した。これを使わなければ、プレトリアは陥落する。そう考えてのことだった。プレトリアの西方にある第6航空基地からL.F.爆弾を積んだ戦闘機が飛び立った。そして、プレトリア上空のエデン軍戦闘機を捕捉することに成功したのだ。地球軍の戦闘機は、エデン軍戦闘機の上の方から、L.F.爆弾を投下した。L.F.爆弾は、プレトリア上空で爆発した。地上にもその炎が届くほどの爆発だった。そして、プレトリア上空には何もなくなっていた。エデン軍戦闘機は、蒸発したのである。L.F.爆弾はそれほどの威力を持つものだった。しかし、その代償として、投下地点付近への影響があった。炎により、植物は焼き尽くされ、水は蒸発してしまう。つまり、核兵器のような汚染はないが、生物が住めない土地にしてしまうのだ。そのため、あまりむやみには使えなかった。
「なかなかやるねぇ・・・、これが最終兵器か・・・」
ハデスは、前方の蒸発した戦闘機を見て、独り言を言った。そして、ケープタウンへと引き上げていった。L.F.爆弾の攻撃により、兵士が不安になり始めたからだった。士気が下がった状態での総攻撃は、損害が大きくなると判断したのだ。
翌朝、エデン軍本隊の起床は早かった。理由は、ブルームフォンテーンへ総攻撃をかけるためだ。素早く準備をして、本隊は進撃を開始した。陸空同時展開で総攻撃をするのだ。と言っても、陸軍は飾りに近かった。ハデスは、陸軍が本格的に戦うことはないだろうと考えていた。空軍が敵に大ダメージを与えれば、敵は出撃できないと推測したのだ。
そして、空軍がブルームフォンテーンに攻撃をし始めた。無人のビルが次々と破壊されていく。住民は、既に避難したあとなのだ。地球軍兵士は、空からの攻撃に次々と倒れていった。しかも、援軍はまだ来ないようだった。急いで、援軍要請をしたが、間に合う確率は低かった。
「ここまでか・・・」
ブルームフォンテーン守備軍の指揮官がつぶやく。兵士たちも同じ思いだった。そして、緊急会議で決まった方針は、降伏だった。抵抗しなければ、殺されないだろう。そう考えたのだ。そこで、すぐに白旗が揚げられた。さらに、外交官を派遣し、降伏の意を伝えた。ハデスは、降伏を表す文書を受け取ると、
「下らん!」
とだけ言い、文書を破り捨ててしまった。さらには、驚く外交官に向かって銃を向けた。外交官は、両手を挙げ、抵抗しないことを示した。だが、銃声は響くこととなった。ハデスは、銃の引き金を引いたのだ。外交官は、心臓を撃ち抜かれ、絶命した。鮮血が陣営臨時司令室の床を染めていった。ハデスは、兵士を呼び、血と死体を片付けるよう命令した。そして、何事もなかったかのように、座った。
「遅いな・・・」
守備軍の指揮官は、派遣した外交官の帰りが遅いことに不安を抱いていた。敵の攻撃は、一旦止まったが、油断はできなかった。なにしろ、相手は地球外からやってきたのだ。地球の戦争のルールを知っているはずがない。だから、何をするか分からなかった。
「まさか、外交官は殺されたのか・・・?」
と一瞬、恐ろしい考えが脳裏によぎったが、すぐに消えていった。いくら、地球外の者とはいえ、外交官を殺すようなことはないだろう。そう考えていたのだ。
その時、大きな揺れと音が守備軍の司令室を襲った。敵の攻撃が再び始まったのだ。指揮官は、エデン軍に対して強い怒りを感じた。敵が攻撃したということは、降伏を拒否したということなのだ。さらに、外交官が帰ってこないのは、殺害されたということだ。敵は、そこまで野蛮で礼儀知らずなのか。指揮官は、絶対にエデンを倒すと、心の中で誓っていた。
「プレトリアからの援軍です!援軍が来ました!」
通信士の声で、司令室の雰囲気が少し明るくなった。援軍が来て、希望が見え始めたのだろう。その希望が一瞬で打ち砕かれるとは知らずに・・・。
援軍は、エデン軍に対して攻撃を開始した。遠距離からの砲撃でエデン軍の戦闘機を撃墜しようと考えたのだ。しかし、その砲撃は全く効果がなかった。命中はするものの、全く壊れない。対空爆弾も使用したが、変わらなかった。そこで、援軍はL.F.爆弾を投下した。夜襲のときのように撃退するつもりだった。だが、ハデスはこれを察知した。そして、ブルームフォンテーン上空にいた戦闘機を後退させたのだ。この時、L.F.爆弾は投下された後だった。敵に悟られないよう、エデン軍戦闘機のはるか上空から落としたのだ。L.F.爆弾は予定通り、ブルームフォンテーン上空で爆発した。しかし、そこにはエデン軍の戦闘機はいなかった。攻撃は失敗だった。それどころか、L.F.爆弾による爆炎がブルームフォンターンを襲った。地下施設に損傷は無かったが、地上施設は全壊した。自爆したようなものだった。
援軍は、すぐに去っていった。エデン軍による攻撃を受けて、援軍の80%が壊滅したのだ。退却するしかなかった。この援軍の退却で、ブルームフォンテーン守備軍の士気は大きく下がった。兵士は、皆落胆し、勝利への希望を失った。
そして、士気を失ったブルームフォンテーン守備軍に総攻撃がかけられた。無論、守備軍が勝てるわけもなく、全滅した。ブルームフォンテーンの地下避難所にいた住民も皆殺しとなった。
「なんと・・・、降伏を拒否していたのか・・・」
部下からの報告を聞いて、ウィナーは驚いた。降伏を拒否して、攻撃したということに。そして、なぜエデンは地球人を皆殺しにしているのか、という疑問が浮かんできた。そこまで、地球に恨みを持っているのだろうか・・・。しかし、地球がエデンに対して何も悪いことをしていないのは事実だ。ということは、何か別の目的があるのだろうか・・・。
「集めた血と内臓は、第30番倉庫に保管しました。生物保護モードにしましたので、劣化はかなり遅いと思います。あとは、生命の木だけですね・・・」
イヴの報告をアダムが満足そうに聞いていた・・・。
次回予告
「要塞都市 ~決戦、プレトリアⅠ~」
第1分隊の本隊は、プレトリアに向かって進撃した。そして、プレトリアで戦いが始まる。要塞システム・アフリカ方面軍VS第1分隊本隊。果たして、勝つのはどちらなのか・・・?
作者より:更新頻度が極端に落ちています。すみません。飽きっぽい性格なので。できるだけ努力していきますので、よろしくお願いします。ちなみに、次回のサブタイトルは、新世紀エヴァンゲリオンの第6話のタイトルからきています。