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私は異世界でも推し活がしてぇんすよ

作者: 宮田花壇
掲載日:2026/10/18

約6千字。※普段の作品より主人公のテンション高めです

 私は前世で、いわゆるアイドルオタクだった。


 特にまだ売れていない頃から応援し、少しずつ人気が出て、やがて大きなステージに立つようになる。その成長を見守るのが何よりの生きがいだった。


 もちろん、ライブにも足繁く通った。グッズも買った。新曲が出れば発売日に手に入れたし、推しがテレビに出演すると聞けば、どんなに疲れていても絶対に見逃さなかった。


 そんな私だったが、ある日突然、交通事故で命を落としてしまった。そして気がつけば、剣と魔法が存在する異世界に転生していたのである。


 いやー、人生何があるかわからないものだ。


 前世の記憶を持ったまま異世界で生まれ育った私は、幸いにも大きな不自由を感じることなく、すくすくと成長していった。ところが、二十歳になった今、私には一つだけ重大な悩みがあった。


 それは――。


「……推しがいない」


 そう。この世界には、アイドルがいないのだ。


 もちろん、音楽そのものは存在している。歌劇もあれば、舞踏会もある。街へ出れば吟遊詩人が歌を披露しているし、貴族の屋敷では楽団が演奏することも珍しくない。


 ちなみに、レコードだってある。テレビこそ存在しないものの、蓄音機を使えば家でも好きな音楽を楽しめるのだ。


 だが、肝心のアイドルがいない。


 若い男の子たちが、おそろいの衣装を身にまとい、歌って踊る。キラキラした笑顔で観客を魅了し、ファンたちはお気に入りのメンバーを見つけて夢中になる。


 そんな素晴らしい文化が、この世界には存在しないのである。


「なんてもったいない……!」


 私は自室のソファに腰掛けながら、思わず頭を抱えた。


 イケメンはいる。音楽もある。ダンスだってある。それなのに、どうしてアイドルだけが存在しないのだろう。


 前世であれほど楽しかった推し活が、今世では一切できないなんて。このまま私は、推しのいない人生を送らなければならないのか。


 …………。


「いや、待てよ?」


 ないなら、作ればよくない?


「……よし、決めた!」


 こうして私は、異世界でアイドルを作ることにした。ちなみに、思いついてから決断するまでに要した時間は、わずか十秒ほどである。


 でもさ、しょうがなくない?


 だってこちとら、とにかく推し活がしてぇんすよ。ならもう、やるしかないじゃないですか。


 幸いにも、私は貴族令嬢だ。自由に使えるお金もそれなりにあるし、家の伝手を使えば音楽家や舞踏の教師を雇うこともできる。つまり、資金も人材もどうにかなりそうなのだ。


 あとは肝心のアイドル候補を探すだけ。


 というわけで、私はさっそく行動を開始した。


 向かった先は、領内にある孤児院である。


 ここには、親を亡くした子供たちが大勢暮らしている。私は以前から寄付をしていたこともあり、院長とは顔見知りだった。


「というわけで、男の子を数名引き取りたいんですけど」


「は、はあ……。それは構いませんが、いったい何をなさるおつもりで?」


「アイドルにします!」


「あいどる……?」


 院長は不思議そうに首を傾げた。


 まあ、そうなるよね。


 私は簡単に事情を説明した。若い男の子たちで歌と踊りのグループを作り、街の人々に披露する。もちろん衣食住はこちらで面倒を見るし、仕事としてきちんと報酬も支払う。


 説明を聞いた院長は、最初こそ戸惑っていたものの、やがて興味を示してくれた。子供たちにとって、新しい働き口が見つかるのはありがたいことらしい。


 さっそく希望者を募ってもらったところ、五人の男の子が名乗り出てくれた。


 年齢は十四歳から十七歳。見た目も性格もバラバラだったが、全員に共通していたのは、歌うことが好きだということだった。


「えっと……でも僕たち、歌手みたいに上手なわけじゃありませんけど」


「大丈夫! 好きって気持ちがあるなら、きっとなんとかなるよ! 歌も踊りも、これから練習すればいいから!」


「でも、貴族様の前で歌うなんて……」


「違う違う! 貴族の前だけじゃなくて、大勢のお客さんの前で歌うんだよ!」


 私の説明に、五人は顔を見合わせた。まだ何をするのか、よくわかっていないらしい。


 まあ、いいでしょう。詳しいことは、これから教えてあげますとも!


 こうして五人は私の屋敷へやってきた。


 まず最初にしたのは、彼らに名前をつけることである。せっかくアイドルになるのだから、ファンに覚えてもらいやすい名前がいい。


 いろいろ考えた結果、私は五人をそれぞれ、レオ、カイ、ルカ、フィン、ニコと名付けた。もちろん本人たちにも気に入ってもらえたので、これで正式決定だ。


 そして、次に取りかかったのは――。


「よし! 髪の毛を染めよう!」


「「「「「えっ!?」」」」」


 五人が揃って驚きの声を上げた。


 ふふふ。驚くのはまだ早いぞ、少年たち。


 この世界には魔法がある。髪の色を変えるくらい、専門の魔術師に頼めば簡単にできるのだ。


 というわけで、私はさっそく魔術師を呼び、五人の髪をそれぞれ別の色に染めてもらった。


 レオは赤。カイは青。ルカは黄色。フィンは緑。そしてニコはピンク。


 見事に五色の髪色を手に入れた少年たちを前に、私は思わず感動してしまった。


「おおおおお……! いい! すっごくいい!」


 ちなみに、五人とも元々は黒や茶色といった普通の髪色だったのだが、そんなことはどうでもいい。


 アイドルには担当カラーが必要なのである。


「お嬢様、どうして髪の色を変える必要があるんですか?」


「よくぞ聞いてくれました、レオ君! それはね、ファンが自分の好きなメンバーを応援しやすくするためだよ!」


「応援……?」


「そう! 例えば赤色を見たらレオ君を思い出す。青色を見たらカイ君を思い出す。そうやって、それぞれの色がファンにとって特別なものになるんだ!」


「はあ……」


 レオはまだよくわかっていないようだった。


 まあ、今はそれでいい。そのうちわかるようになるさ。


 さて、メンバーが揃ったところで、いよいよ本格的なアイドル育成の開始である。


 とはいえ、私自身は歌も踊りも素人だ。


 前世で何百回とライブを見てきたので、どんなパフォーマンスが格好いいかはわかる。だが、それを自分で作れるかと言われれば、話は別である。


 なので、そこは専門家に任せることにした。



 まずは作曲家を呼び、曲を作ってもらう。


「どのような曲をご希望でしょうか?」


「明るくて、テンポがよくて、何度も聴きたくなる曲がいいです! あと、サビは一度聴いたら覚えられるような感じで!」


「さび……?」


「あー、曲の中で一番盛り上がるところです! そこを何度も繰り返して、みんなで歌えるようにしたいんですよ!」


「なるほど……」


 作曲家はしばらく考え込んでいたが、私の希望を理解すると、さっそく曲作りに取りかかってくれた。



 次はダンスである。


 こちらも舞踏の教師に依頼したのだが、最初はずいぶん困惑された。


「五人の少年が、同じ動きをするのですか?」


「そうです! しかも歌いながら!」


「……歌いながら踊るのですか?」


「はい! それも、ビシッと動きが揃っていると最高です!」


 この世界にも踊りはあるが、主流なのは舞踏会で踊るような優雅なものだ。歌劇なら歌と踊りを組み合わせることもあるものの、五人の少年が揃って踊りながら歌うという発想は、どうやら珍しいらしい。


 私は前世で見てきたアイドルのパフォーマンスを思い出しながら、身振り手振りで説明した。


 全員が一斉に腕を上げる動き。メンバーが順番に前へ出てくる演出。サビでは誰でも真似できるような振り付けを入れること。


 すると、教師は目を輝かせた。


「なるほど! それは面白そうですね!」


 おおっ、わかってくれましたか!



 こうして曲とダンスの制作が始まった。


 ちなみに、衣装についても仕立屋に依頼済みである。


 基本はおそろいの服装にしつつ、それぞれの担当カラーを取り入れる。レオは赤、カイは青という具合に、誰がどのメンバーなのか一目でわかるようにした。


 もちろん、デザインにも妥協はしない。華やかで、格好よくて、何より五人がステージに並んだときに映える衣装にするのだ。


 そんなこんなで、準備は順調に進んでいった。



 そして、そこから約三か月。


 私が思っていた以上に、五人は立派なアイドルへと成長していた。


 最初は歌うだけで精一杯だったのに、今では踊りながらでもしっかり声を出せるようになっている。しかも、メンバーそれぞれの個性も見えてきた。


 レオは頼れるリーダー。カイは少し無口だけれど、踊りのキレが抜群。ルカは明るく元気いっぱいで、フィンは普段おとなしいものの、歌声がとても綺麗。そしてニコは、誰もが思わず笑顔になるような愛嬌の持ち主だった。


 いやー、我ながらいいメンバーを集めたものだ。もはや、どの子を推せばいいのかわからない。


 ……ならば、全員推すしかないじゃないですか!



 さて、そんな五人も、いよいよ初舞台を迎えることになった。


 場所は王都の中央広場。


 普段から人通りが多く、休日には大道芸人や音楽家が芸を披露している場所だ。私は広場の一角を借り、小さなステージを用意してもらった。


 もちろん、演奏を担当する楽団も手配済みである。


 あとは本番を迎えるだけ。


「みんな、準備はいい?」


「「「「「はい!」」」」」


 うむ。いい返事だ。


 しかし、さすがに緊張しているのか、普段より表情が硬い。特にフィンは、何度も手を握ったり開いたりしていた。


「大丈夫だよ、フィン君。三か月も頑張ってきたんだから、きっと上手くいくって!」


「……はい。ありがとうございます」


 フィンが小さく笑った。


 うっ……かわいい。


 これは絶対に成功させなければ!


 私は胸の中で固く誓い、五人をステージへと送り出した。


 そして、ついに初ライブが始まった。


 最初に演奏が始まると、広場を歩いていた人々が何事かと足を止めた。


 それもそのはず。普段なら楽団だけが演奏しているところに、今日は色とりどりの髪をした少年たちが五人、揃いの衣装で立っているのだ。


「なんだ、あれ?」

「ずいぶん派手な格好ね」

「歌劇の宣伝かしら?」


 そんな声が聞こえてくる。


 しかし、次の瞬間。


 レオが一歩前に出て、歌い始めた。それに合わせて、ほかの四人も動き出す。


 五人が同じタイミングで腕を振り上げ、ステップを踏み、軽快な音楽に合わせて歌う。


 すると、どうだろう。


 それまで通り過ぎようとしていた人々が、次々と足を止め始めた。


「おおっ……!」

「なんだ、あの踊りは!」

「すごい! 動きが揃ってる!」


 周囲から驚きの声が上がる。


 ふふふ。そうでしょう、そうでしょう。


 これがアイドルというものですよ!


 曲が進むにつれて、観客はどんどん増えていった。特に反応がよかったのは、やはり若い女性たちだった。


「あの赤い髪の子、格好いい!」

「私は青い髪の子が好き!」

「見て! ピンクの子、こっちに手を振ってくれた!」


 きた。


 きたきたきたきた!


 これですよ! 私が見たかった光景は、まさにこれなんですよ!


 そして、曲はいよいよサビへと突入した。


 五人が横一列に並び、息の合ったダンスを披露する。軽快なリズムに合わせて、観客たちも自然と手拍子を始めた。


 最初は数人だけだった手拍子が、やがて広場全体へと広がっていく。


 それに気づいたルカが、嬉しそうに笑った。続いてニコが観客へ手を振ると、今度は大きな歓声が上がった。


「きゃあああっ!」


 黄色い声援である。


 いやもう、これだけで私は泣きそうだった。


 しかも、ふと周囲を見渡してみると、楽しんでいるのは大声で歓声を上げている女性たちだけではなかった。


 少し後ろのほうでは、小さな子供たちが五人の振り付けを真似して踊っている。その隣では、母親らしき女性が手拍子をしながら笑っていた。


 広場の端に立っていた年配の男性も、最初こそ怪訝そうな顔をしていたものの、今では音楽に合わせて楽しそうに足でリズムを取っている。


 さらに、少し離れた場所には、静かに微笑みながら五人の姿を見つめている女性もいた。


 うんうん、いいね。こういうの、すごくいい。


 推し活なんて、楽しみ方は人それぞれだ。声を張り上げて盛り上がるのもいいし、一人で静かに見守るのもいい。大切なのは、自分が楽しいと思えるかどうかなのだから。


 そして、曲が終盤に差しかかる頃には、観客たちがサビの一部分を一緒に歌い始めた。


 それだけではない。


 今回は名前を覚えてもらうため、五人の胸には名札を付けていた。それを見た観客たちが、次々とその名を叫び始めたのである。


「レオー!」

「カイ様ー!」

「ルカくーん!」

「フィンー!」

「ニコくん、こっち向いてー!」


 おおおおお!


 なんということでしょう。初ライブにして、早くもここまでの一体感が生まれるだなんて!


 私は感動のあまり、思わず両手を握りしめていた。


 やがて曲が終わると、広場は割れんばかりの拍手に包まれた。


 五人は驚いたように観客を見渡していたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。そして、揃って深々と頭を下げる。


「ありがとうございました!」


 その瞬間、再び大きな歓声が上がった。


 でもって、それに加えて――。


「もう一曲!」

「もっと聴きたい!」

「もう一回やってー!」


 なんと、観客たちから追加公演を求める声が上がったのである。


 ……えっ。アンコール!?


 異世界初ライブで、いきなりアンコールですか!?


 すごい! すごいぞ、みんな!


 ただ、一つだけ問題があった。


 実は今回、用意していた曲は一曲だけなのである。だって初ライブだし。そもそも、ここまで盛り上がるとは思っていなかったのだ。


 うーん、これは完全に計算外だった。


 とはいえ、ここで終わるのももったいない。私は慌てて楽団にお願いし、もう一度同じ曲を演奏してもらうことにした。


 すると、どうだろう。


 二回目だというのに、観客たちは先ほど以上に盛り上がったのである。


 サビでは手拍子が揃い、五人の名前を呼ぶ声もどんどん大きくなっていく。中には、すでに振り付けを覚えて一緒に踊っている子供までいた。


 ……なんだこれ。めちゃくちゃエモいじゃないか。


 こうして、私たちの初ライブは大成功に終わったのである。


 ちなみに、ライブ終了後も大変だった。


 ステージから降りてきた五人の周りには、たちまち大勢の観客が集まってきたのだ。


「ねえ、あなたたち、普段はどこで歌っているの?」

「次はいつやるの?」

「この曲のレコードは売っていないのかしら?」


 質問攻めである。


 中には、レオやカイの手を握って喜んでいる女性までいた。


 うむうむ。いいぞ、もっとやれ。


 ……あ、でも、ちゃんと順番は守ってくださいね。


 さすがに五人が困ってしまうので、私は途中から間に入って対応することにした。


 なお、次回公演については未定。レコードについても、今のところ発売予定はないと伝える。


 すると、観客たちは口々に「絶対にまた来るわ!」「次も見に来る!」と言ってくれた。


 そんな光景を眺めながら、私は思わず頬を緩めた。


 ああ、いいなぁ。やっぱりアイドルって、本当に素晴らしい。


 久しぶりに体感したこの空間――空気感を、もう二度と手放したくない。


 となれば、次のライブも早く開催しなければ。


 今度はもっと大きな会場を借りて、観客をたくさん集めたいなぁ。いや、でも、その前に新曲を用意しないと。せっかくレコードがある世界なんだし、デビュー曲を発売するのもいいよね。


 そうなるとジャケット用の肖像画も必要だし、宣伝用のポスターも作りたい。それからグッズ販売も始めたいな。五人の似顔絵を使った商品とか、担当カラーのリボンとか、絶対に人気が出ると思う。


 あとはファンクラブも作っちゃおう! 会員限定の特典を用意したり、五人の近況をまとめた会報を発行したり。いやー、夢が広がりますな!


「……ん?」


 そこで私は、ふと我に返った。


 ライブ会場の手配に、新曲制作、レコード販売、グッズ制作、ファンクラブの運営。


 …………。


 あれ? 私、推し活がしたかったんだよね?


 これって、推し活っていうか……。



「……完全に、プロデューサーじゃね?」


良かれと思ってパーソナルカラーを授けた結果、アイドルというより、若干スーパー戦隊みが出てしまったかも……と書いてから我に返りました


最後まで読んでいただきありがとうございます。よろしければ、ぜひ下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
異世界でアイドルを作るという物語にワクワクしました。 ライブは見事大成功。 主人公は今後忙しくなりそうですね(笑)
主人公の名前はメリーさん?
是非、連載で読みたい面白さでした。 最後でふと我に返ったところも良かったです。
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