理屈の壁
二つ目の窓口に近づき、レイトンは再び穏やかに声をかけた。
「失礼します。私と、こちらのミキちゃんの話を物語にしたいんですけど、こちらでよろしいでしょうか?」
職員は、怪訝な目を向けてくる。
「……はぁ?アンタ、わかってんの?うち、ライトノベルだよ?」
強い言葉が、再び空気を切り裂いた。
「ま、またダメなの……?私のせい……?」
ミキちゃんの目に、涙が滲む。
職員は、鼻で笑うようにして続ける。
「いや、お前はいいよ。頭空っぽで、思った事、すぐに口にするからな?ライトノベルのど真ん中だ」
レイトンが声を上げる。
「失礼ですよ……!ミキちゃんは、頭空っぽなどではありません! 私の講義をしっかり理解してくれているんですよ!?ミキちゃんは、まだ一年生なんです……!」
職員は、レイトンを睨みつける。
「うるせぇ!お前だよ!お前のそういう理屈っぽい所が、ラノベじゃねぇんだよ!」
言葉は、まるで編集部のデスクから投げつけられた原稿のように鋭い。
「……えっ?原因は私ですか?」
レイトンは目を丸くする。
職員は、矢継ぎ早に続ける。
「なんだよ、お前のこのわっかりにくい授業はよぉ? 始めから、そのミキちゃんだっけ……?その子に説明したので言えばいいじゃねぇか?なぁ〜んで、こんな小難しい説明してんの!?こんなんじゃライトノベルの読者層は離脱するんだよ!読者が求めるのはテンポだ!萌えだ! サービスシーンだ!哲学なんか誰も求めてねぇんだよ!」
一つ一つの言葉が、冷たい蛍光灯の下で跳ね返る。
商業の論理が、容赦なく二人の上に降り注ぐ。
「わ、私が原因ですか……も、申し訳ありません……」
レイトンは頭を下げた。
職員は、最後に吐き捨てるように言う。
「売れない物語は、存在する価値がないの!それがラ〜ノ〜ベ!」
言葉は、冬の霧のようにではなく、もっと現実的で、もっと乾いた風のように、二人の背中を撫でた。




