冷たい雪
二人はジャンル受付所に入った。
そこには、無数の窓口が並び、それぞれの職員が、静かに、あるいは苛立たしげに座っていた。
レイトンは一つの窓口に近づき、穏やかに声をかける。
「失礼します。私と、こちらのミキちゃんの話を物語にしたいんですけど、窓口こちらでよろしいでしょうか?」
窓口の職員は、ゆっくりと視線を上げ、表情を変えずに答えた。
「……こちらは純文学の窓口です。貴方達の物語は、とてもではありませんが、純文学とは呼べませんね」
淡々とした声。感情の起伏がほとんどない。
「なんで!?レイトン先生、哲学のお話をしてるよ!?」
ミキちゃんが小さな声で抗議する。職員は、わずかに目を細めただけだ。
「……説明を加えることで、難解さが失われてしまうのです。純文学とは、言葉の奥に潜む沈黙をこそ描くものです。貴方の存在が、その沈黙を破壊していますね」
職員は、更に続ける。
「純文学とは高尚であります。娯楽を求めに来る者は、ここに立つ資格はありません。筋など、関係ないのです。芸術性こそが全てです。私小説以外は、純文学とは認められません。売れない事に美徳があるのはお分かりでしょうか……?それは川端康成の『雪国』を十回読まなければ、理解など出来ません」
言葉は一つ一つ、ゆっくりと落ちる。
まるで、古い批評書のページをめくるような、冷たいリズム。
息つく間もなくではなく、間を置いて、確信を持って刺す。
「そ、そんな……」
ミキちゃんの瞳に、涙が滲んだ。
「あっ、ミキちゃん、ごめんね。先生が窓口を間違えちゃったみたいだ……あっちの窓口に行こうか……」
レイトンは肩を落とし、ミキちゃんの小さな肩に手を添え、優しく別の窓口へと導く。
背後から、職員の声が、静かに追いかけてくる。
「……お帰り下さい。純文学とは、価値観を変えるものでなければならない。変わらない物語は、存在する価値がない」
言葉は、冬の霧のように、ゆっくりと二人の背中を包んだ。
その冷たさは、熱い怒りよりも、ずっと遠く、ずっと深い。




