『採録家』
「はぁ、はぁ・・・・・・おかしい。こんなの聞いていない」
バスターソードの重々しく、鋭い刃先が振り下ろされる。その濁流のような手数に眼球が四方に引っ張られる。
『オレ達ぁ、勇敢なプロテクター。ゴミは?』
『削除!』
『虫は?』
『駆除!』
『敵は?』
『排除!』
『そうさぁ、何人もここを侵しはさせないさー』
大袈裟に歌う筋骨隆々のゴブリン達。
まるで小学生が木の枝ではしゃぐように私に向かって大きな剣を振るう。
はあ、今日はこんなんばっかりだ。
色々と言いたいことはあるけど━━
『さぁ、今日も愉快に勤めを果たすんだぁー』
とりあえず、その不快な歌をやめろ!
3時間前
私たちは、一角がガラス張りの白い部屋に集められた。
「よく来た!新卒クローラ共。お前らは今から、オレと一緒にある星に行き、そこで新人研修を受けてもらう!返事は?」
「ハイッ!」
「そこはサーイエッサーだろうが!」
「サーイエッサー」
前に立つ男は、堂々とした様子で檄を飛ばす。
「・・・・・・軍隊かよ」
確か、私はごく普通の就職活動をした気がしたんだけどな。場所、間違えたかな。
「よぉし、お前ら。これからあのSBRPに乗ってもらう」
SBRP、私の頭に新たな疑問の芽が生まれるのをよそに男は説明を続ける。男が指差した方を見ると、ガラス面の奥に尖頭状のものが見えた。
「うわー、見て。ロケットだよ!僕、実物初めて見たよ」
眼鏡をかけた男の子が隣で小さく騒いでいた。
「ロケットというか、ロケットえんぴつ・・・・・・」
彼の言うように確かに、その大きさはロケットなんだろうけど、不自然に入った横線と、筒の長さに子供の時に遊んだ文具にしか見えなかった。
「SBRPつまりスペシャルビッグなロケットえんぴつに乗って━━」
おっと、ロケットえんぴつ合ってた。ていうか、名前ダサッ。
「先輩、ちょっと待ってください!」
すると、突然、隣ではしゃいでいた男の子が声を上げた。
そうだ、言ってやれ。男子たるもの浪漫は大切だ。
「あのロケットに乗るんですか?訓練もなしに?ワープとかで移動するのではないのですか?」
その言葉に、周囲がざわつき出した。私は別の意味でざわついた。
あっ、名前のことじゃないんだ・・・・・・。
「甘ったれたことを言うんじゃねーぞ。クロちゃん」
「クロちゃん?」
「えっ、私?」
「待ってオレ、言ってない」
またしても、ざわつく同僚達。そう、私たちに固有の名前はなく、皆がクローラであり、番号で識別される。ちなみに私はf-13だった。つまりは同じクローラである目の前の軍人も━━
「クロちゃんだと、先輩もそうですよね?」
勇者が現れた。
突如、向けられた剣先に魔王も激怒、かのように思えた。
「えっ、俺もクロちゃんなの?まだまだ現役でいける感じ?」
「・・・・・・・・・・・・」
魔王の巨大な力により時が止まる。目を瞬かせながら、首を傾げる姿にその場の誰もが引いた。これには流石の勇者も剣をおろすしかなかった。
「ゴホッン。えー、ワープについてだったな。お前ら、今から未知の星を探索しに行くんだぞ?そんなところにワープ施設があると思うか?答えは当然ノーだ。ライバルもいるんだ、さっさと乗り込め!それと、俺のことはオジェットと呼べ!」
魔王改めて、オジェットは捲し立てると先を急いだ。
私たちは彼の背中を追いかけ、渋々ロケットえんぴつに乗り込んだ。
1時間後
やばい、吐く。
ロケットえんぴつ・・・・・・想像以上に危険な代物だった。まるで脳みそを置き忘れたような感覚だ。すごいグラグラする。
「うぉえ、はあ。とんでもない速さだったね」
クロちゃんこと眼鏡くんがえづきながら、近づいて来た。
口元拭いてからこい!と内心思いながら、死んだ目を向ける。
「おい、口元をふけ。ちょっと臭うぞ。クロちゃんは無事だったんだね」
「う、うん。フワンさんは、大丈夫じゃなさそだね。本音が口から漏れてるよ」
顔を引き攣りながらも、どこか笑みが絶えない彼は話を続ける。
彼はどうやら空気が読めないらしい。今、それどころじゃないだろうが!
「ここは何処だろうね?まるで地獄のような赤黒い空にゴツゴツとした岩肌の地面。僕たちが求めるものはないように見えるけど。フワンさんはどう思う?」
確かに、輪郭がぼやけた目でもわかるぐらい、ここには何もなさそうだ。終末世界といってもいいくらいだ。
「まぁ、故郷ではないのは確かだよ」
「・・・フワンさん、なに当たり前のことを言ってるの」
コ、コイツ。言いたい放題だな。人が気分悪い中、親切心で会話に付き合ってあげてるのに。それに━━
「・・・・・・そのフワンさんって何?もしかして私のこと?」
「そうだよ。だって君、f-13なんでしょ。ちなみに僕はch-69だから、あながちクロちゃんは間違ってないんだ」
お前のクロの由来はそこじゃないだろ!と、まだ出会ったばかりなのに心からそう思える。
「そう。クロちゃんはもっと自分を見つめた方がいいかもね」
「えっ、どう言う意味?」
それから、うざったく絡んでくるクロちゃんをいなしながら人が集まっているところに向かう。その中心には、オジェットが腕を組み立っており、そして私たちが乗って来たロケットの先端部分が転がっていた。
「やっと揃ったか、卵ども。チンタラしている暇はないぞ。これからワープ装置の設置を行う。お前らは、各地に散り、作業が終わるまでにこの星の情報を集めてこい!」
すると、ロケットの先端部分から胸を震わすほどの重低音が鳴り響く。そして大きな駆動音と共に先端部分が花開く。花弁は一つの独立した足となり、遂には立ち上がった。その姿はまるで巨大な蜘蛛のようだった。
「おおおおおー!」
これには、思わず声が上がる。
「すごい。ねぇ、すごいよ。おかしいと思ったんだ。あんなスペシャルビックなダサい名前じゃない。スパイダーボット。多脚型はいいぞ!」
隣のクロちゃんのテンションも爆上がりだ。今にも踊り出しそうなぐらい、腕を振り、感動を噛み締めている。それはそうと、やっぱりダサいと思っていたんだ。
「おい!見惚れてる場合じゃないぞ。早く持ち場に行け!」
オジェットの怒号に私たちは蜘蛛の子を散らすように持ち場に向かった。
「持ち場って言うけど、地図もないのによく言うよ。とりあえず、みんなと違うところに来てみたけど、ほんと何もないなこの星」
改めて、復活した目で周囲を見渡すが、ゴツゴツとした岩肌が広がるだけ。たまにドーム状の起伏があるが入口があるわけでもない。
「よし、戻ろう」
「待って。ここに文字が書かれているよ」
「・・・・・・よし、戻ろう」
誰かに引き止められた気がしたが、気のせいだろう。これ以上の探索は時間の無駄というものだ。それにもうワープ装置が設置された頃だろう。
「いや、いや、無視しないでよ。見えないのここに文字が刻まれているんだよ。記録しないと」
「・・・・・・何でいるの?」
私は単純な疑問を投げかけた。クロちゃんは当然のように私に付いてきていた。正直、彼が近くにいるのは嫌な予感がする。
「あ、相変わらず、ひどいな。こう言う探索は複数で行うのが定石でしょ。それに仕事はちゃんとしないと。僕たちは情報を集めるためにここにいるんだから。もしかして、まだ酔ってるの?お酒はほどほどにね」
「お酒は飲んでないし、もう酔ってない。相変わらずなのはお互い様だからな。この際だから言うけど、一々棘のある言い方しやがって、お前は私のオカンか?」
「僕はどっちかと言うと男だけど」
はあ、コイツといると疲れる。それに文字が見えていないわけではない。その文字はそもそも文字なのかも怪しいのだから。
「もういいよ。それで、クロちゃんはこの文字のように見える模様を読めるんだよね?」
「読めないよ」
「時間返せよ」
そう答えた彼はさも当然かのように無垢な表情を浮かべていた。
━━よし、戻ろう。
「待って、フワンさん。読めないけど、解読方法は知っている。こういうのは、文法ごとに区切れば読めるんだよ」
「いや、そんな外国語じゃないんだから。それに文法知らないじゃん」
「大丈夫、大丈夫。わかるから」
何一つ分からんが、どうやら大丈夫らしい。
私の不安をよそに、彼はそのまま足元の石ころを拾い、文字と文字の間に線を刻んでゆく。
そして、今に至る。
「おい!クロちゃん。このゴブリンミュージカルの責任取れよ!」
「ゴブリンミュージカル?」
「ゴブリンミュージカルって何だよ!」
「フワンさんが言ったんだろう。分かったよ。ほら、見て。みんなの姿が見えてきたよ。もう大丈夫だね」
コイツの大丈夫は信用ならないが、確かにゴールは目の前のようだ。後ろから襲い追いかけてくるゴブリン共もあの巨大な蜘蛛の足で串刺しにされるに違いない。
「お前ら、よく見とけよ。星に危害を加えるとああやって、セキュリティが出てくるから気をつけろよ」
「オジェットさん。それ、最初に言ってくださいよ」
「悪い、忘れていた」
「・・・・・・」
「俺らの仕事は記録することだからな。下手に干渉することは許されていない。干渉すれば、ああなる。あいつらに感謝しとおけ」
「助けなくていいのですか?」
「安心しろ、何とかなるから」
「何とかなるって何だよ。その何とかを説明しろ!」
オジェット達が悠長に話す傍ら、こちらの状況は何一つ変わらない。依然、危機が迫っている。
「クロちゃん、どうやら助けてくれないらしい。どう━━あっ!」
隣を走るクロちゃんの足がもつれ、ひどく転んだ。
そして、機を熟すのを待っていたゴブリンが、剣を振り下ろす。
「そんな不安な顔をしないで。責任取れなくて、ごめんね」
くそ、やっぱりコイツの大丈夫は信用ならない。
私は、それでも、と手を伸ばした。
━━ピンポンパンポン
『全クローラに告ぐ。ワープ装置の設置が完了いたしました。規定に則り、直ちに撤収してください。これより採録を行います。繰り返します。規定に則り、直ちに撤収してください。』
「えっ、何?放送?」
「・・・・・・なんか鳴ってるね」
「待って、うそ」
「あれ?もしかして助かった?」
ゴブリン達は、何事も無かったように背中を向ける。
『お疲れでした』
そして、首だけで振り返り、短く挨拶を残すとそそくさと帰って行った。
「え、あ。お疲れ様です。・・・・・・・・・・・・えっ、終わり!?」
困惑する私たちをよそにオジェットの大きな声が聞こえてくる。
「よぉし。お前ら帰るぞ。お疲れ様!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私はクロちゃんの方を見ると彼もこちらに気まずそうな視線を向けていた。
「・・・・・・かっこよかったよ」
「うるさい。そういとこだぞ」
私は顔に熱が籠るのを感じながら、先ほどの出来事を振り返してくる相変わらず空気の読めないクロちゃんを起こした。
そして━━
「言い忘れていたが、次の現場は1時間後だからな忘れるなよ!」
・・・・・・この職場もどうやらおかしい。
隣で笑みを浮かべ歩くクロちゃんをよそに、これから待ち受けることを想像すると重くなった足取りで私はワープ装置をくぐった。
編集点
◯全体
コメディチックにするには、間やセリフの短文化を意識。説明臭さをなくす。
・・・・・・NG集みたいのを期待したけど、難しい




