第1話:静かな微笑みの始まり
気がついた時、私は一冊のライトノベルの世界に転生していた。
しかも、主人公を苦しめ、物語の途中で破滅する運命を背負った
――悪役令嬢として。
感情に流され、嫉妬し、敵を作り、自滅する。
それが、この物語における「悪役令嬢」の役割。
けれど私は知っている。
この世界の未来も、登場人物たちの選択も、
そして――自分が迎えるはずの結末さえも。
ならば、答えは一つ。
騒がず、争わず、目立たず。
静かに、確実に、運命の外側へ踏み出せばいい。
これは、聖女にも、王子にも気づかれないまま、
世界の流れそのものを掌握していく
“静かな悪役令嬢”の物語。
破滅ルート?
ええ、最初から回避するつもりよ。
第1話:静かな微笑みの始まり
目を開けた瞬間、私は理解してしまった。
——ここは、あの本の世界だ。
天蓋付きのベッド。重厚なカーテン。指先に触れる絹の感触。
そして、鏡に映る少女の顔。
黒く艶やかな長い髪。静かに光を宿す紅い瞳。
整いすぎていない、しかし確かに美しい輪郭。
私は知っている。この顔を。
悪役令嬢。
物語の中盤で主人公を妬み、愚かな選択を重ね、最後には破滅する存在。
——その名を、ヴィルシア・ナイトローヴ。
思わず、喉が鳴った。
(……最悪の役だわ)
この世界は、私が前世で読んだライトノベルそのものだった。
聖女が光に選ばれ、王子に愛され、世界を救う——
そんな“正しさ”のために、踏み台として用意されたのが、私の今の立場。
けれど。
私は、ベッドの上で静かに微笑んだ。
「……なるほど」
叫ばない。取り乱さない。
なぜなら、結末を知っているから。
悪役令嬢が破滅する理由は、力が足りないからじゃない。
感情に溺れ、敵を作り、無駄に騒ぎ立てるからだ。
(なら、逆を行けばいい)
鏡の中の私は、穏やかに、しかし確信を持って微笑んでいる。
聖女に敵対しなければいい。
王子に執着しなければいい。
“物語通り”に振る舞わなければいい。
この世界は、小説という形で完成している。
だからこそ、そこから一歩外れた行動は、誰にも読めない。
コンコン、と控えめなノック。
「お嬢様。朝のお支度を」
——来た。
物語が、動き出す合図。
私は背筋を伸ばし、ゆっくりと立ち上がった。
恐怖はない。不安もない。
あるのは、静かな決意だけ。
「ええ。すぐ行くわ」
悪役令嬢として生きるのなら。
愚かに滅びるつもりは、最初からない。
私は静かに微笑み、物語の舞台へと歩き出した。
——これは、誰にも気づかれず世界を掌握する、悪役令嬢の物語。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この物語は、
派手に戦う悪役令嬢でも、
感情を爆発させる復讐劇でもありません。
静かに、慎重に、
誰にも気づかれないまま運命を塗り替えていく――
そんな悪役令嬢の物語です。
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次話から、物語はゆっくりと動き出します。
彼女の選択が、この世界にどんな歪みを生むのか。
どうぞ、最後までお付き合いください。




