報告書番号:10103 : 「天竜川を渡れ」(3)
「13分隊、総員集合!横二列整列!」
斉藤伍長が号令をかける。
直後に隊員達が横二列に集まり、俺も後方の列の端に並ぶ。
「遅くなったが、儂が分隊長を務める斉藤や。
よろしく頼む。
まず、先日の戦いで、皆が居た部隊に大きな損失が出た為、
急遽、分隊として再編された為、初めての顔もいるやろうが、
お互い協力していってほしい。」
斉藤分隊長からの挨拶が始まり、
俺が所属する部隊が即席の再編部隊だという事が告げられる。
「「「はいっ!!」」」
隊員全員が返事を返す。
「次に、勝利の為だと勝手に死ぬな。生きていれば、勝機はある。いいな!」
一瞬、周囲の隊員がざわつく。
「だからと言って、儂の部隊にいる間は、お前達が勝手に行動するのも許さん。
肝に銘じておけ!!」
「返事!」
分隊長から即座に返事を求められる。
「「「…はいっ!!」」」
分隊長の気迫に押され、隊員全員が返事を返した。
「早速、今回の作戦やが、
輸送部隊の天竜川東岸地域への通路確保の為、北側の幹線道路にある橋の確保が目的や。
天竜川から西側地域は、先日の戦闘で、ほぼ制圧出来てはいる様やが、
革命軍の残党が居る事も考慮して、それらを排除しながら進む事になる。
橋に関しては、現在、革命軍が占拠しているが、
先日の戦闘で、相手の戦力も、相当削られていると考えられる。
そこで、儂等の部隊と、後続になる7小隊と連携して、橋の確保を目指す事になる。
何か質問はあるか?」
「分隊長。ほな早速やが、うちの補充は新兵一人しかおらんのか?
お前さん、入隊は何時や?」
隊員の一人が、呆れた様に分隊長に質問し、俺に入隊時期を訊ねてくる。
「今年の一月下旬に入隊しました。」
俺は、俯き気味に申し訳なさそうに話す。
「はぁ!?ほとんど素人同然やないかい!」
訊ねてきた兵士が、呆れた様に声を上げる。
「言いたい事は解る。上にも掛け合ったが、
儂等と7小隊合わせて新兵一個小隊分が精一杯の様や。」
分隊長は、少し苦々しい表情をしながら、質問した兵士に答える。
「それと中村、お前は俺の隣に居ろ。わかったな。」
睨みを利かした分隊長が、俺に対し隣に居る様に命じる。
「新入り、頼むから儂等に向かって撃つ真似なんてせんでくれよな。」
質問した隊員が呆れかえった様な返事を返し、
また、他の隊員も俺に向ける視線が冷たく刺してくる。
「お前等ええか、0600時に行動開始や。
それまでに準備を済ませておけよ!」
分隊長が行軍の準備を済ませるように促す。
隊員各々が、愚痴等を漏らしながら支度を始める。
「間もなく時間や、準備はええな!?」
行軍前の準備の確認が聞こえてくる。
「は、はい!」
準備に気を取られていた俺は、号令に遅れて返事をしてしまう。
「ワレ、しっかりせんか!」
分隊長からの激が飛ぶ。
そして、他の隊員の失笑が漏れる。
作戦開始直前に俺達は準備を完了し、静かに歩き出す。
一瞬後ろを振り返ると、同期達の居る7小隊の姿も見える。
先日までの戦闘で路面は土で覆われ、土埃が舞う。
歩き始めて直ぐに橋が見えてくる。
ここが軍事境界線の「都田川」だ。
橋を渡れば敵国である「日本人民共和国」の領地に入る事になる。
その先を見れば、荒れ果てた幹線道路を除けば未舗装の道が続いている。
川沿いから吹く早朝の涼しい風が、橋の上を通り抜ける。
そして、敵国の地に足を踏み入れた。




