5.もしもし-急の仕事が入ったからちょっと連絡を取ったんだけど-
全43話予定です
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マタル・ハキームにその連絡が行ったのは、彼が寝ていたまさにそんな時である。
[トゥルルルルル]
電話の呼び出し音にマタルは目を覚ました。
――おいおい、誰だよこんな時間に……ってまぁ、昼間なんだがね。
………………
マタルが活動するのは夜間が多い。それは生業が日の当たらない裏道の仕事だからである。もちろん、今は表向きの仕事がある。エルミダス基地に食材を仕入れるという仕事だ。それにしたって彼の雇い主が用意してくれたものなのだが。
そもそも今の雇い主とこの関係になったのも、マタルが裏仕事、つまりは誘拐、強盗などに手を染めていたからに他ならない。
そこで彼は[たまたま]両親が不在だった家に押し入り[たまたま]十歳の女児を連れ去って帰り[たまたま]十歳の人間を探しているという団体の存在を知っていて、そこにたまたま[彼]がいたからなのだ。
そこで見初められたマタルは、裏仕事をしつつも同盟連合軍に所属するという不可思議な体験をする。軍所属とは言うものの、実質的にどこかの基地に専属で居る訳でもない。やっている事と言えば、今まで通りの人さらいの他に情報収集が増えた、というところか。もちろん軍からも給金は出たので、マタル的にはかなり生活に潤いが出たと言うべきだろうか。
彼の雇い主は、
[オレはね、きみのような人材がちょうど欲しかったんだ。人さらいや汚れ仕事をビジネスと割り切ってやれる、表の通りを歩くのではない、裏通りを歩く存在をね。人さらいの他にもイロイロやってるんでしょ?]
と言っていた。それに対して、
[その辺りはもう調べてある、という事か。で、オレは軍に入って何をすればいい? こんな日陰を歩んできたこのオレに何が出来ると言うんだ?]
そんな質問をした記憶がある。
その答えは、
[軍に入る、と言っても最前線で鉄砲を持って戦え、と言いたい訳じゃあない。それなら他の人間でも出来る。オレがきみにやってもらいたいのは、汚れ仕事や[モグラ]だ]
そういわれて今の関係が成立したのである。
そこからはとんとん拍子に話が進んだ。通常なら身辺調査含めて念入りに行われる軍の入隊試験も免除され、一応の証である軍曹の階級が与えられた。だが、その階級だって雇い主が用意したものだ。そして当時、中東の都市に駐留していた同盟連合の所属になったのである。だが、やっている事と言えば情報収集と人さらい、それに小遣い稼ぎの[クスリ]なんかの売買と。雇い主とは時々電話で話をしていたが、その際に一度だって[それはやりすぎじゃあないの?]と言われたためしは無かった。
ある時、
[籍だけとはいえ、本当にオレは軍にいて大丈夫なのか]
と尋ねた事がある。その答えは、
[きみがオレたちを裏切らなければ大丈夫。オレは何も綺麗な人間が必要だ、なんて言った覚えはないけど?]
と返された。
――まぁ、どの国にも裏家業は必要、ってところか。それにしたって同盟連合の法律でなくともこんなの、捕まえればよくても終身刑だろうに。
………………
等とは思いもしたが、今は少なくともこの関係を保とうと考えて、
「もしもし」
と電話に出るのだ。着信の相手番号はちゃんと通知が出ている。もちろんマタルはその番号を以前に調べはしたが、現在は使われていない番号だった。それも、使用履歴すらも残っていないほど昔に全世界から[廃棄]された番号だったのだ。
しかし今も現にこうやって同じ番号からかかってくるのである。
[寝てた? ゴメンね。どうしても急の仕事が入ったからちょっと連絡を取ったんだけど]
相手はいつも同じトーンで喋る。不快にならない程度の明るさが声ににじんでいる。それは余裕のようにも感じられるから不思議だ。
そんな[彼]が言う要件、それは、
「共和国の内情を調べてほしいんだよ。政治的なところを。近々何かしでかすとか、そういう話を。もちろん噂程度でもいいし]
「ああ、裏が取れればベストなんだろ? 分かったよ。そうだ、前にもらった情報は流していいんだな?」
と尋ねれば、
[もちろん。そのための情報だからね。じゃあ、期日なんだけど三週間を目安に。あぁ、言い忘れてた。もう一つ調べてほしいことがあるんだ。ちょっと難しいかもしれないけど]
そうして話はまとまったのである。
全43話予定です




