4.秘策、ですか-[彼]にはちゃんと伝わっているはずだ-
全43話予定です
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「秘策、ですか」
――私はてっきり二国間協定が秘策だと。
確かにクロイツェルはミーティングルームで[秘策がある]と言っていた。その場にいたクラウディアたちにしてみれば、おそらく誰もがその可能性について思いを巡らせただろう。だが事実、クロイツェルはそれ以上の話はしなかった。ただ[これで同盟連合に一泡吹かせられそうだ]と言っていたのが印象に残っている。
だから、
「閣下には二国間協定ではない目的がある、というのですね? 釣り糸というのがよく分かりませんが、少なくともその釣り糸で釣れるのは同盟連合だ、と」
ととりあえず返してみる。そんなクロイツェルは、
「そう、さっきも言ったがハナから共和国になど機体をタダでくれてやるつもりはないし、そもそも共和国にはまだ何も伝えてさえいないからな。三国会談と言ったが、そもそも共和国はこの話をまだ知らないのだよ」
――えっ? じゃあ会談は行わないの?
クラウディアの顔にはそう書いてあったのだろう、
「三国で会談を行うか、行わないかは同盟連合次第だな。さて同盟連合の諸氏はこのメッセージをどう捉えたのか。クラウディア君のように思ってくれればこちらの勝ちだよ」
と、やはり笑みを浮かべている。
「お聞きしますが、釣り糸はわが軍のレイドライバー、釣る相手は同盟連合。では釣れるものは一体何なのでありますか?」
クラウディアはそれが知りたいのだ。
そんな彼女に、
「ここで全部を話してしまってもいいが、んーそうだな、いい機会だ、きみも少し政治のことについて学んでみたまえ。何、答えはじきに出るはずだ、それまでの宿題にしておこうじゃあないか」
クロイツェルはよくこうしてクラウディアに質問を投げかけるのを好む。それは別に偉ぶりたがりという訳ではないのだろうが、よく疑問を疑問形で返す傾向があるのは確かだ。
現に、
「私にはさっぱりで」
と言っているクラウディアに、
「当事者には分かる話なのだよ。よく[相手の立場に立ってものを見なさい]などと言うが、まさにそれなのだ。同盟連合は今頃大騒ぎだぞ。見られるものならその騒ぎを是非、間近で見てみたいものだな。少なくともこちらの仕組んだ意図は[彼]にはちゃんと伝わっているはずだ」
――彼? まさかカズという名の、あの隊長なの? 彼はそれだけの権力がある、と?
「閣下の言っておられる彼、というのはカズ中佐のことですよね? 彼は」
「カズ中佐は同盟連合国内部でそれだけの発言権がある、と私は踏んでいる。もしかしたら、彼がレイドライバーという兵器の主導者なのかも知れない、そう考えているよ」
と返してから、
「どちらにせよ[彼ら]は情報が欲しいはずだ。そう、じきにまるで酸欠の魚のように水面に浮いてくる。だからこの際に浮いてきた魚の粛清も兼ねているのだよ」
そう言うクロイツェルの表情は変わらない。やはりチェスをやっているプレイヤーのように表情一つ変えない。椅子に座り、ひじ掛けに腕をやり、顔を斜めにし顎を乗せて少しばかり遠くを見ている。そして、その彼が[粛清を]と言っているのだ。それはもう国のトップが言っているのと同義である。
――間違いないでしょうが、念のため。
「大統領は、それを?」
と聞けば、
「もちろん、いつものように[きみに任せるからよろしく]と言われたよ。やり方も好きにしていい、と」
それほどクロイツェルという人物は既に国のトップにいる、いやトップと同義の裏返しでもあるのだ。
「ああ、知っていると思うが、わが帝国は共和国にも同盟連合にもそれとなく[モグラ]を忍ばせている。彼らの情報はとても重要だ。まぁ、同盟連合はさすがに硬いが、この前の戦闘と照らし合わせても共和国がいまだに脳科学の発展が遅れているのも知れたしな。その辺りは引き続き潜らせておくことにする」
と言ってから、
「おそらくは機体のバラしと組み立て、それから情報を取るための時間的猶予を加味して、生体コンピューターの食料が尽きる頃の、今からだいたい一か月後、といったところだろうよ。その間に何をして、どう動くのか。まぁ、こっちは仕掛けた側だ、ゆっくりと鑑賞していようではないか」
――同盟連合が相手、か。いっそ相手の機体でも釣れれば。
クラウディアはふとそんなことを考えたが、彼女も帝国の人間だ、クロイツェルにはああは言われたものの、直ぐにその思考というものに蓋がかかる。帝国というこの国では余分なことをすれば直ぐに粛清が、無期限の強制労働が待っているのだ。
それでもクロイツェルは[柔軟に物事を捉えよ]と言っている。その柔軟な思考は、純粋な意味では国のトップくらいしか出来ないのだろう。もしかしたら、国のトップでさえ。
――そう言えば大統領という方には直接お会いしたことがない。どんな方なのか。やはり相当にして頭のキレる方なんだろうな。
そんな事を考えながら、クラウディアは今日の執務に同行していった。
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