35.本名は教えるつもりです-じゃあ、アルカテイルからゼロフォーを呼び戻して-
全43話予定です
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「本名を知ったら、ですか? それは……」
どうやらそこまで口にしてアイザックにも伝わったようである。その答えの前に、現在のサブプロセッサーたちの置かれている状況の説明が必要だろう。
………………
ここでひとつ、カズが昔に行った実験の中に、実際に人間の四肢を切断したあと表皮を削ぎ感覚器官をすべて奪い、まばたき一つ出来ないようにて、レイドライバーのコアユニットと同様の環境下に置いて暗室に放置するだけ、というものがあった。
その四体には一切刺激を与えなかった。
まだ第一世代が主流で、レイドライバーの中にはパイロットとその近親者であるコアユニット、それに自我を失った生体コンピューターと呼ばれていた、のちのサブプロセッサーが搭乗していたのだ。自我のあるサブプロセッサーというのはゼロゼロが初めてである。それまでは自我を保った状態での生体コンピューターの埋設という技術がなかったのだ。
戻って、戦争だって毎日やるもんじゃあない、待機状態を想定しての事である。自我のない方はいいとしてもコアユニットは四肢を切り落とされただけで中身は意識もちゃんとしている人間たったのだ。
一週間ごとにその四体に質疑応答をして、精神が保てているかどうかを専門的に分析してみたのである。[実験]には当然、実戦を想定して女性を使用した。四体、それだけの命をそこですでに使っているのだ。
その結果を言えば[半年]であった。
人間は常に外界から刺激を受けていないと生きてはいけない生物のようである。
まず、二か月目あたりで二体に異常が見られた。最初は軽微な、軽いうつ病に似たような症状だったが、三か月、四か月と経つにつれてまた一体、残る一体もどんどん生気がなくなっていった。そして半年、どの個体も判断能力も、思考能力も使い物にならないレベルになったのである。つまり心が[壊れた]のだ。
そして、一度[壊れた]ものは二度と元には戻らなかった。
これらを踏まえて、実戦配備されたサブプロセッサーやコアユニットにはそれぞれ娯楽が与えられるようとになったのである。
具体的にはどの機体のサブプロセッサーも、基本インターネット接続をしている。もちろんある程度の閲覧制限はかけているというものの、インターネット回線の個人使用が許可されているのだ。なので、音楽サイトに行って音楽を聴くのも、動画サイトに行って動画を見るのもほぼ自由に行える。
もっと言えば[食事]は脳髄液に似た特殊な液体を使用して摂取、排泄物をこちらに回すように常に循環させているのだが、時間になると[食事]を摂れるようになったのである。
具体的には[食事]の味を生命維持装置に組み込まれているコンピューターから発して味覚を感じさせ、それと同時に少しずつ満腹中枢を刺激するのだ。そうするとあたかも[食事]を摂った感覚になる。
そうやって娯楽を、食事を摂らせると自我の崩壊を少しでも防ぐのに繋がるという結論に至ったのである。現物の躰がある環境に出来るだけ[似せた]環境を作ってそれらを与えるのである。
なので、彼女たちは脳だけの存在になっても自我を保っていられるのである。
裏を返していえば、これだけの被検体の犠牲のもとで同盟連合の脳科学はそこまで進化したのである。
………………
カズや[襟坂]、それにアイザックの頭の中に浮かんだ[ゼロフォーに本名を教えてもいいか]という問題。それは自分で自分のルーツを知ることが出来るという点だ。もちろん閲覧制限を掛ければバレはしない、と思うが、現にゼロフォーは以前[自分のルーツに興味がある]という趣旨の話をしている。
しかし、両親や兄があんな死に方をしたと知ったなら? ゼロフォーにとって知らなくてもいい情報だってある。
――まぁ、いずれは到達する領域なら。
カズは、
「本名は教えるつもりです。そしてルーツも。しかしそれを調べる許可を与えるのは帰って来てから、それも[お土産]を持って帰って来てから、という条件を付けます」
そうすれば時間稼ぎにもなるし、ゼロフォー当人にしてみれば[頑張って情報収集を]という気持ちにさせるであろう。
まずはゼロフォーに任を託す、そういう話でまとまったのである。
「じゃあ、アルカテイルからゼロフォーを呼び戻して」
そう、アルカテイル基地にはサブプロセッサーを扱える、研究所付きの整備士が派遣されているのだから。
全43話予定です




