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28.なぁ、オレもちょっと吸っていいか?-か、帰りの手配は良いのかい-

全43話予定です


曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)

※特に告知していなければ毎日投稿です


「もちろん裏が取れている話じゃあない。今の帝国は[人狩り]が酷くてね。なじみの客を何人か逃がしたときに聞いた話だ」


 女はそういうと話を始めた。


「ただ国外に逃がす、というのは簡単な話じゃあない。流す側の体制、受け入れる側の体制ってものが必要だ。それをタダでやるほど私らはお人よしじゃあない」


 と言われなくともそれくらいまでなら分かる。実際、マタルだってそれなりの[モノ]を支払ってここにいるのだから。


「それで?」


「その中には高級官僚もいた。まぁ、どこで知ったのかは知らないがわざわざスラムまで出かけてきて[助けてくれ]って袖を掴まれたさ」


 女は煙草をひと吸いするとフーっと吐き出して、


「帝国は人型で釣りをしたがっている。共和国に渡すのが嫌なら同盟連合はそれと等価のものを、つまりは人型を差し出せ、と言っているんだよ。まぁ、帝国にしてみれば同盟連合が動揺してくれるのが一番嬉しいらしい。動揺してボロを出せばさらに御の字だ、と」


 ――こりゃあ、大変なことを聞いちまったぞ。人型で人型を釣る、か。話によると帝国製は同盟連合製のに比べてちょっと劣るという。それが本当なら、確かに一体くらい天秤にかけてみてもいいと思えるか。


 マタルがそんな思考をしていると、


「裏は取れていないが、例の紙に書いてあった人間の[手間賃]だよ」


 そう女は付け加えるとまた煙草を吸う。


「なぁ、オレもちょっと吸っていいか?」


 とマタルが聞けば、


「自分のを吸いなよ」


 と釘を刺される。それはそうだ、今女が吸っている煙草はマタルも[通貨]として持っている帝国の上ものだ。一本分けてくれ、なんてとてもではないがこの帝国内で言えるものではない。


「ああ、もちろん自分のを吸うよ」


 そう言うとマタルは、同盟連合の本州で製造されている、大昔からあるメーカーの、赤い丸がトレードマークの煙草を一本取り出して火を付けようとしたとき、


「か、帰りの手配は良いのかい」


 と女に聞かれた。その声は少しだけ上ずって聞こえたように思える。だが、その情報だけでマタルには十分だった。


 ――ああ、なるほどね。そういう事なら。


 マタルは、


「確かに、帰りは手配してはあるが、より安全に出してもらえるなら。それもそうだが連れを何とかしてもらえないか」


 マタルはそう言うと自分が持っていた身分証を神父に手渡して、


「これはオレからの[手間賃]だ。見てのとおり移民籍のシロモノだから名前さえ覚えておけば、顔さえバレなければ捕まることはないだろう。本当に助かったよ」


 そう言ってからマタルは女に、


「平服を、目立たない平服を用意してやってほしいんだ。流石に神父の服装じゃあこの先、とてもじゃないが安全に出られるとは思えないからな。だから彼に平服を。オレからのお願い事はその二つかな」


 マタルはそう言って煙草に火を付けてから、


「自分で確かめるといいさ」


 そう告げて残りを女に箱ごと渡す。女はそれをいとおしそうに一本取り出して火をつけ、何口かゆっくりと吸う。それはまるで昔吸っていたかのような穏やかな表情を見せてから、


「懐かしいねぇ。またこれを吸える日が来るなんて」


 と明らかに表情を緩ませた。


「事情は聴かないが、思い出でも?」


 とマタルが尋ねれば、


「私はこれでも旧同盟連合の出身でね。それも米州、そう本州の出さ」


 そこまで言うと女は煙草を惜しげに吹かし、それ以上は口にしなかった。この女にも色々な過去があって、人生の半分以上の時間をかけて今の生活をしている。マタルだって歳こそまだ四十歳そこそこだが、それでも色々な過去があって今を生きている。


 ――人生なんてそんなもんさ。十人十色ってのはどっかの方言だっけか。


 そんな風にマタルが思っていると、


「分かった。これで十分な駄賃だ、全部手配しようじゃあないか」


 そう女は告げたのだ。


全43話予定です


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