25.オレなりのやり方で何とかしてみようじゃあないか-それはウソだな-
全43話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
「で、神父さんよ。これから当てはあるかい?」
ようやく嗅ぎなれた腐敗集のする街角まで来てマタルはそう尋ねる。神父は、と言えばこちらも嗅ぎなれているのか眉間にしわ一つ寄せずに、
「流石に隠れ家の一つくらいは持っているよ。だが」
――こういう時に固定の場所ってのは不便だよな。
マタルはふとそんな風に考えながら、
「オーケーオーケー。じゃあ、オレなりのやり方で何とかしてみようじゃあないか」
そう言うとマタルは自分の持ち物を再度確認する。拳銃にライト、それから身分証。あとは各地で使うお金の類と携帯食が少し。それから帝国製の煙草が数箱。これはいわゆる[ブランドもの]に区分される、庶民が吸うような類のものではない。もちろんそういった庶民向けのものもあと三箱は用意してあるが、
――まっ、この一箱で下手したら安い女一人くらいなら買えそうだからな。
帝国製の、高級煙草を手にそんな事を思う。この煙草にはそれくらいの価値はある、というところなのだ。
しばらく歩くとスラム街へと入る。
スラム街というのはやはり中流階級以上の身分からすれば特別なところだ。腐敗匂と脂の酸化したような匂い、路上に転がっている、生きているのか死んでいるのかすら判別のつかない人間たち。だが、マタルにしてみればこれが日常であり、生きていく上で欠かすことのできない場所なのである。
そんなマタルは手近な浮浪者に、
「この辺り、で、憲兵に邪魔されない、ところ、は、知ってるか?」
片言の帝国の第一言語でそう尋ねる。こんな時にこそ、日ごろから[いろいろと]手を出していた自分に感謝する。マタルの活動エリアは主に中東だが、たまには帝国にも来たことがある。そして日常会話くらいは出来るようになっていたのである。
「あの角を左に折れた一件目、売春宿の一階なら」
と視線を向けてきた。
――それはウソだな。
さっと考えて次の行動に移る。腰に手を回さない辺りは[多勢に無勢]というやつだ。もしもここいらでたむろしている浮浪者たちが一斉にこちらに敵意を向けたら? それこそスラムを逃げ場所に選んだ意味がない。
「しょうがないなぁ」
といいつつチラっと相手を見る。いわゆる値踏みをしているのだ。そして、
「これで?」
と、帝国製の一般人に手が届く煙草を一箱差し出す。相手は直ぐにそれに飛びつこうとするが、
「いやいや、話が先だろ? 流石に、それくらい、は、してくれよ」
と相手をまた見る。相手はどうやらマタルのチラつかせている煙草がとても欲しいようだ。それも今すぐに。
帝国の煙草、それも一般人やスラムの住人の間で出回っている煙草というのは、不純物が多量に紛れている。その多くは[かさ増し]の雑草だったりするのだが、その中には麻薬も含まれている、という話である。もちろんそんな裏事情は帝国の警察だって知っている。だがそれらを取り締まらないのは、いわゆる撒き餌である。少しの不正を見逃して治安を維持する。それが当の取り締まる警察にしても煙草でやり取りを、なんてのが日常だ。
「あの角を右に折れて」
「右に折れて?」
浮浪者の目の前で煙草の封を切る。それをちらつかせながらさらに話を聞くと、
「右に折れて三……」
「三がどうしたって?」
マタルが煙草をポケットに仕舞おうとする。それがチェックになった。
「五件目の売春宿なら匿ってもらえるよ」
と言われたその相手の表情を見つつ、
「そうか、助かるよ、兄弟。ああ、火はサービスだ」
マタルは笑いながら煙草をくわえると火を付けて一服してフーっと煙を吹きだして、火のついた煙草とその箱を相手に渡す。相手は一目散に吸い始める。もしかしたらそろそろ[切れかかっていた]のかも知れない。現に吸い始めると手の震えが収まっていく。
――これが現実さ。どこだって程度の差こそあれど同じようなもんだ。
ふとマタルはそう思う。それは神父を連れているからかもしれない。所詮、神よりも煙草のほうが余程か人を助けるというものなのだろう。
「という訳で神父さんよ、ここまで来たからには」
と切り出すと、
「ああ、一緒に行こう。それに帰る場所もないしな」
そうして二人は目的地へと向かうのである。
全43話予定です




