21.クリス、起動した?-あれからちゃんとした時間が取れませんでしたから-
全43話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
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トリシャはクリスと共にアルカテイル基地へと帰って来ていた。ツーワンとツーツーという新しい体制になって、流石に[慣らし]は必要だと思われたが、そうは言ってもここアルカテイルは帝国と共和国との国境線にある。ワンワン、ワンツーという四つ足が守っているとはいえ増援が到着するまでの間はゼロゼロと一緒に守らねばならない。
――私は、これで良かったんだ。あの方に[調律]してもらって、過去の自分にさよならを言って。
ゼロゼロと交代時間が来たのでツーツーの機体へと滑り込む。
「パイロットの神経系を切断、レイドライバーの神経回路に接続……完了、コンピューターの同期……完了、起動しました、ってこれは本当に」
自分が自発的に言っているわけではない。脳に埋め込まれた生体コンピューターが本体であるトリシャの脳を[操って]発声させているのだ。
今日はツーワンとコンビを組んでの哨戒になる。二人には[索敵している間に少しでも機体に慣れておいて]というカズの言葉通り、二人でコンビを組んでの哨戒となった。
「クリス、起動した?」
トリシャが聞くと、
「ええ、起動しました。そうですね、あれからちゃんとした時間が取れませんでしたから」
と返ってくる。
トリシャは生体コンピューターを埋設するという手術を自発的に受け、この動作に必死で慣れようとしていた。はじめは上手くいかないのがほとんどだった。何せ、ひとたび思考すればそのようにコンピューター側が受け取って目的の行動をとってしまうのだ。だからトリシャがふと[ご主人様にアレコレされたい]と思うと、いわゆる十八禁と呼ばれる画像や文章などが文字通り[頭の中に浮かぶ]のである。その刺激に初めは慣れなかった。
[こんな事考えてるなんて知れたら]
何度そう思ったか。現に、一度だけコンピューターから警告を受けた。それは何気ない思考だったのだ。ただ単に[カズの傍に、伴侶にしてもらえたら]などという決して叶わぬ妄想をしていた時、
[当該思考はパイロットが守るべき規則から逸脱する可能性があります。速やかに思考を停止しなさい]
と[自分の声]で怒られたのだ。ちょうどその時はたまたま傍にいたのがクリスだけだったから良かったのだが。そんな冷や汗ものの場面でクリスは[私も以前はよく自分に怒られていました]と言われたものだ。
そんな話をすると、
「ええ、そんな事もありました。いえ、今でもあります。私はあの方に隷属すると誓ったあの日からご主人様以外は見えていないのですから」
クリスは少し嬉しそうにそう話す。
――あぁ、そうだった。この娘が一番古くからカズに忠誠を誓ったんだっけ。
………………
昔話が話題に出てくる。そもそもトリシャが隷属を誓ったのは、忘れもしないここアルカテイル攻略戦の時だ。あの時、自分は負傷して、のちの第二世代へと続く手術を受ける事になった。そんな中、気が付くとカズとクリスの声がしていたのを記憶している。
[気を遣っていただいてありがとうございます。でも、私はあの時決めたんです[貴方様と一緒なら地獄にだって堕ちよう]と。どこまででも連れて行ってくださいまし、ご主人様、どこまでもついてまいります]
クリスは既に本当の意味で[カズの側]の人間だったのだろう。
――話すなら、今かもしれない。
と思ったトリシャはその時に、
[その話、私も混ぜてくれる?]
と切り出したのだ。
もちろんその後のやり取りは言うまでもない。クリスは動揺し[私のご主人様を取らないでくださいまし]と負傷しているにもかかわらず土下座して見せたのだから。
だが、そのあとの話し合いでトリシャは家族を捨て、カズのモノになると宣言したのだ。
………………
「あの時は本当の意味で[あぁ、クリスは既にカズのモノになっていたんだな]って思ったわよ」
そんな話をしながら全周警戒を二人で分担しつつ模擬戦を行う。二人は第三世代型の実戦配備として、奇しくもサブプロセッサー不足の中で急遽単独配備となったのだ。今までは射撃管制からペインアブソーバー、レイドライバーの挙動に通信までをサブプロセッサーが担ってきた。それが今では自分一人で行わなければならないのだ。
しかしこの二人の脳には高性能な[首輪]が存在する。生体コンピューターだ。これはサブプロセッサーに搭載されているものと同等の性能がある。つまりは指示ミスさえしなければサブプロセッサーに制御を任せているのと同義なのである。
だからこんな模擬戦を哨戒中に行えるのである。
全43話予定です




