11.覚えててくれたか、兄弟よ-当たり前だろ、オレがお前を忘れるはずがない-
全43話予定です
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「久しぶりだな」
その人物は暗いカウンターの奥からぬっと姿を現した。
件の人物は中東の人間の中でもかなり背が高いほうだ、と言えるだろう。風貌は[コイツ何か持ってる]と思わせるほどには睨みが効く、そんな姿をしている。だが、決して威圧的にわめきちらすような感じにも見えない理知的な雰囲気も併せ持つ、そんな感じの人間である。容姿も中東の人間とはちょっと違うように見える。肌の見えるところは地元の人間に合っているようにも見えるが、もしかしたらこれは化粧の一種なのかもしれない。顔立ちからしてもいわゆる異国人なのだろうというのは容易に想像がつく。
見たところ、ここの店を牛耳っているのだろう。もしかしたらこのあたりの人間は彼の庇護下にあるのだろうか。現に先ほどの浮浪者もすんなりと場所を教えてくれた。
そう、マタルはアキムの居場所を知ってて[敢えて]手近な人間に聞いたのだから。そんな何気ない行動にもマタルの情報収集の能力か発揮されているのだ。
「覚えててくれたか、兄弟よ」
マタルは少し笑顔になる。
そんなマタルに、アキムも破断の、とは言わないものの笑顔で、
「当たり前だろ、オレがお前を忘れるはずがない」
と返してくる。そんな返しに、
「ああ、オレもそうだ。一緒に仕事をしたのはもう三年位前になるかな」
とマタルも返す。
………………
マタルは孤児院で嫌というほど[ニンゲン]の本性を見てきた。幸いだったのが、彼自身にはそれほど酷い[視線]を向けられずに済んでいたということだろうか。だが、他の人間たちにその[ニンゲン]たちは容赦がなかった。
そんなある日、一人の背の高い孤児が目を付けられたのである。何のことはない些細なきっかけだった。配給の並び方がどうの、だったか、肌の色が違う、だっただろうか、いつものマタルだったらそんな目を付けられたターゲットに[すまない]と思いながらも目を背けてきたと思う。
だが、その日は少しだけ違った。マタルは毅然と、
[止めろよ]
と[ニンゲン]たちとその孤児との間に割って入ったのだ。だが、多勢に無勢、気が付けば二人してボコボコにされてしまっていた。マタルは体中を腫らしながら、それでも彼を守ったのである。
波が去ったあと、背の高い孤児か、
[大丈夫?]
と声をかけてきたとき、
[あーボコられたけど、お前に行く半分くらいは拾えたかな]
とマタルは腫れた顔で笑顔を作ったのだ。相手も顔を腫らしながら、
[ありがとう]
と手を差し出してきた。
[ところでさ、お前の名前を教えてよ。オレはマタル。マタル・ハーキムって言うんだ。お前は?]
マタルがそう言うと、
[オレはアキム。アキム・ロマーノヴィチ・アドロフと言う]
[なんだ、ハーキムにアキム、そっくりじゃねーか。これからよろしく]
こうして二人は友達になったのである。
………………
アキムはスッとマタルのところまで来つつも、腰に手を回してる取り巻きを制して、
「この人物はオレの大切な友人だ。分かるな?」
と言ったのである。その言葉がすべてだった。気が付けば誰もがマタルから距離を置き頭を下げたのだ。
「いいって。オレはただ彼に会いに来ただけだから」
とそれこそ両手のひらを並べて見せて彼らにコンタクトしつつ頭を掻く。
そんな雰囲気を察したのだろう、
「ここじゃあ何だから、奥に来いよ」
とアキムがカウンター裏を指して言う。指さされたほうにいたマスターらしき人間は、何も言わずにカウンターの脇にある通用口を通れるように開けたのだ。
「んじゃ、お言葉に甘えて」
そういうと二人してカウンター裏へと消えていく。
カウンター裏は、いわゆる売春宿も兼ねているらしい。何かの香のかおりと、様々な声が聞こえてくる。男の声と、女の声と。だが、二人とも気にも留めない。それはそうだ、二人ともそんな光景には慣れっこだからである。マタルにしたってそういう場所での仕事も多い。こんなことでいちいち動揺などしていられるほど暇でもなければ弱くもないのだ。
一番奥の部屋に来ると、
「まぁ入れよ。何もないところだが」
そんな言葉とともに手招きされる。
――まずは第一段階クリアってところか。[ニンゲン]は今でも反吐が出るほど嫌いだが、仲間は別だ。仲間はどんな時でも大事にしないとな。
そんなことを考えながらマタルは[じゃあ、遠慮なく]と言いながら中に入っていくのである。
全43話予定です




