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第二夜     新たな生活

「おっはーーー!!」


「・・・・・。」


朝、騒音で目が覚めた。

いつもなら5時前には目が覚めているはずなのだが、慣れない環境で目が冴えてよく眠れなかったからだろうか。

目が覚めたら窓は奴によって開け放たれ、かぶっていたシーツも奴によってひっぺがされた。

ユウはむっくりと上半身を起こした。

そして明らかな嫌悪を表情に浮かべて、目の前のオレンジの髪の男に言った。


「出てけ。今すぐに」


「わっ、ひでっ」


「どっちがだ。勝手に人の部屋に入りやがって」


シーツをレンの手からひったくり、ベッドに放り投げる。

ため息をつきながら起き上がり、ハンガーにかけてあったシャツを羽織る。

その様子を、横でじっとレンは見ている。


「何だ。気持ち悪い」


「いや・・・朝ご飯にお誘いしに来たのですが」


「ふーん」


「ふーんじゃなくて、行こうぜ」


がしっと肩を掴まれる。

ユウは不機嫌をそのまま表情に表して部屋から出た。

そこには、アイリスとリリィが待っていた。

不機嫌なユウの顔をのぞきこんで、リリィが苦笑して言う。


「目覚めが悪かったですか?私が起こしに行ってあげたほうがよかったみたいですわ」


「そだねー」


大きくため息をつきながら、金の手すりの螺旋階段を降りて行く。

ここは最上階。

他のフロアは、質より数、といった感じで簡素な部屋が長い廊下に等間隔にずらっとあるのだが、最上階とその下のフロアだけは違う。

部屋自体にはそこまで別段違いはないが、フロアの雰囲気は全く違う。

大理石の床に、装飾の施された黒と白の扉。

ユウの案内された部屋の扉は白で、部屋の中は必要最低限の家具だけだったがユウにとっては十分すぎるくらいだった。

だからユウの部屋はいたってシンプルで、これ以上手を加える気はない。

そしてどうやらこのフロアに住んでいる者達はみな、黒いコートを着ている者だけのようだった。

そのフロアに住むという事は、もしかしたら自分のコートも黒だったりするのだろうか、などとうっすらと考えていた。


「ユウ、制服もらった?」


「まだ」


「じゃ今日もらえんのかな」


「知らね」


「でも、じゃなきゃ今日からだよね、育成部」


その単語には、聞きおぼえがあった。

確か、ウォーレスと星羅の会話でちらっと出てきた。

どうやら話の内容に興味を持った事に気付いたようで、レンがどこか嬉しそうに話しだした。


「育成部は、未成年の戦士や新入りの戦士が魔法を学ぶ、いわば学校みたいなもんかな。ユウは未成年だし新入りだからもちろん入るだろ?」


「・・・・何も聞いてない」


「わからない事があったら何でも聞いて下さいね」


リリィがにっこりと笑う。

その微笑みに何も返さず、ユウはふっと視線をそらす。


「あ、じゃ、そこで他の使徒達にも紹介できるな」


「そだねー。友達いっぱいできるよ!」


友達、ね。

ユウにとってその響きが、あまりよく思えなかった。

正直言って、孤島での暮らしの方がユウは好きだった。

決して自由とはいえなかったかもしれないが、動物達と一緒に家事をして、師匠と修行して、星羅たちと団欒をして。


友達なんて、いらね。


しいて言うなら、動物達が友達だった。

こんな何もわかってないような変な奴等の友達なんて、絶対おんなじような奴らに決まってる。

ユウは大きくため息をついた。







「あ、新入りだ」


「あの噂の最上階の?」


「え、めっちゃイケメンじゃない?」


ユウが教室に入ったとたん、ざわめきが全てユウへ向けたものになった気がした。

さっきウォーレスから受け取ったばかりの黒いコートを羽織っているのがやはりなおさら目立っているようだ。

少し戸惑っていると、レンが背中を叩いて苦笑する。


「まあまあ、こんな若い新入りは珍しいからさ」


「ユウはレンより人気ありそうだねえ」


「う」


確かに、さっきから女の目は全てユウに向けられている。

それのどれもがうっとりとしたような、ユウにしてみればねっとりした目線でただ不快に感じるだけであったがあきらかにユウは人気があるようだった。

どこに行けばいいのか迷っているとレンがユウをひっぱる。


「隣になろうぜ」


とりあえず頷き、レンの隣に座る。

前の方の席だったので、後ろから視線が刺さって来るような気がして後ろは絶対振り向くまいと決めた。

ざっと教室を見渡してみると、部屋の隅にランプがあるだけなので部屋は少し薄暗い。

教室の後ろには棚がずらっと並んでいて、だいぶ埃をかぶっているのでいつもの癖でユウは掃除したくなる衝動を抑えた。

そして長机がずらりと並んでいて、一つの机に2人か3人ついている。

そして誰もが本やノートを持っているのに気付き、手ぶらのユウはハッとした。


「本とかはないだろうから見せてやるよ。多分、そのうちもらえるだろうけどさ」


「あ・・・・ありがとう」


レンはにっこり笑う。

ユウは思わず、ふいと顔をそむけた。

笑いかけられても、笑い返すことができない。

何故かはわからなかったが、ユウは戸惑ってため息をついた。


「お、シンディ達!」


レンが大きな声で、今入ってきたばかりの男女に声をかけた。

レンやユウと同じぐらいの年齢だが、みな黒いコートを着ている。

これが今朝言っていた「友達」なのだろうか。

その中にはアイリスとリリィもまじっていて、みなレンとユウの周りの席に着いた。


「あっ、噂の新入りじゃないですか?」


銀髪の青年がユウの顔を覗き込む。

紳士的な上品な微笑みを堪え、彼はユウに手を差し出した。

ユウはおずおずとその手を控え目に握り返す。

濃紺の瞳が、優しく微笑む。


「カリス=ミエルカルツです。よろしくお願いします」


「あ・・・・どうも」


そして目線をカリスから右にずらすと、そこにいた少女と目が合った。

黒髪を頭で二つのお団子にしていて、顔立ちが東洋系の顔をしていたがあまりユウとは似ていなかった。

目は細くつり上がっていて、今までのレン達がにっこりと笑って自己紹介をしたのに対してその少女は無愛想だった。


「鈴蘭だ。よろしく」


「あ、ども」


握手もせず、それだけ述べると彼女はふいと向こうを向いた。

レン達の友達でも、こんなクールな奴もいるのか。

まじまじと鈴蘭の後ろ姿を見つめていると、突如至近距離に現れた何者かの顔にぎょっとして身をひいた。

それを見てクスクスと笑ったのは、長いブロンドの髪の美女。

初めてみたような、輝く淡いブロンドの長い髪を頭上高く結わえたポニーテールはずいぶんと目立つ。

あまりにも白い肌に抜群のスタイルと、何より同姓さえもまじまじと見てしまうような豊満な胸はどこか師匠を連想させた。


「あ、噂の新人くんじゃない?」


そんなに自分は噂になっているのだろうか。

黙って彼女の顔をじっと見ていると、彼女は微笑む。


「シンディよ。よろしくね」


差し出された手に、ユウは慣れたように握り返した。

シンディはにっこり微笑む。

きれいな人だな、と自然と思った。

シンディが動くたびに、綺麗なブロンドの髪が眩しく揺れる。

何故か彼女の髪から目が離せず、揺れ続けるその髪を目で追っていた。

師匠も星羅も自分も黒髪だったから、眩しい髪の色には思わず見入ってしまう。

やはりこれだけ人が集まると、髪の色も人それぞれなようだ。

ふと、隣の席のオレンジの髪に目がいった。

明るい色。

まるで、コイツの性格を表しているかのよう。

俺もだ。

俺の黒い髪は、俺の無愛想な性格を表している。

何故か妙にみじめになった気がして、ユウはうつむいた。






「いやー勉強って疲れるわ」


レンが欠伸をしながらそう言った。

ユウはアイリスとリリィの姿が見えず、きょろきょろとあたりを見渡す。


「ああ、あの二人はウォーレスに呼ばれてたから任務かもな」


任務。

そうだ、ここは戦闘部隊だ。

ここに入隊した日から、まるで異世界に放り出されたような気分でいた。

周りが何だろうと関係ない。

この組織は世界を救う為にあるだけだろう。


「レン、夕食一緒に食べましょう」


ひょっこり隣に現れたのは、あの綺麗なブロンドのシンディだった。

再び、またあの綺麗な髪に目がいく。

歩いている今、静止することのないその髪はいくら眺めていても飽きなかった。


「もちろんユウも」


名前を呼ばれ、はっとして彼女の顔の方に目線を戻す。

どこか呆れたようにシンディは笑った。


「何を見てたの?」


「いや・・・・・アムリみたいだな、と思って。その髪が」


「あむり?」


「狐」


すると、シンディは目を見開いて無言でいたが、突然ふっと微笑んだ。

隣でレンもおおらかに笑う。


「狐!シンディの髪が?」


「アムリのしっぽの色にそっくり。ふさふさ揺れるところとか」


「まあ、狐のしっぽだなんて言われたの初めてよ」


上品な雰囲気なのに、意外とシンディは無邪気に笑う。

ユウは思わず戸惑って頬がひきつった。

そんなユウにシンディは微笑みかける。


「狐と一緒に住んでたの?」


「いや、他にもいろいろ」


「どこに住んでたのさ」


「・・・・島」


シンディとレンは顔を見合わせて再び笑う。

どういう意味で笑われているのかわからず、ユウの表情はひきつったままだった。


「めっちゃ由緒正しいとこのぼっちゃんみたいな顔なのに、すげー意外!」


「詳しくは夕食を食べながら聞きましょ」


詳しく話さなきゃいけないのかよ、とユウは思わず顔をしかめる。

それに気付いてか気付かずになのか、シンディはまた微笑む。


何がしたいんだこいつ等は?


ユウはどっと精神に疲れが押し寄せてくるのを感じた。


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