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おばあちゃんちの牛乳

作者: しし

「最近、お母さんが豆乳にハマっちゃって、何でも豆乳に変えちゃうんだ。

ホットケーキを作るときもそう。

僕はミルクのほうが好きだから、なんとかスーパーで買ってもらおうとするんだけど、

お母さんは“ミルクはダメ!陽菜のためだよ!”って、ぜんぜん買ってくれないんだよ。」


そんな話をおばあちゃんの家で愚痴った。

おばあちゃんは「陽斗くんも大変ねぇ。でも陽菜ちゃんはアレルギーがあるからね。お兄ちゃん、我慢してて偉いわ。この家ではミルク飲んでいいからね」って言って、パックの牛乳を渡してくれた。

冷たくて、本当に美味しかった。

「よかったら少し家に持っていきなさいね」

おばあちゃんは優しくそう言った。




今日は土曜日で、月に1回の陽菜の病院の日。

僕はおばあちゃんの家でお昼ご飯を食べて、そのまま2人が帰ってくるのを待たなきゃいけない。

おばあちゃんは優しいけど、ゲームもないし、やっぱり家のほうがいいなぁ。

早く帰ってこないかなって思いながら、リビングでゴロゴロしてた。


うとうとしてたら、携帯が鳴った。

お母さんから「3時には家に帰るから、そろそろ戻って来なさい」ってメールが来てた。




「おばあちゃ〜ん、僕もう帰るね〜!」

キッチンの方からおばあちゃんが手を拭きながら出てきた。

「あら、もう帰るの? おばあちゃん寂しいわ。気をつけて帰るのよ。」

そう言って、玄関まで送ってくれた。

「うん、ありがとう、またね!」

手を振って玄関を飛び出すと、後ろから声が追いかけてきた。

「飛び出しちゃだめよ、陽斗くん!」

「はーい!」って適当に返事して、早く陽菜に見せたいなって思いながら走って帰った。




家に帰ると、お母さんと陽菜はまだいなかった。

僕は自分の部屋に入って、おばあちゃんからもらった小さい紙パックのコーヒー牛乳を取り出した。


『茶色だから大丈夫』

だよねって思う。

でもちょっと心配で、自分で確認しようとストローを挿して飲んでみた。

あま〜い。

全然ミルクじゃないよ、これ。

でも本当に大丈夫かな……お母さんに聞いてから陽菜にあげようかな。




急に廊下からバタバタと足音が近づいてきた。

陽菜だ!

慌てて残りを飲もうとしたとき、陽菜が「ばーん!」って言いながら扉を開けてきた。

「あ〜、なんか飲んでる〜! 陽菜も〜!」

そのまま突進してきた陽菜に、僕はちょっと残ってるパックを渡した。


「ちょっとだよ、なめるだけだよ。」

陽菜は「あま〜い!」って嬉しそうだった。

僕はホッとして陽菜の頭を撫でた。




そのとき、部屋にお母さんが入ってきた。

陽菜が何かを口に入れているのを見て、顔色が変わった。


「陽斗、あんた陽菜に何あげたの?」


僕はお母さんを見上げた。

「コーヒー牛乳だよ、茶色だから……」

言い終わる前にお母さんは僕を押しのけて、陽菜を抱き上げた。

陽菜はびっくりして大声で泣き出した。


「なんでなの? なんでそんなことするの?」

泣きそうな声で言いながら、僕を振り返りもせずに陽菜を抱いたまま家を飛び出していった。


僕は押された姿勢のまま、コーヒー牛乳のパックを握りしめたままだった。

陽菜の泣き声が、部屋にずっと残ってるみたいだった。




夕方、お父さんが仕事から帰ってきて、僕を連れておばあちゃんの家に行った。

お父さんもおばあちゃんも優しくしてくれて、僕は泣いてしまった。

陽菜のほうが大変なのにって思いながら、泣いた。




3人でご飯を食べていたら、お父さんの携帯が鳴った。

お母さんからの電話だった。

お父さんは話しながら立ち上がってカバンを持った。

通話を終えると、おばあちゃんに向かって言った。


「陽菜、大丈夫だそうだ。もう今日は帰れるって。俺、車で迎えに行ってくるわ。陽斗、頼むな。」


僕の頭を撫でてから言った。

「陽斗、怖かったよな。ごめんな。ちゃんと説明してなかった父さんたちが悪いんだ。陽菜は大丈夫だからな。すぐ迎えに来るから、4人で帰ろうな。」

そう言って急いで出ていった。


おばあちゃんは「あらあら、ご飯も食べないで。おにぎりでも持たせようかしら、陽菜ちゃん何か食べるものは……」って言いながら、お父さんを追いかけていった。


僕は少し安心して、また泣きそうになった。




おばあちゃんが戻ってきて、ぶつぶつ言いながら僕の肩を抱いた。

「もう陽菜ちゃんも5才なのに、あんなに甘やかして。大人になって食べられなくて苦労するのは陽菜ちゃんなのに、あの子たちったら……」


そして僕の顔を覗き込んで優しく言った。

「ほら、おばあちゃんの言ったとおりだろ? 茶色だから大丈夫だよ。陽菜ちゃんのために陽斗は良いことしたんだよ。お母さんたらひどいねぇ。」


おばあちゃんは台所に歩いていった。


そうかな。

コーヒー牛乳はやっぱり大丈夫だったのかな……。

僕はご飯を食べながら考えた。


台所から、おばあちゃんの小さな声が聞こえた。

「ちょっとずつ食べさせなきゃいけないのよ。昔はそうして治したんだから。今の人は甘やかしすぎだわ。」




ご飯を食べ終わって、おばあちゃんとテレビを見ていたら、玄関から音がした。

陽菜たちだ!


「陽斗〜、ごめんね〜」

お母さんの声がする。

「おかあさーん!」

大きな声で返事をした。




おばあちゃんは僕と一緒に玄関に行って、お母さんにタッパーを渡した。

「これ、シチューよ。お肉もお野菜もたくさん入ってるから、お家でみんなで食べなさい。陽菜ちゃんも元気になるわ。」


お母さんはタッパーを見つめて、頭を下げた。

「ありがとうございます、陽斗をこんな時間まで預かっていただいて、本当にすみません。」


お父さんは低い声でおばあちゃんに聞いた。

「おふくろ、牛乳使ってないよな?」


おばあちゃんは少しムッとした顔をして言った。

「入れてないわよ。まったく、あなたたち神経質すぎるのよ。」


僕はあれ?って思った。

おばあちゃんの家には豆乳はなかったのに。

なのに、どうしてこのシチューは真っ白いんだろう?






幼児期の牛乳アレルギーが5歳くらいで

70%くらいが治癒すると聞いて

書いてみました。

陽菜ちゃんについては、安定はしているが、まだ牛乳を与えて様子を見るレベルではない状態です。

月に1回の通院という箇所に意味を込めました。

治療?を開始するともっと短い周期での通院が必要と聞いたので、

月1ならば、まだまだ牛乳は飲ませられないなと思ってもらいたかったからです。


世代間のギャップや

悪意のない子供への攻撃などをホラーとして書きたかったです。






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