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第十四話:リリアの魔法道具修理と、暴走する便利(?)アイテム

イタチ騒動も一段落し(神棚の周りに吊るした唐辛子が効果を発揮したようで、お供え物がなくなることはなくなった)、鶏石神社には束の間の平和が訪れていた。しかし、その平和は長くは続かなかった。問題は、またしてもリリアが持ち込んだものからもたらされたのだ。

それは、リリアが師匠から預かっているという、いくつかの「便利(?)」な魔法道具の一つだった。見た目は、アンティーク調の小さな砂時計。金色の枠にはめ込まれたガラスの中には、普通の砂ではなく、キラキラと虹色に輝く微細な粒子が入っている。リリア曰く、これは『刹那の砂時計』といって、ひっくり返すと、砂が落ちきるまでの短い間だけ、周囲の時間の流れをほんの少しだけ早めることができる、という代物らしい。

「例えば、お茶が冷めるのを待てない時とか、洗濯物が乾くのを早めたい時とかに、ちょっとだけ使うと便利なんです。……まあ、師匠には『そんなくだらないことに使うな!』って怒られますけど」

リリアはそう言って、得意げに砂時計をひっくり返して見せた。中の虹色の砂が、さらさらと流れ落ちていく。確かに、ほんの一瞬だけ、部屋の空気の流れや、窓の外の雲の動きが、わずかに速くなったような気がした。

「へぇー、すごいコケ! 時間が早く進むコケ?」

コッコは目を輝かせて砂時計に見入っている。

「ほんのちょっとだけですけどね。でも、これがあれば……あ!」

リリアが何かを閃いたように声を上げた、その瞬間。彼女の手元が狂い、砂時計が床に転がり落ちた。

カシャン! という嫌な音と共に、ガラス部分に大きなヒビが入り、中の虹色の砂が一部、畳の上にこぼれてしまった。

「あーーーーっ!! 私の『刹那の砂時計』がぁぁぁ!!」

リリアの悲鳴が社務所に響き渡る。

「ど、どうしよう……! これ、師匠から借りてる大事な道具なのに……! 壊したなんて知られたら、今度こそ本当に……!」

リリアは顔面蒼白になり、壊れた砂時計を拾い上げて震える手で抱きしめている。ヒビの入ったガラスからは、まだキラキラとした砂がこぼれ落ちている。

「落ち着いてください、リリアさん! とりあえず、こぼれた砂を集めましょう!」

ほのかは慌ててちりとりと箒を持ってきた。しかし、虹色の砂は非常に細かく、畳の目に入り込んでしまって、なかなか綺麗に集められない。コッコは「キラキラの砂、きれいコケ……」と言いながら、指でつまんで集めようとしているが、ほとんど遊んでいるようにしか見えない。

「このままじゃダメだ……! 修理しないと!」

リリアは意を決したように顔を上げると、自室から魔法道具の修理キット(金槌やドライバーのようなものから、謎の液体が入った瓶、光る鉱石まで、様々なものがごちゃ混ぜに入っている)を持ってきた。

「魔法道具の修理は専門外なんですけど、やるしかありません!」

リリアは壊れた砂時計を机の上に置き、修理キットの中から小さなドライバーのようなものを取り出して、いじり始めた。しかし、その手つきはやはり危なっかしく、関係ないネジを外してしまったり、部品を飛ばしてしまったりしている。

「うーん……ここをこうして……あれ? この部品、どこにはまってたんだっけ……?」

ほのかとコッコも隣で覗き込むが、複雑な構造(に見える)の魔法道具のことなど、分かるはずもない。コッコは、床に落ちた小さな歯車を拾い上げ、「これ、回るコケ!」と指で弾いて遊んでいる。

「もう! 分かりません! こうなったら、魔法で無理やり……!」

修理を諦めた(?)リリアは、最終手段に出ることにした。杖を取り出し、壊れた砂時計に向ける。

「『原状回復! 傷つきし器、時の砂よ、元に戻れ!』 えいっ!」

杖から放たれた修復の魔法(と思われる)の光が、砂時計を包み込む。すると、ガラスに入っていたヒビがみるみるうちに消え、こぼれていた虹色の砂も、吸い寄せられるように砂時計の中へと戻っていった。

「おぉ! 直ったみたいです!」

リリアは歓声を上げた。見た目は完全に元通りになっている。

「よかった……! これで師匠に怒られずに済みます!」

ほっと胸を撫で下ろすリリア。しかし、ほのかには嫌な予感しかしなかった。リリアの魔法が、そうすんなりとうまくいくはずがないのだ。

「……本当に大丈夫なんですか? 何か、変なことになってたりしません?」

ほのかが疑いの目を向けると、リリアは「大丈夫ですよ! たぶん!」と、またしても根拠のない自信を見せた。そして、試しに、と砂時計をひっくり返してみた。

中の虹色の砂が、以前よりも少しだけ速いスピードで、さらさらと流れ落ちていく。

その瞬間。

社務所の中の時間の流れが、明らかに異常な速度で加速し始めた!

まず、壁にかけてあった時計の針が、猛烈な勢いで回転し始めた。部屋に差し込む太陽の光は、あっという間に角度を変え、窓の外の景色は早送りの映像のように目まぐるしく変化していく。朝から昼へ、昼から夜へ、そしてまた朝へと、時間が一瞬で過ぎ去っていくのだ!

「きゃーっ! なにこれ!?」

「時間が! 時間がめちゃくちゃ早く進んでるコケー!」

ほのかとコッコは、その異常なスピード感に目が回りそうになる。

「わわわっ! やっぱり暴走してます! しかも、前よりパワーアップしてる!?」

リリアは慌てて砂時計を元に戻そうとするが、なぜか砂時計は手に張り付いたように取れず、虹色の砂は止まることなく流れ続けている。

時間の加速は、社務所の中だけにとどまらなかった。窓の外を見ると、境内の木々が芽吹き、葉を茂らせ、紅葉し、落葉するというサイクルを、数秒のうちに繰り返している。鶏小屋のニワトリたちは、猛スピードで卵を産み、ヒヨコが生まれ、あっという間に成長していく(ように見える)。神社の周りだけ、異常な速度で時間が流れているのだ!

「このままじゃ、私たちだけあっという間に年を取っちゃいますよ!」

「おばあちゃんになるの、やだコケー!」

「どうしよう、どうしよう……! 止まらない!」

パニックになる三人。このままでは、鶏石神社とその周辺だけが、世界の他の場所から取り残された、時間の孤島になってしまうかもしれない。

「こうなったら……!」

リリアは意を決し、最後の手段に出た。杖を構え、今度は自分に張り付いて離れない砂時計そのものに向けて、力の限り叫んだ!

「『破壊! 粉砕! 時の狂乱よ、止まれ!』 フルメタル・デストローイ!!」

杖から放たれた、今までで一番強力な(そして物騒な名前の)破壊魔法の光が、砂時計を直撃した。

バリーン!! という派手な音と共に、砂時計は粉々に砕け散り、虹色の砂は光の粒子となって、瞬く間に霧散していった。

そして、狂ったように加速していた時間の流れが、ぴたりと止まった。時計の針は正常な速度に戻り、窓の外の景色も、いつもの穏やかな秋の午後のものに戻っている。木々も、ニワトリたちも、元の状態だ。

しーん、と静まり返った社務所に、砕け散った砂時計の残骸だけが転がっている。

「……と、止まった……」

ほのかはようやく息をついた。

「あわわ……砂時計、完全に壊しちゃいました……。しかも、師匠に借りてたやつ……」

リリアは、今度こそ本当に絶望的な表情で、床に散らばった破片を見つめている。

「……まあ、神社が時間の孤島になるよりは、マシだったんじゃないでしょうか……」

ほのかは、もはや慰める言葉も見つからず、力なくそう言うしかなかった。

コッコは、床に落ちている金色の枠の破片を拾い上げ、「キラキラ、壊れちゃったコケ……」と残念そうだ。

リリアの「便利(?)」な魔法道具は、結局、神社全体を巻き込む大騒動を引き起こしただけで、文字通り木っ端微塵になってしまった。師匠への言い訳という、新たな(そして深刻な)悩みを抱えることになったリリア。

ほのかは、リリアが持っている他の魔法道具(怪しげな水晶玉や、変な音を出す笛など)を、今のうちに全て隠しておいた方がいいかもしれない、と真剣に考えるのだった。鶏石神社の平和は、いつだって綱渡りの上にある。

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