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星渡りの傭兵は闘争を求める  作者: タック
第二章 ラスト・ボス

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闘技場のザコキャラ

 強化試験体A-R1の検査は一日で終わった。

 人類の限界を超えた反射神経、レーダーよりも精密な空間把握能力、生み出される多大なる魔力、高すぎるYX適性。

 間違いなく、四大企業が持っているデータでも最高のパイロットになれる素質がある。

 A-R1を強化試験体として完成させれば、彼らが若くして社長の座に着くことも夢では無いだろう。


「A-R1はYX技術を数段階、上の次元に引き上げてくれるでしょう」

「このできそこないの奴隷勇者がこれほどの価値を持つとはなぁ」


 ここは王都にある闘技場。

 快晴の空の下でSTAR4と、グンクたちが取り引きをしていた。

 闘技場には観客たちが大勢集まっているが、かなり広い作りになっているので中央にいる怪しい取り引きの声は周囲に聞こえない。

 取り引きされている商品は、もちろんエリだ。

 昨日のイクサのときとは違い、エリは再び感情の無い表情になっている。


「では、こちらと交換でよろしいでしょうか?」

「キャー!! 珍しい宝石がいっぱいよー!!」


 グンクの横にいたアクアが、アリストの持って来た鞄の中に詰め込まれた金銀宝石に大喜びである。

 もっとも、STAR4からしたらそこまで価値のある物でもない。

 この星では珍しくても、宇宙規模で見たらありふれた物だからだ。


「では、交渉成立だな。奴隷勇者は好きにすると良い」

「これからも遊びに来てくださいね、STAR4の皆さん。もっといっぱいお話したいもの!」

「よろこんで、アクア嬢」


 アクアは話よりも、もっと宝石が欲しいのだろうと見え見えである。

 だが、恋は盲目と言うらしく、それまでザコキャラとして気配を消していたイクサ以外は気付いていないのだろう。

 そのイクサに、グンクが話しかけてきた。


「さてと……イクサ……」

「は、はいぃ!? グンク殿下ぁ!?」


 急に機嫌が悪くなったグンクに対して、イクサはザコキャラ演技をした。

 少しオーバーかな? とも思ったが、ザコキャラな見た目と相まって問題はなかったようだ。


「YXという物をお前は以前から知っていたんだよなぁ……イクサぁ……」

「い、いえぇ~……それはそのぉ~……」


 もうYXに関するごまかしは利かなかった。

 なぜなら――ここに各企業のYXが勢揃いしてしまったからである。

 戦艦ヴィーゼによって運び込まれた、STAR4の最新鋭量産機。


 大神倉稲魂社製YX――艶光。

 パイロットはイナリ・ウカノ。

 普通のYXよりも重装甲でどっしりと構える姿は大鎧の武士を連想させる。


 ライゼンデ社製YX――レーゲン。

 パイロットはヒッツェ・ライゼンデ。

 手堅くまとめられた標準的なYXで、主に軍用として洗練された角張ったフォルムをしている。


 アルティマギア社製YX――マゴス。

 パイロットはアリスト・ステラ。

 魔力を使用する特殊な機体で、その名に関する魔術師(マゴス)の通りに独特でファンタジーの魔法使いのようなシルエットをしている。


 S&S社製YX――S-50。

 パイロットはレオル・プレイル。

 常に最新鋭の技術を投入している曲面フォルムの軽量型シリーズで、この巨大さで使える光学迷彩や、最新鋭のプラズマ装備、最高レベルの電子戦装備などを備えている。


 そして――そのS-50から15世代前のS-35のパイロットであるイクサと、YXですらないモンスターの巨人に鎧を着けただけのグンク。


 すべてが揃ったこの場は、空気が最悪になった。


「なぁ、イクサ。今から余興を行おうと思う」

「グンク殿下、余興ですか……?」

「ここにあるすべてのYXで戦って、誰が一番強いかを――バトルロイヤルで決めようではないか」

「えぇっ!?」


 イクサは大げさに驚いてみた。

 グンクは内心ほくそ笑む――なぜなら、実はSTAR4と裏で先に取り決めを交わしていたからだ。

 バトルロイヤルが始まったら、まずは全員でイクサが乗るS-35を叩き壊すのだ。

 その無様な姿を観衆に見せつけてヘンキョー家を倒した歴史を想起させ、しかもアクアに格好良い姿を見せることができるのだ。

 グンクからすれば一石二鳥である。


「あ、あの……もし俺が勝ったら、一つお願いを聞いてほしいのですが……」

「……は? 聞き間違いか? 勝ったら……と聞こえたが」


 一対四では、万が一でもイクサが勝てる可能性はない。

 もしかして、イクサは『正々堂々戦えば〝漁夫の利〟などで勝てるかもしれない』と考えているのだろうか? そう思い、グンクはイクサの滑稽さに笑いを堪えるので精一杯だった。


「良いだろう、余は寛大な男だ。もしも勝ったのなら何でも言うことを聞いてやろう」

「言ったな……」

「ん? 今――」

「いえ、独り言です。俺が勝ったら彼女をください」


 信じられないことに、イクサが指差したのはエリだ。

 グンクから見れば、二人は出会って一日しか経っていないし、しかもその醜さは勝利の報酬としては釣り合わない。

 思わず堪えていた笑いを噴き出してしまう。


「ブワッハッハッハ!! 良いぞ! イクサ、お前が勝ったら奴隷勇者はやろう!」

「ぐ、グンク殿下。A-R1は我らSTAR4と取り引きしたのでは……!?」

「あぁん? イクサが勝つと思ってるのか?」


 さすがに抗議したSTAR4だったが、慢心しているグンクは止まらない。


「まさか、怖いのか? こんなザコ相手に」

「で、ですが……YX戦は時に奇跡が起きて、逆転するとも言われていて……」

「なんだそれは?」

「遙か昔の地球時代、すべてのYXの元となったZXYというオリジナルがあり、その三文字のアルファベットは――〝XYZ→ZYX〟へ世界を逆転させるという意味があるとされ……そこから決して油断をしてはいけないというのがYX乗りの教訓として――」

「ええい、うるさい! この国では余の言うことが絶対だ!! 先ほどの取り引き自体を無かったことにしてもよいのだぞ!?」


 そう言われたらSTAR4は黙るしかない。

 だが、逆に黙っていられない者が一人いた。

 それはアクアである。

 こともあろうか、取り合う女性が自分ではなく、あの醜い奴隷勇者だったからだ。

 機嫌の悪さを隠そうともせず、イクサに言い寄る。


「ねぇ、イクサ? なんであの女なのさ?」

「あれ? 俺になんて興味がないと思ってたけど? もしかして、他の五人もそっちに夢中で、しかも一番ザコな俺にすら選ばれなかったから?」

「……煽ってんのか? てめぇ」


 アクアはドスの利いた声を出して睨み付けてきていた。

 彼女はすぐに笑顔になってクルッと振り向き、グンクたちに向かって猫なで声を出した。


「ねぇ~、私強い人が好きなの。だから、一番格好良くイクサを倒した人に夢中になっちゃうかも~?」

「それなら余が!」「私が!」「俺様が!」「ボクが!」「僕が!」


 イクサ以外の男たちが一斉にアピールし始めた。

 アクアはイクサにだけ見えるように、悪女の表情を曝け出していた。

 侮辱したことを後悔しながら死ねとでも言いたげである。


「こ、こわぁ~……」


 つい漏らしてしまったイクサの言葉だが、これだけは演技でも何でもなかった。




 試合開始前、イクサがS-35に乗り込もうとしたタイミングだった。

 エリがやってきていた。

 なぜか泣きそうな表情だ。


「イクサ……。私、あの人たちは五人で組むって言ってたのを聞いてて……だからこんなことは――」

「知ってる」

「だったら――なんで――」

「最強の星渡りの傭兵は、エリから依頼を受けた。この広い世界を見せるという大切な依頼を――な」


 貴族服のイクサは、片膝立ちのS-35のコックピットへ乗り込んで行った。

 その機体は旧型特有のずんぐりむっくりとした体型に、パーツ不足からか所々剥がれ落ちている装甲板。

 掃除も行き届いておらず、サビや苔なども多く付着している。

 背部に強引に詰め込まれた部品が甲羅に見えて、まるで河童のようだ。


 それを見た観客たちがブーイングをしていた。


「ギャハハ! なんだアレ!」

「すげぇ弱そう!」

「他のと比べて格好悪い~!」

「さすが悪名高きヘンキョー家!」

「世界から憎まれる悪役!」

「今にも取り潰されそうなザコ領主!」

「再び正義によって倒されるという歴史を繰り返すんだろうなぁ、はよ死ね~!」


 散々な言われようだが、イクサとしてはそれくらいすぐに慣れそうだった。

 しかし――


「イクサは……誰よりも格好良いんだから……!」


 そのたった一つの声援だけは、慣れそうに無かった。

牢屋のザクセン「イクサァー!! がんばれぇぇぇええ!!」

オペ猫【ここにも声援を送る者が……。というか、貴方は敵でしたよね?】

牢屋のザクセン「愛のために戦うイクサは漢だからな!!」

オペ猫【私としてはもっと効率的に行動してほしいですけどね】

牢屋のザクセン「いつかお前にも愛がわかるぜ……。なんたって戦艦のAIだからな!! 愛だけに!! 愛だけに!!」

オペ猫【……】




面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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<(_ _)>ぺこり

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