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いらないでしょ?

作者: 夢咲恋歌

カラダ探しって、どんな話でしたっけ?

と、思いながら勢いで書いたので。

それでも良い方どうぞ↓

あの日から耳にこびりついて離れない。


アスファルトが焼けて、太陽が照りつけた夏の日。


あの時、彼が言った言葉がずっと、耳から離れない。


呪いのように、この時期になると夢に見る。





『ねぇ、どうして僕以外を映すの?』






寝ても覚めても、彼の言葉が脳に響く。






『それならもう、いらないよね?』






彼の優しい言葉と笑顔が瞼の裏に焼き付く。






『僕以外を映すなら、いらないでしょ?』






そう言って伸ばされた手を、私はまだ


忘れられずにいる。






アスファルトをジリジリと太陽が照らす。


「アッツ!!こんなクソ暑い時期に勉強しろとか鬼か、センコーは!」

「先生も成績が悪くなかったら夏期講習に来いなんて言わないよ。」

「それでも!!それでもよ!?あるでしょ!!配慮が!!」

「夏期講習の最終日だからってジュース奢ってくれたんだから文句言わないの。」

「甘い!甘いわ、ハナ!!そんなんだからアンタは変なヤツに好かれるのよ!!あのセンコー絶対アンタのこと好きよ!?」

「先生はただ単に成績の良い生徒をパシリに使ってるだけだよ。」

「自分で成績良いとか言っちゃう?」

「張り出されてるテスト順位で私より上は存在しないもの。」

「カーッ、優等生が!!私と同じものが詰まってるとは思えないわ!この頭!!」

「わわっ、ちょ、ぐちゃぐちゃになる……!!」


かき混ぜられてぐしゃぐしゃになった髪を手ぐしで整える。

外に出るのもためらうような暑さで、友人も滅入ってるのだろうというのは想像できる。


「アイス食べよ、アイス!」

「さっき食べてなかった?」

「前菜よ!」

「二組の王子様の目に止まるためにダイエットするって言ってなかった?」

「く…っ!いや、大丈夫!!勉強でカロリーは充分消費されてる!ハズ!!」

「ふ〜ん?」

「何よ!」

「別に?」


むむむっと顔を見合わせて、お互いに笑い出す。

めいいっぱい折り曲げて短くしたスカートも意味をなさないくらいには暑くて。


「もういっそのこと水着で出かけたい。」

「痴女?」

「ファッション。一時流行ったじゃない?アレよ、アレ。」

「流行ったけど、アンタがそんなことした瞬間クラスの男子たちが沸き立ちそうね……。」


華の女子高生とはよく言ったものだ。

発育が良い友人は、それはもう蝶よ華よと愛でられている。

ただバカ過ぎて高嶺の花扱いはされなくなったが。


「なんか失礼なこと考えなかった?」

「いや、全然。これっぽっちも。」

「ふ〜ん?それなら良いけど。あー、アッツ〜。」


手でパタパタと風を送っていたが意味もないとわかったからか、今じゃ下敷きで扇いでいる。


「校則違反で没収するとかマジで鬼。」

「明日反省文書きに行ったら返してくれるんでしょ?」

「鬼。鬼だわ、マジで。」


ブツブツと文句を言う友人にクスクスと笑っていれば、不意に足を止めて。


「どうしたの?」

「アレ、ユウじゃない?」

「え?」

「ほら、小学校一緒だった。」

「あー……。」

「え、忘れたの?あんなに仲良かったのに!?」

「いや、そういうわけじゃ……。」

「でも……へぇ、アイツこっち帰って来てたんだ。隣町に転校したよね、確か。」

「うん。」


小学校三年のたった一年間。

たった一年だけの付き合い。

名前順が近かかったという理由だけで話す仲になった。


「そういや、なんかギクシャクしてたっけ?アイツが転校する前。」

「そう…かな?そうかも……?」

「どーせ小さいことで喧嘩でもしたんでしょ?子供だし、よくある話よ。」

「……そうだね。」


アレは、小さなことだったのかな。

アレは、喧嘩になるのかな。

ううん、違う。

アレは、私が悪いんだと思う。


「あれ?二人共久しぶりだね〜?僕のこと、覚えてる?小学校一緒だったユウだよ!」

「あ、やっぱり?すっごい似てるヤツいるわってハナに言ってたのよ。にしてもアンタすごい背が伸びたね。あんなチビだったのに。」

「そうかも。確かに、あの時は僕が見下される側だったし。」

「見下ろすくらいに小さくはなかったがな。」

「そうだっけ?」

「そうよ!」


昔話に花を咲かせる二人を見つめる

ジリジリと太陽が肌を焦がす。



『ハナちゃんには、僕だけで良いでしょ?』



「ハナ?」

「!」

「どうしたの?暑さで気分悪くなっちゃった?」


その問いかけに曖昧に微笑む。


過去の幻影に酔っていたなんて言える訳がない。


「そうかも。私、先に帰るね。」

「ん、わかった。」

「それなら僕が送るよ。どうせ家の方向は一緒だしね。」

「えっ。」

「おー、良いね、それ!私はこの後バイトだし!んじゃあユウ!ハナを頼んだ!送り狼になんなよ!!」

「んー、努力するよ。」

「約束しろっ!」


怒る友人の言葉を笑ってかわすと、あの頃と変わらない笑顔を浮かべた。


「帰ろっか、ハナちゃん。」

「良いよ、私一人で帰れる。さっきまで一緒に居た友達のところに戻ったら?」

「友達?」

「私達に声掛ける前に話してた人たち。」

「アレは友達じゃないよ。ただの顔見知り。」

「…………。」

「あ、その顔は疑ってる?酷いなぁ。僕、ハナちゃんに嘘ついたことないよ?」


もちろん、冗談も言ったことないよ?


なんて。


そんな顔して笑っても、私には笑顔は返せないのに。


「ほら、帰ろう?」


差し出される手。

それを見ないフリして歩き出す。

彼は小さく笑って隣を歩く。


「そういえば今日学校で話を聞いたんだけど。ハナちゃん、カラダ探しって知ってる?」

「身体のパーツ探してる幽霊の話?」

「そうそう、それ!あの話って有名だったんだね、僕全然知らなくてさ……。ビックリされちゃったよ。」


そう言って頬をかきながら照れくさそうに笑う。


「ユウが知らないとは思わなかった。」

「どうして?」

「ユウ、そういうの好きじゃん。」

「好きじゃないよ。」

「嘘。」

「嘘じゃないって。どうしてそう思うの。」

「だってユウ。昔から私の身体(パーツ)好きじゃない。」

「それはハナちゃんだからだよ。他の人には微塵も興味ない。」


真剣な顔をする彼を足を止めて振り返る。

ジリジリとアスファルトが焼け、肌を焦がす。


「言ったでしょ?僕は君の細胞から骨の髄まで愛してるって。だから頂戴って。」

「嫌だって言ったでしょ。」


細胞頂戴と言われて、はいあげるとはならない。

そしてそれを平然と悪いと思っていない笑顔で私を見る。


「もう、意地悪だなぁ。ハナちゃんは。皆、僕にだったら喜んであげるって言ってくれるのに。」

「じゃあ、喜んであげるって言う子にもらいなよ。」


一歩近づかれるから、一歩離れる。


「僕はハナちゃんにしか興味ないんだって。」


アスファルトの熱のせいか、周囲がボヤケて見える。


「どうして逃げるの?」

「ヤダ、近づかないで。」

「さっきまで隣歩いてたのに、いきなり酷いなぁ。」

「イヤよ、イヤ。その瞳をしてる時のユウは嫌い。」

「瞳……?」


さっきまでの優しい目じゃなくて、


さっきまでの黒い瞳じゃなくて、


今にもあの世に引っ張り込みそうな深淵の闇。


「ふふふ、ごめん。ハナちゃん、こっちの僕、嫌いなんだったね。」


笑いながら笑顔だけはあの時と変わらない物を浮かべるから。

逃げようと踵を返せば、手首を掴まれて。


「やめ……っ。」


ガバッと抱きしめられる。

どこからか、黄色い悲鳴が聞こえる。


「わぁ…!あのカッコいい人が抱きしめてるの、彼女かな!?」

「やばい!羨ましい…!!」


そんな声が聞こえてくるけど、私はこの腕から逃げたくて。



『ねぇ、ハナちゃん。カラダ探しって知ってる?』



血の気が引くのがわかる。

茹だるように暑いのに。

本当なら照れてもおかしくない状況なのに。


「ねぇ、ハナちゃん。どうして抱きしめ返してくれないの?」

『ねぇ、ハナちゃん。どうして見てくれないの?』


暑さのせいか、あの頃の幻が眼の前をちらつく。



「抱きしめてくれないなら。」

『見てくれないなら。』


「もうその腕。」

『もうその目。』


「いらないよね?」

『いらないよね?』



あの時と同じ笑顔で。

あの時と同じ温度で。


あの時と同じように伸ばされる手に、


「……ヤ、ヤダ……っ!!ユウ、やめて……っ。」


あの時と同じように懇願すれば。


「ダメだよ、ハナちゃん。」

『ごめん、怖がらせて。』


あの時と、同じように…………。


「そのお願いは、もう三回、叶えたでしょ?」

『でも、もう次はないからね?』


あの時と…………。


「一番はじめに言ったでしょ?その身体(パーツ)はオリジナルの完璧な複製品(コピー)だから、僕にちゃんと返してねって。」

「あ…………。」

「だから、ほら。ハナのパーツ(身体)、そろそろ返してよ。この時期は傷みやすいんだから。」


あの日も、私は赤く染まったベッドの上で目を覚ました。

そして、彼に尋ねた。


『ワタシノカラダハドコ?』


そうしたら彼は変わらない笑みを浮かべて。


『オリジナルはもう何年も前にないよ。忘れちゃった?ハナちゃん。』


知らない光景。


だけど、知ってる光景。


「思い出した?じゃあ、良いよね?もらって。」


彼かニコリと笑って私の二の腕をなぞる。


「僕のために生きて死ぬための人形になるって、君の魂は何年も前に誓ったんだから。」


「わ、たし……は…………。」


「カラダ探さなくて良いように、


僕の愛したハナちゃんのままで居てね?


じゃないと、


また…………、




君をあの時みたいにバラバラにしなくちゃいけないから。」



太陽に負けないくらいの眩しい笑顔を振りまく彼は、


あの日と同じように私の身体(パーツ)に触れて。





「僕以外を求めた腕は、いらないよね?」





そしてまた、赤く染まったベッドの上で目を覚まし、



『ワタシノカラダハドコ?』



あの時と同じように、目の前の彼に尋ねる

ホラーとは?と自問自答してしまった今作。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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