終章:上
【毎日昼の12時に更新します】
やがて鬼平くんは無事に退院することができた。
学校に復帰した鬼平くんは園絵や有紀、瞬くんはもちろん、クラス中で大歓迎を受けたのであった。
季節は更に進み、もう冬と言って差し支えない頃だった。
ある朝のことである。
「……おはよう」
私は寝ぼけ眼で階段を降りてキッチンに来た。するとお母さんがあきれた顔になる。
「もう何時だと思っているの? さっさと朝ご飯を食べて」
「はーい」
時計を見ると確かにぎりぎりの時間だった。
「もう早起きは止めちゃったの?」
トーストをかじっているとお母さんが突然尋ねてきた。
「う、うん。……やっぱり私には早起きは無理だよ」
するとお母さんは、くすくす笑いをする。
「な、なに?」
私が質問するとお母さんは、いたずらっぽく笑顔を見せた。
「だって、もう願いは叶ったものね? だから神社には行かなくなったんでしょ?」
私は思わずトーストをお皿の上にぽとりと落としてしまった。
「な、なんで知ってるの?」
「あら? お母さんたちが気づかないと思っていたのかしら?」
私は、うぐぐと黙り込んだ。私が鬼平くんの全快を祈願して毎朝神社にお参りに行っていたのは、すっかりばれていたのだ。
「さあさあ、さっさと食べないと遅刻するわよ」
私はお母さんにせかされて、あわててトーストを食べ終わり、学校へと向かうのであった。
その日の授業はなにごともなく平穏に過ぎた。
そして昼休みのことである。
「……すごい秘密を聞いちゃったんだ。東田先生は秘密の研究組織にいたんだってさ」
鬼平くんがそう突然に言った。空は青く晴れていたけれど、風が冷たくてさすがに寒さを感じさせる。
「……秘密の組織?」
私はびっくりしてしまって、大きな声で尋ねてしまった。今日も屋上は私と鬼平くん以外の姿はない。
「うん。……産学官一体で構成された組織で、人体の欠損部分を再生させる分野で第一人者だったらしいんだ」
「サンガクカンって?」
「うん。製薬会社研究室を始めとした大手企業群といくつかの大学病院、そして厚生労働省や防衛省などで編成された民間、大学、国の機関」
「そ、そんなのあるの? 聞いたことないけど?」
すると鬼平くんは少し首を傾げて考え顔になる。
「……僕も初めて聞いた。だとするとこれは想像だけど、一般国民は知らされていないのかもしれない。……でも東田先生が口をすべらせた。……いや、違うな」
「なにが違うの?」
すると鬼平くんはすたすたと歩き出してフェンスから校庭を見下ろした。
「……僕もみすずも関係者だから、こっそり教えてくれたんだよ。……きっと」
「ええっ! ……私たちも関係者なの?」
「ああ。……だって、僕たちは被験者じゃない?」
「被験者? ……そ、そっか。私と鬼平くんはバイオサイボーグだもんね」
「うん、そう言うこと」
「……でもちょっと怖いかも」
「怖い? なにが?」
鬼平くんが不思議そうな顔をする。
「うん。だって、私たちは被験者のバイオサイボーグだから、実験とかに協力させられちゃうかもでしょ?」
「……そうか。それは思いつかなかったな。……う~む。それはあり得るな。……たぶん」
鬼平くんは腕を組み真剣な表情になる。
「え? ……冗談のつもりなんだよ? 嫌だよ。怖くなっちゃったじゃん……」
余計なことを言うんじゃなかったと後悔した。
「ごめんごめん。こっちこそ冗談のつもりだった」
そう言って鬼平くんは笑顔になるのだが、それがちょっと憎らしい。
「……もうっ」
私は鬼平くんの隣に並んだ。すると少し強い風が吹いた。
「寒いね」
「うん。……もう冬はすぐそこだよ」
私は手のひらをこすって暖を取る。
「でもね、……ひょっとしてだけど、私、思ったんだ」
「なにを?」
すると鬼平くんが私を見る。
「実験の話は別としてなんだけど、バイオサイボーグって私たちだけなのかな?」
「他にもいるってこと?」
「うん。……だって頭の怪我や病気の人って、いっぱいいると思うよ」
「そうだね。……じゃあ、また夢で会えるのかもしれないね」
鬼平くんの言葉に私はうなずいた。そのときチャイムが鳴った。昼休み終了を告げる音だった。
その後、私と鬼平くんは夢の中で会うことは、たびたびあった。
だけど未だに夢世界の仲間たちとは出会っていない。それはバイオサイボーグが私と鬼平くんだけしか存在しないからかもしれないし、共通の夢を見ている仲間がまだ現れていない可能性もある。
そして実験に参加させられる話も、ない。
それらのことを一度、東田先生に訊いてみたことがある。
だけど先生は笑顔を見せただけで、なんにも答えてくれなかった。それは肯定とも否定ともとれた。だから私はそのことは考えないようにしていた。
そして私と鬼平くんの日々は平和だった。
毎日、学校に来て、園絵や有紀、瞬くんとおしゃべりをして楽しく過ごしていた。
ある日のことだった。
「抽選でチケットが当たったんだけど、どうかしら?」
有紀が休み時間にこっそりと私に二枚の券を渡してくれた。それは電車で一時間ほどの距離にある美術館の招待券だった。美術ファンの有紀はよくこの手の懸賞に応募するのだ。
「ええっ! ……いいの?」
私は手にしたチケットを見て、そう尋ねた。
「ええ。私も観たいと言えば観たいわ。……でも、これはみすずと鬼平くんの方がふさわしいと思うのよ」
そう言ってくれたのである。私はお礼を言ってありがたく頂戴することにした。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




