62 第三話「夢見るように夢見たい」 帰還
【毎日昼の12時に更新します】
「……もう、大丈夫です」
私は真っ赤になりながら、そう言ってドアを開けた。すると東田先生と目が合った。私がひとつうなずくと先生の顔に笑顔が浮かぶ。
「……帰って来たのね?」
「はい」
私がそう答えると、園絵や有紀、瞬くん、そして鬼平くんのお母さんから、ほっとした息が漏れるのがわかった。
そしてみんなして病室へと戻る。すると目をぱっちりと開けて天井を見上げている鬼平くんの姿があった。
「……やっぱり、現実世界の方がいいね」
そう鬼平くんは口にして、私たちに笑顔を見せてくれたのだ。
それから鬼平くんの病室はあわただしくなった。東田先生が手配したことで、他の先生や看護師さんたちが大勢集まって来たからだ。
みんなには笑顔があった。
それは鬼平くんが意識を取り戻したことで手術が正真正銘に大成功したことを意味しているからだった。
「みずずさん。ありがとうね」
東田先生がそう私に言った。
「と、とんでもないです。……手術したのは東田先生です。だからお礼を言うのは私です」
私があわててそう言うと、東田先生は私の肩をぽんと叩く。
「いいえ。……私は身体を直しただけよ。でも鬼平くんを呼び戻したのは、みすずさん、あなたよ」
そう言ってくれたのだ。
「東田先生、そして、みすずさん。本当にありがとうございます」
声に振り向くと鬼平くんのお母さんが涙を浮かべながら深々とお辞儀をするのが見えた。私はびっくりしてしまって、あわてて頭を下げたのであった。
それから鬼平くんの病後の経過は順調だった。
私はその後も毎朝、神社でお参りした。この習慣は鬼平くんが無事に退院するまで続けるつもりだった。
「……外はもう寒そうだね。入院している間に季節がすっかり進んでしまったね」
私が病室でリンゴの皮をむいていると鬼平くんがそう尋ねてきた。病室には私と鬼平くんしかいなかった。
「うん。……でも、まだそれほどじゃないよ。学校に行くにもコートもマフラーも必要ないし。……鬼平くんは寒いのが嫌い?」
私がそう答えると鬼平くんは笑顔になる。
「いや。……僕の祖先は大陸系だから、寒さは平気なんだ」
鬼平くんは以前に夢の中で話していたことを口にした。それは鬼平くんが鵺となってさまよっていて、スリーココナッツアイランドで話した内容だったのを私は思い出す。
「……確か、大草原がいいんだったよね?」
「僕の理想郷のこと?」
「うん。……いつか行ってみたいな」
私がそう言うと、鬼平くんは少し考え顔になる。
「……連れて行ってあげるよ。お金がかかるから実際には無理だけど、いつかきっと夢の中でなら、連れて行ってあげることができると思うんだ」
「う、うん。約束だよ」
私はそう言って笑顔になった。そして鬼平くんが差し出した右手の小指に自分の小指をからませたのだった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




