60 第三話「夢見るように夢見たい」 宣言
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「じゃあ、私は南方系なんだね?」
私が尋ねると鬼平くんは首を縦に振る。
「そうなんだろうね。……みすずさんはこっちのこの風景を楽園として夢見たんだから、海洋民族としての血が濃いんじゃないのかな?」
私はうなずいた。なんとなく納得できるからだ。
「じゃ、じゃあ鬼平くんは大陸系なんだ?」
「うん。……だから僕の夢ならば、みすずさんを草原に招待すると思うんだよ」
「うん」
私はそういう鬼平くんをじっと見た。
鬼平くんは血色も良くて声にも張りがある。どうみても健康体質にしか見えなかった。
「……でも困ったな。どうやれば僕は目が覚めるんだろう?」
話題を自分自身のことに戻した鬼平くんが、そう言って考え顔になる。
「うん。……例えば、私が目を覚まして、ベッドで寝ている鬼平くんの身体を揺するとかしたらどうなのかな?」
私はふと思いついたアイディアを口にしてみた。
「それはどうかな? 傷口が開いてしまうかも知れないし、だいいち東田先生が許してくれない気がするな」
「そっか。……そうだよね」
鬼平くんが言うのはもっともだと思った。確かにそれはできない相談だ。
「じゃあ、おぼれてみるのはどう? 苦しくて目が覚めるかもよ?」
私は眼前に広がる珊瑚礁の海を指さした。すると鬼平くんは苦笑する。
「それも無理だよ。だいいち僕たちは空を飛んでここまで来たんでしょ? 海の中に入ったら海中遊泳になっちゃって、サカナたちの群れといっしょに泳げるだけだと思うよ。……それはそれで楽しい体験になると思うけどね」
それも確かにその通りだと思った。
「僕は思うんだけど……。現実世界の方が、ここよりも楽しいって思えることをすればいいんじゃないかな?」
「現実の方が楽しい?」
「うん。今、僕は眠っている。そして無意識にこっちの世界から戻りたくないって思っているって考え方はどうかな?」
「……あ。……そうかも」
私はうなずいた。鬼平くんは今、現実世界では怪我と戦っているのだ。それがもしかしたらとっても嫌で帰りたくないって思ってしまっているのかも知れない。
……だとすると。
鬼平くんが言う通り、こっちの楽園風景で過ごすよりも、過酷かも知れないけど現実の方が、今よりも楽しくてわくわくするってことを実感させれば良いような気がしてきたのだ。
「……みんなのことを思うってのはどうなの?」
私は鬼平くんに尋ねてみた。
「みんな?」
「うん。園絵とか有紀とか、瞬くんとか……。それとご両親や東田先生のこと」
すると鬼平くんの顔がぱっと笑顔になった。
「そうだね。……みんなとはまた会いたいね」
「うん……。それだよ。きっとまだまだあるはずだよ。……ここよりもずっと良い未来が待っている可能性だってあるよ」
私は少し手応えを感じた。鬼平くんがここよりも現実世界の方が楽しいと少しだけ思ってくれたような気がしたのだ。
……だとするとあと一押しかも。
私は辺りを見回した。なにかもっと良いアイディアが浮かぶと思ったのだ。
――そのときだった。
今から考えても、なんでいきなりそんなことが頭に浮かんだのかわからなかった。だけど、……もしかしたら、鬼平くんもそれを望んでいるかも知れないって、ちょっと思ったのだ。でも、……はっきり言って自信はなかった。
……でも、ダメで元々。私は鬼平くんに帰って来てもらいたいもん。
私は覚悟した。すると同時に身体の中から、かあっと熱くなって、顔はもちろん耳たぶまで熱を持った気がした。
そして口を開いた。
「……あ、あのね? ……ここは誰もいないでしょ?」
すると鬼平くんが、首をちょっと傾けて私を見る。
「……確かにいないね。いるのは僕とみすずさんだけだね?」
「……ね? だ、だから……」
「う、うん?」
「わ、私と、す、する?」
「へ? なにを?」
すると憎らしいほどに鬼平くんは鈍感だった。やっぱり鬼平くんは女の子に対して鈍くて女心なんてものがちっともわからないのだ。
私は恥ずかしさでがくがくと震えが来ているけれど、ひとつ深呼吸すると気持ちがちょっと落ち着いた。だから、……宣言した。
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私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




