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夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
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59 第三話「夢見るように夢見たい」 楽園

【毎日昼の12時に更新します】



 

「お、鬼平くんっ……!」

 



 私は駆け寄った。そして鬼平くんが差し出す右手を両手で包んだ。私は泣いていた。涙が止めどもなく両目から次々とあふれてくるのだ。




「……な、なにから言えばいいのかな?」




 私は嗚咽しながらも、そう言った。本当にこんなときはなにから話せばいいのかわからなくなっていたのだ。




 辺りでは潮風が吹いて、私の髪とスカートの裾をたなびかせる。耳をすますと潮騒と鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。




「さすがに暑いね」




 鬼平くんがそう言って、制服の上着を脱いでシャツの袖を腕まくりした。




「う、うん」




 私も同じにブレザーに手をかける。そしてネクタイを緩めてシャツの両袖を肘までたくし上げる。

 ここは常夏の島。夏の暑さにこの秋の制服姿では汗が止まることがない。




「……僕は鵺になっていた? そうだよね?」




 すると鬼平くんがそう言った。




「……う、うん」




 私はうなずいた。なんどもなんどもうなずいた。




「パラオか……。じゃあ、これは僕の夢じゃなくて、みすずさんの夢なんだね」




「そ、そうなの……?」




 私は驚いてそう答えた。私と鬼平くんは夢見るサイボーグだ。どちらもどちらの夢に登場することができるから、どっちの夢なのか判定するのかが難しいのだ。




「うん。……僕は学校の屋上でみすずさんをずっと探している夢を見ていたんだ。……でもときどき声がしたりするけど、その姿は見つからなかった。ただ、ときどき手で触られているような錯覚はあったんだ」




 そう言うのだ。




「そ、それ。私だよ。……私は鬼平くんの鵺になんども話しかけたし、なんども触ろうとしたんだ」




 私は今までの鵺とのやりとりを細かく説明した。そしてそれだけじゃなくて、鬼平くんの身に起こったことすべてを話したのだ。すると鬼平くんは納得できたようで、なんども首を縦に振った。




「……じゃあ、僕は体育の授業で頭を強く打って、病院に運ばれたんだね?」




「うん。……意識が戻らなくて、そして東田先生が手術してくれたんだ」




「それが……、悪性の腫瘍。僕はその摘出手術を受けたんだ?」




「うん。……でもね。……手術は無事に成功したんだけど意識が戻らないの」




 すると鬼平くんはしばらく腕組みして考え込む。




「……僕はどうやったら現実世界に帰れるのかな?」




「ええっ! ……私、わかんないよ。てっきり鬼平くんと夢の中で会えば、すぐに解決できると思ったのに……」




 私は考える。そして鬼平くんも思慮を巡らせる。だけと簡単には回答は見つからなかった。

 潮風が吹き、波が白浜に押しては引いていく。私たちはしばらく無言でそれを見続けていた。




「あ、そうそう。……そう言えば知ってる?」




 南洋の海を見続けていた鬼平くんが突然、口を開いた。




「なあに?」




 私が答えると、鬼平くんは海を見て、そして背後のココナッツの木々を振り返った。




「理想の楽園風景って、人によって違うんだってさ」




「楽園? ……どう違うの?」




 私は鬼平くんに向き直る。




「うん。……じゃあ訊くけど、みすずさんはどんな風景が楽園だと思う?」




「ええっ? ……うーん。えーと、ここの風景かな? ……南の島で周りが珊瑚礁できれいな海がある風景だよ」




 すると鬼平くんは満足そうな顔になる。




「……やっぱり思った通りだね。これは本当に間違いなく、みすずさんの思い描いた楽園で、これはみすずさんの夢に間違いないんだ」




「ええっ? ……どうして?」




 すると鬼平くんはしゃがんで真っ白な砂を手ですくい上げる。砂は指の間から、さらさらとこぼれ落ちた。




「僕にとって楽園とは、草原なんだ」




「草原?」




「うん。地平線が見渡せるほど広い土地で、辺り一面が草むらなんだ。そして何本かの大きな木が生えていて、そしてその上にはもくもくとした大きな雲が流れている。……そんな風景が僕にとっての理想郷なんだよ」




「へえ……」




 私は想像してみた。膝まである草に囲まれた小高い丘が並ぶ緑の草原で、雲を見上げて寝そべっている自分の姿だった。そばには木製の小屋があって、それ以外に人の気配はいっさいない静かで暖かい土地……。




「うん。確かにそれも悪くないよ。それもすてきだね」




 私はそう言った。すると鬼平くんはうなずいた。




「うん。でね? もし、この夢が僕の夢ならば絶対にそっちが舞台になると思うんだ。これはDNAの問題なんだよ」




「DNA?」




「うん。人には無意識にDNAの中に理想郷の風景が刻まれているんだって。……でね、それによって先祖がどっちから来たのかわかるって話らしい」




「先祖? どっち?」




「うん。僕たち日本人は元々、日本列島に住んでいたんじゃないんだ。氷河期のときに陸続きだった大陸から来た北方系と、舟を使って島伝いに移り住んできた南方系が混じったものらしいんだよ」




「北方系と南方系? ……なんだか難しい話だね」




 私にはなんだか訳のわからない話だった。




「うん。でもね、これはちゃんとした学説ってよりも、ロマンって言った方がいい話なんだ。……日本人にはね、大きく分けると大陸の草原と南の島の風景の二種類の理想郷があるんだって。……で、そのどっちが理想郷として頭に浮かぶかで、北方から来た大陸系出身と、南の海から来た南洋系の血を引いているのかがわかるらしいんだってさ」




「へえ……」




 私はその話がなんとなくわかるような気がした。確かに地平線まで広がる大草原ってのも捨てがたいけれど、やっぱり私にとって楽園とは、今ここにいる南の島の方だからだ。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

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