表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
58/65

57 第三話「夢見るように夢見たい」 追跡

【毎日昼の12時に更新します】



 

 そのときだった。




「……浅井さん。順平をよろしくお願いします」




 振り向くと、鬼平くんのお母さんが深々とお辞儀をするのが見えた。私はあわてて上半身を起こす。




「そ、そんな。……わ、私こそ、よろしくお願いします」




 私はあわててしまって、自分でも訳がわからない返事をしてしまった。もちろん顔は真っ赤である。




 だけど、鬼平くんのお母さんは、ただ笑顔を見せてくれて私の右手をそっと握ってくれたのだ。その手はひんやりとしていて、とても柔らかかった。私はその手に思いを感じる。




 ――託されたのだ。




 私は黙ったまま頭を下げると再びベッドに身を沈めた。そして目をつむる。すると頭の中に様々なことが思い浮かんだ。




 それは鬼平くんのことだった。

 鬼平くんと初めて出会った夢のときや、その後の鬼平くんの転校。そして今日まで過ごしてきたいろいろな思い出だった。




 ――そして眠る。




 私は夢の中ですぐに我に返った。




 そこはやっぱり高校の屋上で、空には真っ黒な雨雲がちぎれんばかりに流れている。風が強いのだ。

 私は肩までの髪とスカートの裾をひるがえして、屋上に立っていたのだ。




「……お、鬼平くんっ!」




 鬼平くんの鵺がいた。背の高いフェンスにしがみつくようにして、グランドの方角を見ているのだ。

 私は鬼平くんの鵺に近づいた。




「ねえ、戻って来て。……今、鬼平くんは病院のベッドに寝ているの。そして意識を取り戻せないでいるのよ」




 私は鵺に話しかける。




「……う、う、う」




 すると鵺は横に並んでいる私を見た。もちろん目も鼻も口もないので、その表情はわからないし、果たして私の言葉を理解できたのかも不明だ。だけど私がなにかを伝えたいことはわかるみたいで、そう反応してくれたのだ。




「あのね、……鬼平くんはおととい学校で授業中に倒れたの。そしてそれからずっとそのままなの」




 すると鵺はじっと黙って私を見ている。……見ているように感じる。




「だからね……。帰って来てよ。ねえ、お願いだから……」




 私は鵺の手を握る。もちろん鵺は実体がないので手応えはないんだけど、その冷たさはひしひしと感じてくる。




「……冷たいね」




 鵺の手は今日も氷のように冷たかった。だけど私は我慢した。もしかしたら私の手のぬくもりが少しでも伝われば、鬼平くんの意識が戻るんじゃないかと思ったのだ。




 だけど時間がいくら過ぎても鵺は鵺のままだった。

 私は次第にあせりを感じてくる。すでに右手の感覚は麻痺してきて、冷たさよりも痛みを感じている。だけど鵺に変化は表れないのだ。




 ……帰って来ないつもりなのかな?

 私は絶望に近い思いを感じていた。どうしたら鬼平くんの姿を取り戻すのかわからなかいからだ。




 そのときだった。

 鵺が空いている右手をすっと持ち上げたのだ。その手はフェンスの金網を素通りして、校庭の方角へと指さしていた。




 ……あ、そう言えば。




 私は以前も鬼平くんの鵺がその方角へと指さしたのを思い出した。そして今も同じ方角を指し示していることに気がついたのだ。




「……ねえ、そっちになにがあるの? そっちにはグランドしかないんだよ」




 私は鵺に尋ねる。だけどもちろん鵺から答えは返ってこない。




「……わ、わかんない。ねえ、教えてよ。どうすれば鬼平くんの姿に戻れるの?」




 そのときだった。

 鬼平くんの鵺がフェンスを素通りして、屋上の縁へと向かったのである。




「なにをするの?」




 私がそう問うと、鵺はふっと飛び降りたのだ。




「ええっ!」




 私はフェンスをよじ登った。

 そして向こう側に降り立つ。風がごうごうと吹いて、今にも吹き飛ばされそうだった。見ると鬼平くんの鵺はグランドに降り立つと、すたすたと南の方角へと歩き始めている。




 ……ど、どうしよう?




 私は一瞬戸惑った。以前にも同じ風景を見たことがあるからだ。あのとき私は教室へと急いだ。そしてそのときはクラスで鬼平くんのことを尋ねたら、園絵たちが鬼平くんを憶えていなかった。




 ……そう、あれは鬼平くんが学校から去る、つまり怪我して入院することの暗示だった。




 だけど、今回はどうだろう?

 今、もしまた教室に行ったら、きっと園絵や有紀、瞬くんがいるに違いない。だけどきっと鬼平くんのことはやっぱり憶えてないと答えるような気がしていた。つまり行っても意味がないのだ。




「……追っかけよう。そして確かめよう」




 私はひとりつぶやいた。

 そして、えいっと気合いを入れると足でコンクリートの縁をぽんと蹴ったのだ。




 ふわりと感じる浮遊感。そして私は大地へと着陸した。

 見るとすでに鬼平くんの鵺は校庭から外へと到着するのがわかった。このままだと見失うかもしれない。







 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ