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夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
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55 第三話「夢見るように夢見たい」 不安

【毎日昼の12時に更新します】



 

 そして私が代表してドアをノックをした。すると中から、はい、と返事があった。おそらく鬼平くんのお母さんだろう。




「あら、……ありがとう。また来てくれたのね」




 ドアを開けて姿を見せたのは、やっぱり鬼平くんのお母さんだった。

 泊まり込みだったみたいで服は昨日のままで、顔色もあまり良くなくて、疲れが出ている感じだった。おそらく昨夜からほとんど寝ていないに違いない。




「……じゅ、順平くんはいかがですか……?」




 私が代表して、そう尋ねた。声はやっぱり震えてしまっている。すると鬼平くんのお母さんは私たちを病室へと案内してくれた。




 ――そこに鬼平くんは横たわっていた。




 真っ白なベッドの上で頭が包帯だらけになった状態で静かに目を閉じていたのだ。




「……」




 私は言葉が出なかった。そしてその代わりに涙が自然に頬を伝った。あまりの痛々しさに胸が締め付けられる思いだったのだ。




「……浅井みすずさんは、どちらかしら?」




 鬼平くんのお母さんが私たちを見回してそう尋ねてきた。




「わ、私です」




 私がそう答えると、鬼平くんのお母さんは笑顔を見せてくれた。だけど疲労が残った弱々しい笑みだった。




「……あなたが浅井さんね。……順平がお世話になっております。

 ……順平はいつもあなたのことを話していたから、どんな女の子かと思っていたのよ」




 そんなことを言って、突然、お母さんが頭を下げたのだ。私もあわてて頭を下げる。もちろん私は耳まで真っ赤になっていた。




「そ、そんな。……こっちこそお世話になりっぱなしなんです。これは本当なんです」




 私がついそんな風に口走ると、園絵と有紀のくすくす笑いが聞こえてきた。




「ごめんなさいね。椅子が全員分ないのよ」




 鬼平くんのお母さんはそうすまなそうに言う。

 だけと私たちは別に座りに来た訳じゃない。鬼平くんの容態をお見舞いに来ただけなのだから、誰ひとりも不満の表情はなかった。




 私は改めて鬼平くんの様子を見た。見た目は眠っているだけに見えたけれど、きっと今は大怪我と戦っているに違いない。




「……鬼平くん」




 気がつくと私は小声でそう言葉を漏らしていた。

 だけどみんなは無言でただ鬼平くんを見ているだけだった。




「……意識が戻れば大丈夫って、先生はおっしゃっていたわ」




「先生って、東田先生ですか?」




 私が尋ねると鬼平くんのお母さんはうなずいた。




「ええ。……東田先生には本当に順平はお世話になりっぱなしだわ。先生がいなければ順平はとっくに死んでいたわ。……これで助けてもらったのは二度目ね」




「はい。……鬼平くんは運がいいんです。だからきっと大丈夫です」




 私はそう答えた。すると鬼平くんのお母さんが、突然くすくすと笑った。私はなぜだろうと思った。




「……ごめんなさいね。……順平はこっちに引っ越してきても『鬼平』って呼ばれているのね」




 私はまたもや顔中真っ赤になってしまってうつむいてしまった。




 そのときだった。




「あら、みすずさんも来ていたのね?」




 突然、背後から声がした。振り返ると東田先生だった。




「あ、先生。おはようございます。……それと昨日はありがとうございました」




 私は昨日の鬼平くんの手術へのお礼を言った。

 ……別に私が言うのも変な話だとはちょっと思ったけれど、言わずにはいられなかったからだ。




 すると先生は笑顔を見せてくれた。

 東田先生は今日も美人だった。だけど顔にはちょっとばかり疲れが出ている様子だった。




「みなさん。ちょっと病室からはずしてくれないかしら? ……お母さんとお話があるのよ」




 そう東田先生は私たちに告げたのだ。そして私たちは指示通りに廊下に出たのであった。




 ……なんだろう?




 私は思った。東田先生がいったいどんな用事で来たのかわからなかったからだ。




「……なにを話しているんだろうね?」




 私は園絵や有紀、瞬くんに質問した。




「……術後の経過とか、これからの注意事項とかじゃないかしら?」




 有紀が考え顔でそう言う。




「そうね。なんたって大手術の後なんだもんね」




 園絵は納得顔でそう答える。私はそして瞬くんを見た。ところが瞬くんは園絵や有紀と違って少し不安そうな仕草を見せた。私の視線から目をそらしたのだ。




「……瞬くん。どうしたの?」




 思わず私は尋ねた。すると瞬くんは、やや戸惑いがちに口を開いたのであった。




「……い、いや。……なんでもない」




 返ってきたのはなんとも歯切れが悪い言葉だったのだ。




 ……な、なんだろう? この感覚?




 そのとき私の胸に、ざわざわとしたものが感じられた。……なんだかとっても嫌な感覚で、安心とか安堵とかとは正反対なもの……。




 そのときだった。

 ドアがするりと開け放たれて、東田先生が顔を見せたのだ。




「みすずさん? ……ちょっといいかしら? ……あ、そうね。お友達もいっしょがいいかしら?」




 そう私たちに告げたのだ。




 私たちは再び鬼平くんの病室へと入った。すると鬼平くんのお母さんと一瞬目が合った。




 ……なんだろう?




 お母さんはなにやら複雑な表情を私に向けていたのだ。

 そして壁に片手をあずけていた。それはまるで自分の重みを支えきれない様子に見えたのだ。





 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

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