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夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
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50 第三話「夢見るように夢見たい」 悪い話と良い話

【毎日昼の12時に更新します】




 

 そしてそのときだった。

 エレベーターが到着するチンとした音とともに瞬くんが姿を見せたのだ。

 どうやら電話が終わったらしい。




「……悪い話と良い話がある。……どちらから聞くか?」




 いきなりそう言ったのである。きっとこの病院の理事長である瞬くんのおじいさんからの電話に違いない。そう思った。




「悪い話を先にして。……じゃないと心が折れそうだから」




 園絵がそう言ってくれた。

 すると瞬くんは私たち女子三人に向き合う形でベンチに腰掛けた。




「……じゃあ、悪い話からだ。

 ……今、じいさんから電話があった。他言無用なんだが、こっそり教えてくれた。……だから言い触らすと困るからな」




 そう瞬くんは私たちに念押しした。もちろんそのつもりだった。




「……鬼平の意識はまだ戻らない。……いや、当分戻りそうもない」




「ええっ……! ど、どうしてっ?」




 私は思わず大声を出しかけた。だけどすんでのところで小声で叫んだ。もちろんそれは、ここが病院だからである。




「脳内をスキャンしたら、悪性の腫瘍が見つかったんだ。それが今回意識が戻らない原因のひとつらしいんだ」




「あ、悪性……。しゅ、腫瘍……」




 私はそのときまるでうわごとのようにそう繰り返していた。なにか悪い呪文でも聞いたような気分だったのだ。




「ああ、手術は、ほぼ不可能。下手すると脳の近くの動脈に傷がつくらしいんだ……」




「じゃ、じゃあ鬼平くんは、ど、どうなるの……?」




 勢い込んで園絵が尋ねる。すると瞬くんはひとつうなずいた。




「提携している大学病院に応援を頼んだらしい。向こうの方が場数を踏んでるベテラン医師が多いからな」




「そ、そうなの。……良かったわ」




 有紀が安堵のため息をつく。だが瞬くんの顔は険しいままだった。




「でも……、断られたようだ。向こうでも自信がないらしいんだ」




「ええっ……! ど、どうしてよっ!」




 ……鬼平くんが死んじゃう。

 私は気がついたら瞬くんの腕をつかんでいた。それほどまでに動揺してしまったのだ。

 だけど瞬くんは嫌な顔ひとつせずに、私に向かってゆっくりとうなずいてくれたのだ。




「そして今度は良い話だ。……先方の大学病院はある人物を推薦してくれた」




「……あ、ある人物?」




 私は尋ねていた。すると瞬くんは笑顔を見せたのだ。




「ああ、……東田(ひがしだ)先生だ。

 お前が推薦したあの東田産婦人科医院の先生が執刀してくれることになったんだ」




「ええっ……!」




 私は今度は大声をあげて叫んでしまっていた。




 ――東田先生が手術してくれるっ……!!




 それは私が最も望んでいたことだ。これ以上の幸せが、今、この時点では考えられない。




「……伝説の脳外科医らしいな。

 ……凄腕の女医。だけど五年前に突然、産婦人科医に転向してしまったらしいんだ」




 瞬くんがため息混じりにそう告げた。すると園絵も有紀も安堵の息をもらす。




「そ、そんなにすごい先生なの?」




 園絵が瞬くんに尋ねる。




「ああ。東田美佐子。……旧姓は千葉美佐子。

 天才的な外科医で、一度死にかけた患者をなんども生き返らせているらしいんだ」




 私はその言葉にうなずいた。

 ……だって私も鬼平くんも一度助けられているんだよ。




「……あ、聞いたことがあるわ。確か有名な洋画家を旦那さんに持つお医者さんでしょ? 美術雑誌に載ってるのを見たわ」




 有紀がそうつぶやいた。

 有紀は美術鑑賞が趣味でよく美術館に通う。そんな関係から雑誌にも目を通しているらしい。




「じゃ、じゃあ鬼平くんは大丈夫ね。そんなすごい先生が手術してくれるんだもん」




 園絵の顔にも笑顔が浮かぶ。




「……で、そろそろその東田先生が到着の頃だ。一階で出迎えるか?」




 瞬くんがそう提案したので、園絵と有紀と私は階下へ降りることにした。




 そして一階ロビーの到着したときだった。




「……な、なにこれ」




 私は思わず口にしていた。玄関のガラス戸の前には白衣を着たお医者さんたちが大勢集まっていたからだ。




 やがて到着するタクシー。

 降りたのは間違いなく東田先生だった。今日も美人で足取りは颯爽としていた。




「東田先生……。お願いがあるのですが……」




 ガラス戸が開き、東田先生が病院に入ったときである。大勢のお医者さんのひとりが東田先生に声をかけたのだ。




「なにかしら……?」




 すると東田先生が返事をするのが聞こえる。




 ……なにか嫌なことかな?




 私はそう考えた。お医者さんたちにもプライドがあるだろう。

 それが外部の……、しかも産婦人科医に脳外科の執刀を頼むなんて誇りに傷がつくから、抗議でもするのかと思ったのだ。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

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