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夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
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45 第三話「夢見るように夢見たい」 事故

【毎日昼の12時に更新します】



 

 ……それは私も感じていた。




 確かに鬼平くんはスポーツが苦手だと言っていた。そしてそれは本当に事実だったようで、ボールをキープしている瞬くんに果敢にアタックしているのだけれども、あっさりと抜かれて尻餅をついてしまうのだ。




「……でも鬼平くんは勉強の方が得意なんだからしょうがないよ。誰でも得意、不得意はあるんだから、欠点を見ないで長所を見るべきだと思うよ」




 私は知らない間に鬼平くんを弁護していた。




「へえー。いやにかばうんだね」




「……ごちそうさまって言うべきなのかしら?」




 すると園絵と有紀が意味深な流し目で私を見るのだ。私は思わず、うぐぐと黙り込んでしまう。




 そのときだった。




 相手チームの男子と鬼平くんがボールを巡って交錯するのが目に入った。




「ああっ……!」




 鈍い音がした。




 相手の男子が誤って近距離からボールを蹴ったのだけれど、それが鬼平くんの頭にヒットしたのだ。その衝撃自体は大したことはなさそうだったけれども、瞬間に宙を舞った鬼平くんが側頭部から地面に叩きつけられるのがわかった。




「お、鬼平くんっ……!」




 私はトラックを走るのを止めてグランド中央に全力で向かった。

 すると事態は大変なことになっているようで、すでに男子たちが集まって人だかりを作っていた。




 その中に倒れたままの鬼平くんが見える。そして血相を変えた体育の先生たちがあれこれ指示を出しているのが見えた。




 ――そして救急車が来ることになる。




 体育は当然、中止になった。男子はもちろん女子も同様で、みんなグランド中央で意識をなくしている鬼平くんを遠巻きに見ているだけだった。




 それは我関せずと言った冷たい行為じゃなくて、なにかをしたくてもなにをしたらいいのかわからないって様子だった。




 そんな中、体育の山田先生は鬼平くんの呼吸を確かめているようだった。そして急いで両手を組み合わせて心臓マッサージを始めて、そしてAEDを大急ぎで持ってくるようにと体育委員に命じているのが見えたのだ。女子担当の鈴木先生は救急車をスマホで呼んでいるのが見える。




「……ど、どうしよう」




 私はがたがた震えていた。本当は人目もはばからず、鬼平くんの元に走り寄ってその肩を揺さぶって目を覚ましてあげたかった。




「全員、教室へ戻って自習するようにっ!」




 山田先生がそう大声で告げた。

 そしてその声に男女ともに渋々と教室へ戻る姿が見えた。だけと私は呆然として動けなかった。




「みすず。……教室へ戻れってさ」




 園絵が震える声でそう私に告げた。だけど私には届いたAEDを装着されている鬼平くんの姿しか見えなかった。




「――スイッチを押してください」




 AEDの電気的な女性の声がそう告げた。そして山田先生がスイッチを入れたことで、鬼平くんの身体が一瞬びくりと反応するのが見えた。




「み、みすずっ! ……見ちゃダメっ!」




 園絵の声は大きかった。

 そして有紀と力を合わせて私を教室へと引っ張った。私は少しだけ抵抗したけれど、園絵と有紀の気持ちがわかったので、すごすごと足を運ばせた。




 そしてサイレンの音に振り返るとグランド内に救急車が急行する姿が見えた。

 ふだん乗り物が乗り込んでくることなんてないグランドに、その赤色灯を回す白い車体があることが異質で、私の不安をいっそう駆り立てた。




「……鬼平は集中治療室に運ばれたらしい」




 その情報は先生たちの公式発表よりも確実だった。午後の授業はいっさい自習になっているときに瞬くんがスマホを切ってそう告げたからだ。




「……ってことは意識が戻らないってこと?」




 園絵が不安そうにそう尋ねるのが見えた。




「ああ。……だけど最新設備のあるところに運ばれたんだから、大丈夫だろう」




 瞬くんがそう言ってくれた。




 瞬くんのおじいさんは街の名士だった。市議会議員を何回も歴任していて、今は総合病院の理事長を務めている。その関係で瞬くんはおじいさんに連絡を取ってくれたのだ。




 私はその会話をぼんやりと聞いていた。




 私は抜け殻だった。

 自分の席に座ったまま誰とも会話することもなくて、ただ涙があふれ続けるのを不思議に思いながら意識が遠くなっているのだ。




「……みすず。あれは事故なんだから相手の男子を恨むなんてこと、しないわよね?」




 有紀が心配顔でそう尋ねてくるのがわかった。私はただうなずいた。




「そう。……だって、あの人はいい人じゃない。きっとみすずもわかってると思うよ」




 園絵のそんな声も聞こえてくる。




 私は相手の人を恨むなんて、ちっとも考えていなかった。ただ鬼平くんのことだけを考えていた。いや、……正確には鬼平くんが登場した昼休みの夢のことだった。




 ……あれはやっぱり予知夢だったのかもしれない。あれは鬼平くんがこの教室からいなくなることを暗示していたのだ。きっと、……それは間違いないと思う。




「とうとう降り出したな」

 瞬くんがそう言うのも聞こえた。外では大粒の雨が降り出していた。




「みすず。送ってくよ」




 放課後。私が上履きから通学用の革靴に履き替えていると、園絵と有紀が立っていた。





 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

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