44 第三話「夢見るように夢見たい」 体育の授業
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「ど、どうして……」
私はその場にへなへなと座り込んでしまった。
「みすず、ちょっとおかしいよ?」
「そうね。……いったいどうしたのかしら?」
園絵と有紀がかがんで私の肩にやさしく手をかけた。だけど私はそれには答えることができなくて、わんわん泣いていた。涙が止まることなく、後から後からあふれ続けるのであった。
――そこで私は誰かに揺り起こされた。
「……みすずさん、もう昼休みが終わっちゃうよ」
鬼平くんだった。
「お、鬼平くんっ!」
私はがばっと跳ね起きた。見ると笑顔の鬼平くんが私を見下ろしていた。
「どうしたの? なんだかうなされていたみたいだけど……」
鬼平くんはそう尋ねてきた。私は涙をハンカチで拭う。
「……う、うん。……ちょっと嫌な夢を見ていたみたい」
私は鬼平くんを直視できなかった。なんだか恥ずかしくて仕方なかったのだ。それは鬼平くんが今、こうしてこの場にいたことに心から安心したこと、その鬼平くんがいなくなる夢を見て涙を実際に浮かべていたことからだった。
「……また鵺でも現れたのかな?」
ちょっと心配してくれている顔で鬼平くんが尋ねてきた。私たちは階段を降りている途中だった。
「……う、うん。……鬼平くんがいなくなっちゃう夢だったんだ」
私は今見た夢の内容を最初は内緒にしておこうと思った。だけど鬼平くんは私と同類の夢見るサイボーグなのである。なにか嫌なことが起こる暗示だったら早めに手を打って置いた方がいいし、その相談相手は鬼平くんしか存在しないからだった。
「僕がいなくなっちゃう?」
「うん。屋上のフェンスから飛び降りて、校門から学校を出て行く夢だった。ちゃんと靴も履き替えていて、バッグも持っていたんだよ」
「へえ、まるで早退するみたいだね」
「うん。……ねえ、これはなにかの予知夢なのかな?」
すると鬼平くんは考え顔になった。
「どうだろう? ……僕は転校したてで親父も転勤して来たばかりだから、もう引っ越しの予定は当分ないと思うけど」
「そ、そうなんだ」
私は心の中で安堵した。現実に鬼平くんがいなくなる要素がまったくないことを知ったからだ。
「……だけど、平沼さんの鵺のときと同じだね」
「フェンスから飛び降りたこと?」
「うん。……みすずさんも夢の中だと実感していたんだろうから、いっしょに飛び降りてみればもっと内容がわかったんじゃないのかな?」
「ああ、……そう言えば、そうだね」
確かに鬼平くんの言う通りだった。あのとき私は鬼平くんを追って、もっと話の内容を追求していれば良かったのかも知れない。
やがて私たちは廊下を歩いて教室の前まで到着した。そしてそのときだった。
「……でも、僕は昼休みは寝ていなかったから、その夢はみすずさんが単独で見た夢だよね? だとするとやっぱり予知夢かもしれない」
「ええっ!」
私は嫌な予感がした。だけど鬼平くんはそんな私を見て笑顔を見せた。
「いや、違うな。……きっと誰かの夢の世界に入っちゃっただけかもしれないよ」
「誰かの夢ってこと?」
「うん。だからもっと眠っていられれば、鵺が現れて夢の正体がわかったかもしれないね」
「そ、そうだね」
私はその言葉に安心した。確かに私がさっき見た夢は、私が勝手に見た夢かもしれないし、他の誰かが勝手に見た夢かもしれないのだ。だとするとなんにも不安がる必要はないのだ。
そして午後の授業が始まることになる。そして私はさっき見た夢がやっぱり予知夢の一種であることを嫌でも実感させられることになったのだ。
午後の授業は体育だった。
私たち女子は不満だった。それはどんよりと曇った黒い雲が原因と言う訳じゃない。
男子と女子は別々に授業を受ける。男子は隣の二組の男子と合同授業だし、女子も同じで二組の女子と同じ教室で着替えをしてグランドに向かったのだけれども、男女の授業内容の差に不平が出まくったのだ。
それは男子がサッカーの授業だったのに対して、女子はその外側のトラックをただひたすら走り続ける長距離走と決まったからだ。
これは男子の体育を受け持つ山田先生と女子の体育を担当する鈴木先生が仲が良く、しかも女子側の鈴木先生がサッカー部の顧問だったことから、二人の先生は仲良く男子のサッカーを見物したい希望が見え見えで、そのとばっちりとして女子には特に指導もいらない長距離走を行ったとしか思えなかったからだった。
「馬じゃないんだから、ひたすら走るのなんて馬鹿馬鹿しいよね?」
私と並んで走る園絵が不満を漏らした。
「だったらゆっくり走ればいいのよ。だってどうせタイムなんて計っていないのよ」
そう言って私と園絵の前を走っていた有紀が速度をゆっくり落としてきた。だから私と園絵もそれに合わせて三人でのんびりとジョギングする形となったのである。
「……でも、瞬くんはすごいわね。サッカー部の人に全然負けてないわ」
有紀はグランドの中央で行われているサッカーを見てそう驚いていた。
「うん。瞬はスポーツ万能だから。……サッカー部から誘いを受けたこともなんどもあるんだ」
確かに園絵の言うのは間違いないようだった。瞬くんはドリブルで次々と相手を抜くとそのままシュートを放ち、そして決める。そしてその後のポーズまでかっこ良かった。
「……でも、鬼平くんは得意じゃないみたいね」
有紀がそうつぶやいた。
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私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




