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夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
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43 第三話「夢見るように夢見たい」 去るということ

【毎日昼の12時に更新します】




「鬼平くん……」




 私はフェンスから校庭を見下ろしている鬼平くんに声をかけた。鬼平くんはなぜかバッグを肩にかついでいて、履いているのも上履きじゃなくて、通学用の革靴だった。




「な、なにしてるの?」




 私は声をかけた。だけど鬼平くんはどこか陰がある弱々しい笑顔を私に向けたまま、フェンスの金網を登り始めたのである。




「また、鵺が出たの?」




 私は有紀が産みだした鵺を思い出していた。あの真っ黒で巨大な鵺の恐ろしさは今でもしっかり憶えている。




「いや、そうじゃないんだ。……僕は行くから」




 フェンスを乗り越えながら鬼平くんが私にそう告げた。




「えっ? どこに?」




 すると雨がとうとう降り始めた。それは大粒の雨でコンクリートの屋上の床に黒い染みを作り出し、濡れたコンクリートの臭いが辺りに広がり始める。




 私は濡れるのもそのままに鬼平くんに走り寄った。




「……じゃあ、しばらく会えないと思うよ」




 鬼平くんはそう言い放つと、とんっとフェンスの向こうに降り立った。




「ど、どういうこと?」




「うん。……僕はどうやら長くここにはいられないようなんだ」




「ええっ? ど、どういう意味?」




 すると鬼平くんはちょっと困った顔になり、やがて片手をあげて床からふっと飛び降りてしまったのだ。




「お、鬼平くんっ!」




 私は夢中でフェンスにしがみつき、金網を登った。そしてフェンスの向こうへと飛び降りた。そして両膝を床につけて身を乗り出した。するととぼとぼと校門へと向かう鬼平くんの背中が見えた。




「待ってっ! ……どこに行くのっ?」




 私は叫んだ。だけとその声はちっとも鬼平くんには届いていないみたいで、鬼平くんは振り返ることも片手を上げることもなかった。




 私は大急ぎでフェンスに登り屋上へと戻って、階段を駆け下りた。そして二年一組の教室へと急いだのである。




 クラスではまだみんなが昼休みを過ごしていた。教室の中は騒然としていて、みんながみんなめいめいの席に座って会話を楽しんでいる。だけどもう昼休みは終わる頃なので、さすがにお弁当は食べ終わっている。




「ねえ、大変っ! 鬼平くんが出て行っちゃったのっ!」




 私は園絵や有紀、そして瞬くんの輪に入って、そう話しかけた。だけど三人とも会話に夢中で私のことに全然気がついてくれない。




「ねえ、私の話を聞いてっ!」




 私はいちばん近くにいた園絵の肩を揺すって振り向かせる。




「どうしたの? みすず。……そんなにあわてて」




「ねえ、鬼平くんが学校から出て行っちゃったのよっ!」




 すると園絵が首を傾げる。




「……オニヘイくんって誰?」




 驚いたことにそんなことを口にしたのだ。




「ええっ! ……鬼平くんは鬼平くんだよ。……鬼塚順平くんのことだよっ!」




 私はそう叫んだ。




「鬼塚さん? そんな人いたかしら?」




「……俺も知らないな。他のクラスの人?」




 有紀や瞬くんまで、私を見てそう言った。




「……嫌だよ。悪い冗談は止めてっ!」




 私はそう答えた。だけど不快な汗が額から伝ってきた。どうしてかと言えば、園絵も有紀も瞬くんも真剣な顔で、首を横に振っていたのだ。




「……ほ、本当に知らないの?」




 私はものすごい不安に襲われた。毎日をいっしょに過ごして、時には笑いあって、時には真面目な話をし合っていた仲間の鬼平くんを知らないと言うのだ。




「……も、もしかして、みすずは夢でも見たんじゃない? ……その人、将来の彼氏とか?」




 突然、園絵はそんなことを言って、けたけた笑い出す。




「や、止めてよ。私たち、そんなんじゃないから……」




 私は答えるけど、声が震えていた。




 ……確かに私は今眠っていて夢を見ている。それはわかっている。

 だけど私の夢はふつうの人の夢とは違うのだ。私はバイオサイボーグで、夢世界と言う、もうひとつの現実の中でも生きているのだ。だから私に対して『夢でも見たんじゃない?』って言葉は通用しない。




 私は猛烈に焦りを感じていた。

 そして周りのみんなにも鬼平くんのことを尋ねてみた。だけどみんな一様に首を横に振る。誰も彼もが『鬼塚順平』の存在を否定したのだ。




 私は鬼平くんの机を調べた。そして愕然とした。その中にあるはずの教科書やノートがいっさいなくなっていた。




 ――この教室に、鬼平くんがいた痕跡がまったく消滅していたのであった。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。


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