表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
43/65

42 第三話「夢見るように夢見たい」 はじまり

【毎日昼の12時に更新します】



 

 ある昼休みのことである。

 私はその日も屋上にいた。白く塗られてところどころはがれて錆が浮いたフェンス。点検のためにはしごがついた給水塔。

 そして眼下に広がる校庭。吹き抜けていく風。流されていく雲。そして青い空。




 いつもと変わらない秋の風景だった。




「……あの千葉美佐子さんが東田先生だったんだね」




 そう鬼平くんがしみじみとつぶやいた。




「うん。……なんだか不思議な気分よ。だって、私が言ったことが元になって、先生のご主人が東京の美術大学に通うことになったんだから」




「東田誠一郎さんだっけ?」




「うん」




 私は東田産婦人科医院に飾ってあったいくつもの絵画を思い出す。

 東田誠一郎さんは元々、風景画が得意だったと千葉さんは言っていた。確かに新宿を描いた風景はすばらしかったけれど、私にはポニーテールの制服姿で千葉さんを描いた肖像画の方がすてきに思えていた。




 あの絵には苦手な人物画を克服しようとしてがんばった若き日の東田誠一郎さんの努力と、それ以上にモデルへと注がれる愛情みたいなものを感じたからだった。




「その画家さん、結構有名みたいだよ。個展もいくつか開いているし、ネットオークションでも高値で取引されていた」




「そ、そうなんだ」




 私は驚いた。東田先生はあまり売れてないようなことを言っていたからだ。




「謙遜していたんだろうね。……でも画家は成功するまでが大変だから、東田先生の協力があったからこそ、今の東田誠一郎さんって言う画家があるんだと思うよ」




 私はそれがいい話だと思った。お互いがお互いを支えて毎日を暮らしていく。そういうものが男女の間では自然でいちばんいい暮らしだと感じたのだ。




「それに……、東田先生が目指したのも東田医院の再興だったと思うんだ」




「東田医院の再興?」




 私はなんのことがわからなくて、鬼平くんにそう尋ねていた。




「うん。……先生が元々、医者になろうとしたきっかけは幼い頃に指を縫合してもらった東田医院だったんでしょ? そして跡取りがなくなって廃院になった」




「あ、……そういうことね。だからお医者さんの千葉美佐子さんが東田誠一郎さんと結婚して、個人医院を開業したことで東田産婦人科医院ができたんだ」




 すると鬼平くんが深くうなずいた。




「うん。そうだろうね。……東田先生に聞いたんだけど、今の産婦人科医院がある場所は元々、東田医院があった場所なんだってさ。だから開業してまだ何年も経ってないのに、患者さんが多いんだって。……つまり元々、東田医院にお世話になっていた地元の人たちが憶えていたってことなんだね」




「そうなんだ……」




 東田先生は、昔お世話になった当時のおばあさんの東田先生の遺志を受け継いだ訳なんだろう。跡継ぎがいなくて泣く泣く廃業したおばあさん女医さんの跡を立派に継いだと言うことなんだろうと思った。




「だから、東田先生は大学病院を辞めて個人医院を開業したんだろうね」




 鬼平くんがそう言う。私は静かにうなずいていた。




「なんか人間ドラマだよね?」




 私がぽつりとつぶやいた。




「そうだね。……でも東田先生も大変じゃなかったのかな? 確かに医師法では医師免許を持っていればどんな診療科目でも開業できるって聞いたことがあるけど、脳外科から産婦人科だからね」




「そうなんだ……。でも、あの先生だからできたんだよ」




 私は医師法なんてのはちっとも知らない。

 だけど千葉美佐子さんのことだから、きっととても努力したに違いない。あれだけ一途に東田誠一郎さんに尽くした人なんだから、その情熱を医学の勉強にも費やしたのだと思ったのだ。




「そうだね。……あの東田先生だもんね」




 私の言葉に鬼平くんはうなずいていた。

 やがて昼休みが終わった。そしていつもの毎日へと戻ったのである。




 それからの私の日々は特に変化はなかった。

 相も変わらず夢ばかり見ていたけれど、鵺が登場することもなかったし、ときたま鬼平くんと夢の中で遭遇することがあるくらいだった。




 ――だけど事件と言うのは、あまりにも突然起こるものなのだ。




 私は夢を見ていた。

 それは見慣れた学校の屋上で、どうやら昼休みのようだった。




「……あれ?」




 私はいつも通りベンチに横になっていた。だけと空が低くて真っ黒な雲がもくもくと広がっている。




「……一雨来るかも」




 私はベンチから起き上がり、辺りを見回した。すると鬼平くんの姿があった。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ