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夢見るように夢見たい  作者: 鬼居かます
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41 第二話「遠い日」 遠い日に

【毎日昼の12時に更新します】




「そ、それってノストラダムスの大予言ね」




「ノストラダムス? ……ああ、聞いたことあるよ」




 確か二十世紀末に地球が恐怖の大王によって滅ぼされるって予言した人だったと思う。だけど私たちは二十一世紀にもこうして平気で生きているので、その予言は当たらなかったと言う訳だ。




「……わかったわ。それだけで安心した。

 じゃあ私が無事に医者になれても、あの人が絵描きになったとしても地球は残っているってことね。……良かった。正直、私、その『大予言』を信じてたから……。だったら安心して思いっきり一生懸命生きられるわね」




 そう言った千葉さんは最高の笑顔を見せていた。




「浅井さん。いろいろありがとう。後は私たちで努力してみるわ」




「うん。私こそ楽しい夢を見せてもらったからうれしいよ」




 私がそう答えると千葉さんは私に握手を求めてきた。だから私も右手を差し出した。千葉さんの手はひんやりとしていて柔らかかった。




「じゃあ、いつか会いましょう」




「え?」




「私の夢はもう半分はかなったの。

 ……あの人は大阪に行かないし、毎日苦手な人物画も描いてるし、私も毎日あの人に会えるし……。だから後は自然に任せようと思うの?」




「自然に?」




「ええ。自然にね。……自然に行けば、きっと私からか、あの人からかはわからないけど、いつか告白する日が来ると思うの。……だから私はもう大丈夫。浅井さんは他の困っている人の夢で助けてあげて欲しいのよ」




 そう言うと千葉さんは握手を離して、私に背を向けた。




「私、浅井さんにいつかまたきっと会えると思うわ。そしてそのときに浅井さんが困っていたら、きっと力になってあげる。それが私からの恩返しよ」




 そう言って千葉さんは去って行った。その足取りは威風堂々としていて颯爽としていた。




 そして千葉さんを見送っていたら、意識が遠くなった。




「……あ」




 私は気がつくと水音が聞こえるベンチに座っていた。




 ふと見ると対岸には、やっぱりベンチに座っているグレーの鵺が見えた。だけど身体の色は前ほど濃くなくて、かなり白が強い淡いグレーだった。




「……や、やっぱり?」




 私はふと気がついた。すると鵺は立ち上がり私に手を振ったのだ。




「やっぱり、あの鵺は千葉さん……?」




 そうかも知れない。

 だって、グレーの鵺は背丈格好が千葉さんと同じくらいだったのだ。そして鵺は手を振ったまま、私に背を向けて遠くに歩き去って行った。




 桜はやっぱり季節外れを起こしている。落葉して、開花して、また落葉を繰り返している。そんな中、鵺はどんどん遠ざかって行くのであった。




 ――こうして私は夢から覚めた。




 ある日のことである。

 私はその日、定期的に通っている東田産婦人科医院に診察に行った。




 私はその日も制服姿だったけど、もう周りの妊婦さんたちの顔色をうかがうことはなかった。もうなんども来ていたし、それよりも待合室の絵画に夢中になっていたからだ。




 以前来たときには東京の風景画しか目に入らなかった私だけど、待合室にはその他にもいろいろ絵が展示しているのがわかった。そのすべてがきれいで素晴らしいと思った。




「……あっ!」




 そして私は待合室の片隅にある一枚の小さな人物画に目を奪われた。それは私と同じ大沼東高校の制服姿の女子高生が椅子に座って遠くを見ている絵画だった。




 ただ私の制服と違っているのはスカート丈が長くて膝まですっかり覆われていた。そして絵の隅には東田誠一郎とサインが入ってあって、日付は三十五年前だったのだ。




「浅井みすずさん」




 受付からそう呼ばれたので私は診察室へと入って行った。




「最近、調子はどうかしら?」




 今日も美人の東田先生はそう質問してきた。




「お陰様で絶好調です。最近、いい夢を見たんで気持ちがいいんです」




 私は正直にそう答えた。




「どんな夢だったのかしら?」




「はい。ある女の子と出会いました。

 その人は医学部を目指していました。そしてその人の彼氏は画家になるために毎日その女の子をモデルにして人物画を勉強している夢でした」




 すると東田先生は、にっこりと笑顔を見せてくれた。それは私には見覚えのある仕草だった。




「……懐かしいことを思い出させてくれたわね。そう言えばそんなこともあったかしら」




「はい。……待合室にある絵は先生のご主人が描いた絵ですね?」




「そうよ。……まだそんなに売れっ子にはなれてないけど、最近は画廊から依頼が来るようになったのよ」




 東田先生は嬉しそうにそう答えた。




「結局、東田誠一郎さんは東京の大学に通えるようになったのですか?」




「ええ。誰かさんのお陰で現役で合格できたわ。今から思っても本当に奇跡ね。……それからの私たちは自然のままに過ごして結婚したのよ。……ありがとう」




 そう言って先生は私にお礼を言ったのだ。




「ええっ! お礼ならいいです。

 だって先生だって私との約束を守って、私の命を救ってくれたんですよ」




 私が勢い込んでそう言うと先生はとてもうれしそうな笑顔を見せてくれた。その表情にはかつてのポニーテール少女の面影が、私にはかすかに感じられたのだった。





 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「生忌物倶楽部」連載中


「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中





「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み


「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み


「墓場でdabada」完結済み 


「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み


「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み


「空から来たりて杖を振る」完結済み


「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み


「こころのこりエンドレス」完結済み


「沈黙のシスターとその戒律」完結済み




 も、よろしくお願いいたします。

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