39 第二話「遠い日」 三十五年
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「ねえ、教室に帰ろうよ。そして瞬くんに訊いてみよ」
私は鬼平くんをせかして教室へと戻った。そして瞬くんを捕まえて、屋上のフェンスが設置された時代と過去の卒業アルバムの件をお願いしたのだった。
「それは構わないけど。……どうしてその千葉って女子のことを調べる必要があるんだ?」
軽く請け負ってくれた瞬くんだけど、当然の質問をして来た。
「えーと、信じてもらえないかもしれないけど夢に出てきたのよ」
「夢? 夢だって?」
瞬くんは驚いている様子だった。
「私からもお願いできないかしら? みすずの夢は正夢が多いの。だからきっとうまく説明はできないけれど意味があるんだと思うのよ」
気がつくと有紀も加勢してくれていた。有紀は鵺の件で私と鬼平くんが夢の世界に登場するのを知っている。だから協力してくれたのに違いない。
「ああ、わかった。……なんだかわからないけれどフェンスのことは学年主任の先生に訊いてみる。……ヤツならこの学校の卒業生だし、ずっと転勤もしていないからきっと知っていると思う。それに卒業アルバムは歴代のものが生徒会室に置いてある」
そう言って瞬くんは手伝ってくれることになったのだ。
「ありがとう」
私がお礼を言うと瞬くんは笑顔を見せてくれた。
「まあ、お前の頼みだからな。最初から手伝うつもりだったぜ」
そう言ってくれたのだ。
そしてその日の放課後だった。
私と鬼平くんはすでに誰もいなくなった三年一組の教室にいた。すでに日は傾いていて、西日のオレンジ色の光が窓から差し込んでいた。
「待たせたな」
そう言って瞬くんがやって来た。手には古ぼけた卒業アルバムを何冊か持っている。
「屋上のフェンスだが、今から三十年以上前に設置されたらしい。……当時、受験ノイローゼになった三年生が飛び降りようとした自殺未遂事件があったらしいんだ。……それからしばらくの間は屋上は出入り禁止になっていたんだけど、フェンスを設置したことで再び開放されることになったようだ」
瞬くんは学年主任の先生から聞かされた話をそう伝えてくれた。
「に、三十年以上前……」
私はにわかには信じられなかった。今から三十年前以上だと私のお母さんが高校生くらいだった頃の話だからだ。
「……それならスカート丈が長いのと、スマホ、つまり携帯電話が普及してないのと、テレフォンカードが主流ってのは説明できるよね?」
鬼平くんの言葉に私はうなずいた。
「で、これが卒業アルバムだ。フェンスの時代から推定してその時代のものを片っ端から持ってきた。これならその女子が載っている可能性もあるだろ」
そう言って瞬くんは机に並べた卒業アルバムたちを見せてくれた。
「俺は生徒会の会議がまだあるから生徒会室に戻らなきゃならない。だからアルバムは後で返しに来てくれ」
「うん、わかった。ありがとう」
私がお礼を言うと瞬くんは背中を向けながら片手を上げて返事をしてくれた。
「この中に千葉美佐子さんがいるんだね?」
「うん。きっといると思う」
鬼平くんの質問に私はそう答えた。
そして私と鬼平くんは卒業アルバムを一斉に調べ始めた。時間はだんだん経っていて、それから一時間くらい経過したときだと思う。
「……あった」
鬼平くんがそう言った。
「ええっ! どこ?」
私は鬼平くんが指し示す写真を見つめた。するとそこには夢で見たのと全く同じポニーテールの千葉美佐子さんがいた。
「三年十二組か。……当時は生徒数が多かったんだね」
鬼平くんがそう告げた。見ると確かに千葉さんが所属するクラスは十二組だった。今は各学年ともに五組までしかないから、当時は現在の倍以上の生徒が在校していたことになる。
私が通う今の校舎には空き部屋ばかりが目立つけど、三十年以上前はあの空き部屋が教室として全部使われていたなんて想像もできない。
「……女子が少ないんだね。千葉さん以外に三人しかいない」
私は当時の三年十二組に所属する生徒の写真を見ながらそう言った。
「いわゆる理系クラスじゃないのかな? だとすると男子が圧倒的に多いのも説明できるし、だいいち千葉さんは医学部志望なんでしょ?」
「うん。だとすると、クラスではもてまくったのかもしれないね」
私は美少女に分類できる千葉さんを見てそう思った。
「うん。きれいな人だよね」
鬼平くんも私と同じ感想だったようだった。
「ねえ、これって今から何年前なの?」
すると鬼平くんは卒業アルバムの表紙を見た。
「……今から三十五年前。だとすると僕たちの親たちがまだ小学生くらいだったときだね」
「そんなに昔って絶句しそう。……じゃあ千葉さんはすっかり大人になっているんだね?」
「うん。それだけじゃなくて、千葉さんが好きな人もね」
鬼平くんの言葉に私はうなずいた。
その後、私と鬼平くんは生徒会室に行って卒業アルバムを瞬くんに返した。
「目的の人は見つかったのか?」
そう瞬くんが尋ねてきた。
「うん。三十五年前の卒業生だった」
「三十五年前……。すごいな。実感できないぞ。……そうか、でも良かったな」
そう言うと瞬くんは、首を傾げつつ生徒会室に戻って行った。
「松田はあれこれ詮索しないんだね?」
「うん。人には人の事情があるってふだんから瞬くんは言ってるもん。園絵はおしゃべりであれこれ質問してくるけど、瞬くんはそれとはまったく逆の性格なんだ」
「へえ。……だからあの二人はうまくいっているのかもね」
「どういうこと?」
私が尋ねると鬼平くんは立ち止まって説明してくれた。
「プラスとマイナス。片方が出っ張ると片方がへっこむ。だからうまくいく。二人合わせてちょうど釣り合いが取れるんだ。これが同じ性格で、両方ともプラスだとぶつかるし、両方ともマイナスだと会話も成立しない。……だから小泉さんと松田はバランスがいいカップルだと思うんだ」
「……そ、そうだね」
そう答えた私は思わず鬼平くんから顔を背けてしまった。
……まるで私と鬼平くんみたい。
そんな気がしたのだ。私は他人に尋ねてばかりだし、頼ってばかりだけど、鬼平くんは質問に丁寧に答えてくれるし、私のために鵺から身体を張って守ってくれたことを思い出したのだ。
「……みすずさん? どうしたの?」
「う、ううん。……なんでもない。なんでもないよ」
私はそう言ってごまかした。そして下校の準備をするために教室へと戻ったのだ。
「……みすずさん、今夜も千葉さんに会えるのかな?」
通学バッグを肩にかけた鬼平くんがそう尋ねてきた。
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私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




