37 第二話「遠い日」 見慣れぬカード
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「そ、それはなにかしら?」
「え? ……スマホだけど」
すると千葉さんは不思議そうな顔になって私が拾ったスマホを見つめている。
「スマホ? それって?」
「ええっ! ……スマートフォンだよ!」
そのとき私は千葉さんがなにを言いたいのかわからなかった。千葉さんの顔が見る見るうちに驚き顔に変化したからだ。
「スマートフォン。名前からすると、……そ、それって持ち運べる電話ってことよね?」
「え? あ、うん。そうだけど……」
「高いんでしょ? ……高校生なのにすごいわね」
「へ? ……みんな持ってるけど」
そのとき私は千葉さんがなにを言いたいのかわからなかった。
私のスマホは高校入学のお祝いに両親から買ってもらったものだから、すでに旧型になっているものだった。
「みんなが持ってるの? そんなすごい電話機を?」
千葉さんの驚きは決して嘘偽りがなさそうだった。ホントにびっくりしたような顔になったのだ。
「ちょ、ちょっと見せてもらえるかしら?」
「いいよ、はい」
私は千葉さんにスマホを渡した。
すると千葉さんはスマホの画面をまじまじと見つめているのであった。
「この液晶画面に情報が出るのね。……おどろいたわ。液晶がフルカラーなんだ。写真がとってもきれいね。そしてこのボタンで電話番号を押すのね?」
「うん。でもだいたいの電話先はメモリーに登録しているから、いちいちボタンを押すことは少ないよ」
私はスマホの使い方を講義した。だけど不思議な気分だった。千葉さんは理数系が得意なことから飲み込みは早かったけれど、スマホに触るのはまったく初めてだと言うのだ。
「このメールってのはなにかしら?」
「え? ……メールはメールだよ」
「手紙ってこと?」
「うん。……えーと、電話番号と同じでみんなが自分だけのメールアドレスってのを持ってるの。そこに送ればその人にメールを送れるってこと」
「……ファックスみたいなものってことかしら?」
千葉さんはそう質問した。私は少し考える。それは電子メールとファックスの違いのことだった。
「う、うん。……でもファックスと違って紙はいらないし、写真とか音とか映像とかもいっしょに送れるんだよ」
「へえ。……便利ね」
千葉さんは心底感心している様子だった。私は果たして私のつたない説明でスマホの特徴をうまく説明できたのか不安だったけど、頭の良い千葉さんはそれでも理解してくれたようだった。
「私とあの人もこんなスマホを持っていれば、もっと気持ちが直接通じるのにね……」
液晶画面を見ながら千葉さんが、ふいにつぶやいた。そして言う。
「……じゃあ、浅井さんの世界ではこのスマホはふつうに普及しているのね? これなら公衆電話を使わなくてもすむし、家族に気兼ねなく電話できるわね」
話を聞いて私は気づいた。
教えてもらった話では千葉さんの世界では携帯式の電話機はごくごく一部にしか普及していないらしく、街で見かけることもないらしい。
そういうことから家の固定電話か公衆電話を使うしかない訳で、それで相手と話すには相手の家族が近くにいるに違いないことを理解したのだ。
……それなら本音は言えないよね。
私たちはスマホでふつうにSNSを使ったり、電話したりで個人的な話をだらだらとする。それは相手もスマホを持っているからで、だから秘密の話も簡単にできるのだ。
何が言いたいかと言うと、電話を使って告白なんかできないのだ。
私は千葉さんと画家志望の彼氏との間が、なかなか進展しない理由のひとつを悟ったのだった。
「じゃあ、これは浅井さんは持っていないでしょ?」
そう言って千葉さんはお財布から一枚の薄いカードを取り出した。
「なにこれ?」
「テレフォンカードよ」
「テレフォンカード……?」
私はイラストが描かれたカードを見た。すると五百円と書かれてあった。そして隅を見ると小さな数字が書かれてあって、その横にかすかなパンチ穴が開いている。
「コンビニとかのお店で買うの。その表示されている度数分だけ公衆電話で電話できるのよ」
私はそう言われて思い出す。
「ああ、確か昔、このカードをみんなが使っているって聞いたことがあるよ」
「へえ……、じゃあ浅井さんの世界でもあったのね」
「うん。今はあまり使う人もいないから買う人も少ないと思うよ。それに公衆電話だって少なくなったってお母さんから聞いてる」
私はテレフォンカードをまじまじと見た。
そのカードには有名な画家の作品がプリントされていて、とてもきれいだと思ったのだ。私はカードを千葉さんに返す。
「でも、このカードってきれいだね」
「ええ。いろんな写真とかイラストとかがデザインされているから、コレクションにしている人もいるんだって」
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




