32 第二話「遠い日」 うらはら
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そのときだった。千葉さんがふいに私の目を直視したのだ。
「ねえ、突然だけど、浅井さんって彼氏はいるのかしら?」
「ええっ……!」
私は驚いてしまった。そして全力で首をぶんぶん振る。
「い、いないよ……」
すると千葉さんはなぜか少し残念そうな顔になる。
「そう。……浅井さんは明るくて元気そうだから、きっと彼がいると思ったわ」
そう言うのだ。
そのとき私の頭に浮かんだのは、意外にも……、鬼平くんだった。
……ち、違うっ!
私はそんな思いを振り払う。鬼平くんと私は確かに仲がいい。
だけど園絵と瞬くんとか、目の前の千葉さんとは違うタイプの仲の良さで、互いの秘密を共有しているだけ。それだけなのだ。
だけど私の顔は意識とは裏腹に真っ赤になってしまったようで、千葉さんはそんな私を見てこう言ったのだ。
「片思いの人なら、いるみたいわね」
「……えっ」
――なんて答えればいいんだろう?
……なんて困惑していたら目が覚めた。
枕元の時計を見ると午前二時過ぎだった。のどの渇きを覚えていた私は階下に降りて水を飲む。
……ふう。
ようやく人心地がついた。……それにしてもリアルな夢を見るのも考えものだな、なんて思った。
そして朝。
私はその後夢を見ることもなく目覚めた。
なんだか変な気分だった。……後味が悪いと言うか、始末に負えないって言うか。
その理由は千葉さんから彼氏がいるか? と尋ねられたからである。
「お、おはよ……」
だから学校の昇降口で鬼平くんとばったり出会ってしまったときに、うわずった声で返事しかできなかったし、その顔を直視することもできなかった。
――私は鬼平くんを意識してしまったのだ。
だけどその後は授業が始まったので、そのことも忘れることができた。
そして昼休みのときである。私は今日も、鬼平くんと園絵と瞬くん、そして有紀といっしょにお弁当を広げたのである。
「……みすずさんは、今日は調子が悪いのかな?」
あまり会話にも参加せずに、ただもくもくとお弁当を食べていた私に、鬼平くんがふいに尋ねてきた。
「……えっ? ……べ、別になんでもないよ」
私は思わず箸を止めてしまった。
「そう? ……ならいいんだけど」
鬼平くんがそう言う。顔を見るとちょっと心配そうな視線を送ってくれていた。
「私も今日のみすずはおかしいと思うよ。さっきから話しかけても心ここにあらずって感じだし」
園絵までそう言い出す始末だ。
「う、うん。……今朝ちょっと目覚めの悪い夢を見ただけよ。だから少し考え込んじゃっているだけ……」
私は仕方なくそう答えた。
そのときだった。
私は恋愛のことで先輩に当たる人物が目の前にいることに気がついたのだ。それは園絵と瞬くんだ。ふたりは中学時代から付き合っていると聞いている。
「あ、あのさ。……園絵と瞬くんはどういうきっかけでつき合い始めたんだっけ?」
気がつくと私は園絵と瞬くんにそう話しかけていた。
すると園絵も瞬くんも一瞬ぽかんとした表情になった。そしてその後、真っ赤になった園絵が口を開く。
「……べ、別に特別なことなんてないよ。ただなんとなくつき合いが始まっただけ。……私たちは特別だったから」
「……お、俺たちは幼なじみだからな。気がついたらいっしょになってただけだ。他の連中の場合とは違う」
瞬くんも耳まで赤くしてそう答えてくれた。
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私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




