22 第一話「夢か現か幻か……」 病室
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「ほ、他に回り道はないの?」
「ない」
私の問いに鬼平くんが即答した。
「グボボボボボーッ!」
鵺は私と鬼平くんを発見したみたいで、その天井まで到達する背丈をゆっくりと振り向かせる。目も鼻も口もないのに、なぜか私には鵺がほくそ笑むのがわかった。
「ど、どうしよ……」
私は後ずさりした。
そして背後を確認する。階段を使えば逃げることは可能なはずだ。だけど、そのとき鬼平くんが口を開いた。
「行こう。僕が囮になる。その間にみすずさんは平沼さんのところに行くんだ」
「ええっ! そ、そんなことしたら……」
鬼平くんは捕まってしまうだろう。
そして鵺になにをされるかわからないけど、絶対に愉快な展開が待っているとは到底思えない。
「いいから。それしか方法はない。
じゃないとこの悪夢はいつまでも続くんだ。そのうちにみすずさんたちクラスの全員が寝不足で体調不良を起こすことになるし、それよりも悪夢のストレスで精神的におかしくなるかもしれない」
「で、でも……」
それでも私は食い下がる。他に方法がないのか考えたいのだ。
「それしか方法がない。
……第一、僕は平沼さんを知らない。彼女と会話ができても事態を説明するのに時間がかかりすぎるんだ」
そう言い残すと鬼平くんは私の背を押した。そして鵺の方角へと走って行ったのだ。
「お、鬼平くんっ!」
私は立ち尽くした。
見ると鬼平くんは床に置かれていた観葉植物の鉢を鵺に投げつけた。だけど鵺にはまったく通用しなくて、軽く手で払われてしまう。でも、鵺の注意を引きつけるにはそれでも十分だったみたいで、鵺はグボボボボと唸りながら鬼平くんを追い始めた。
「い、今だっ!」
鬼平くんが叫んだ。私はがくがく震える膝を叩いて覚悟を決めた。
鬼平くんは今、鵺を挑発しながら三○七号室とは別の方角へと後ずさっている。私は、えいっ、と気合いを入れると鬼平くんを脇目に見ながら小走りで通路を走る。
「……お願いだから、無事でいて」
そんな祈りにも近い言葉を口にしながら、私は泣きながら奥へ奥へと突き進んだ。
涙が糸を引いて後ろに流れ飛ぶ。そしてその間にもずしんずしんと鵺が這い回る音がする。
――三○七号室。
私は入り口に貼ってあるプレートを確認した。
確かにそこには平沼さんの名前がある。私は引き戸をするりと開けた。すると部屋の両側に二台ずつベッドがあって、それぞれカーテンが閉められている。
私は入り口プレートの配置から窓際右側だと判断して、カーテンを開けた。
するとそこにはやつれた顔の平沼有紀さんの姿があった。
平沼さんは横向きで寝ていて私に顔を向けている。化粧っ気がない青ざめた顔で、額から汗を浮かべている。
私は平沼さんとはそれほど仲が良かった訳じゃない。だけど学校に来ていたときの平沼さんはもっと血行がいい顔だった気がする。
「……平沼さん?」
私は声をかけてみた。だけど平沼さんは少しうめいただけで目を覚ます気配が無い。
「平沼さん」
今度は少し大きめの声を出してみた。
すると一瞬目を開きかけたけど、またまぶたを閉じてしまう。
「平沼さん。ねえ、起きて」
今度は肩を揺さぶった。
しばらくそうしていると、とうとう平沼有紀さんは目を覚ました。ぼんやりとしていたけど、目はぱっちり開いていて天井を見つめていた。
「……誰?」
平沼さんはやがて視線を私に移した。
「私は同じクラスの浅井みすず」
私がそう答えると、平沼さんの目が驚きで大きく広がった。
「ど、どうして浅井さんがここに? ……これから学校じゃないの?」
「違うのよ。これは平沼さんの夢の中なの」
私はそう告げた。果たして理解してくれるだろうか……?
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




