15 第一話「夢か現か幻か……」 鬼平
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「……風邪と言うよりも、ストレスね」
やさしい顔の保険医の先生がそう私を診断した。
先生は末松先生と言う女医さんで長年大沼東高校の保健室で働いている中年の先生だ。
「……ストレスですか?」
「ええ。最近なにかショックなことはなかったかしら?」
「……い、いえ」
私は昼休みに見た夢のことを言えなかった。
それは他人に話すには荒唐無稽過ぎるし、信じてもらえる確信がなかったからだ。
「でも熱もあるのは確かね。……早退して病院でちゃんと診てもらった方がいいわ」
結局、末松先生の助言もあって、私は早退することにした。
そしてその足で病院に向かうことになったのである。
私が訪れた病院は内科ではなくて、東田産婦人科医院だった。
確かに私は熱っぽい。
だけど原因はストレスだと聞かされた。そしてその元になったのは昼休みに見た悪夢だ。だから東田先生に診てもらうのがいちばんだと思ったのだ。
東田産婦人科医院は今日も待合室に患者の姿はあった。
もちろんみんな出産を控えた妊婦さんたちだ。その中で制服姿の私は思いっきり目立っていて、注目されていた。
「……あの子、高校生よね?」
「あの年で、できちゃったのかしら……?」
「嫌ね。最近の女の子は……」
そんなこそこそ話の声が聞こえてくる。
だけどそのときの私は恥ずかしさよりも、熱からくるだるさや悪夢のことで頭がいっぱいだったので、そのことはあまり気にならなかった。
でも気になることは他にあった。
それは絵画だ。私は待合室にある一枚の風景画に見とれていた。
それは東京のどこかと思われる高台からの風景で、新宿の都心部が遠くに描かれている絵だった。
その絵は空の色と雲の質感がたまらなくすてきだった。
「浅井みすずさん」
順番が来て、私を呼ぶ声が聞こえてきた。
私はとぼとぼと診察室へと向かった。
「どうしたのかしら?」
東田先生は私を見て心配そうな顔をしてくれた。
そして私が正直に昼休みに見た悪夢とそれが原因で熱が出てしまい早退したことを話した。
「熱はストレスから来る一時的なものね。だからそれに関しては心配ないわ。問題は悪夢ね」
「……とにかく怖かったです。あの黒いお化けはなんなんでしょうか?」
「あなたは前日に怖い物語を見たり読んだりした?」
「いいえ。夜中に『赤毛のアン』を読んだだけです。……あっ!」
そこで私は思いだした。
私が夜中に目を覚まして『赤毛のアン』を読んだのは、その前に悪夢を見たからだ。
それは内容は憶えてないけど、それも何者かに追っかけられる夢だったはずだ。
私はそのことを東田先生に話した。
「……すると、夜中に見た夢と昼休みに見た夢は同じだったのかもしれないわね」
「同じなんですか?」
「ええ。みすずさんが夜中の方の内容を憶えてないだけで、悪夢の正体……。
同じお化けに追われたのかもしれないの」
「……えーと、ある人はそのお化けを『鵺』と呼んでいました。
そしてその悪夢は私が見ている夢じゃなくて、他の誰かの夢の中だと言ってました……」
「ある人? 鵺?」
「はい」
私が正直に答えると、東田先生はしばらく腕組みをして無言になった。
「夢の中に現れたその人の顔とか名前とか憶えているかしら?」
「はい。……鬼平くんと名乗ってました。私と同い年の男の子です」
すると東田先生は目をまんまるにして驚いていた。
「鬼平くん。……みすずさん、あなた鬼平くんを知ってるの?」
「ええっ! ……は、はい。
……で、でも実際に会ったことはないです。夢の中でしか会ってないんです」
私はなんだかいけないことを言ってしまったのかと思って、あわてて答えた。
そして額には汗が浮かんでくる。
そのあと東田先生はしばらく無言だった。
だけどその後、ぽつりぽつりと話し始めてくれた。
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私の別作品
「生忌物倶楽部」連載中
「いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




