香水 しょうもな度☆3
理由:ちょいきもいから
あの匂いの名前を聞かなかったことを僕は後悔している。あの、彼女がつけていた香水だ。彼女が現れる瞬間、いつもあの匂いがした。もう、匂いも思い出せないくらいに思い出は薄まっていて、執着もなかった。ただ、互いに互いが目に入る場所に彼女は、そして僕は居続けた。消してしまえば、消えてしまえばいい話なのは分かっていた。でもどうしても気力がわかなかった。勿体なさだろうか。それとも少し好きな気持ちでもあるのだろうか。そんな想像はなんの意味も持たない。そんなことはわかっている。答えを出すことを怖がっているうちは無駄だ。
僕はこの下らない気持ちへの整理を何年もつけられないでいる。だから香水の名前を知りたかった。その匂いを嗅いで何も思い出さなければ終わったものとして捉えられる気がした。でも僕にはそんな勇気は無い。そんな気持ち悪いことを聞く勇気も、もちろん連絡先を消す勇気も。多分彼女は僕を「元彼」とは呼ばない。僕には分からない。彼女が僕にとってなんなのか分からない。
ふと見ると遠くにスカイツリーが見えた。天気雨が降っていた。どうせ忘れるその風景を僕は食い入るように見つめた。
そして、変わろうと強く思った。そのまま僕は適当に香水を買った。蓋を開けて香水をつけた。その香水の匂いを彼女の匂いということにして、そのまま捨てた。彼女の連絡先も消した。さよならなんて言わなかった。頭にも浮かべなかった。もうそんなことは済んでいたはずだ。
僕は電車に乗った。そして、このくだらない思考と回想は、永久に終わる。