92.10人の部員(一部審議中)
「ふふっ、これね。あっ!」
「ひひっ、先輩……ドンマイです」
「いやいや、それだとバレバレだけどね」
あれ? デジャブ?
「うっ、うるさい。最後に勝つのは私よ! ちょっとシロ、早く采から取りなさいよ」
「大丈夫。僕は持ってないよ」
……ん? 夢かな? なんか間違ったかな?
すっ。
そんな俺に追い打ちをかけるように現れるジョーカー。
「おい、蓮! 早く手札引かせろー。あっ、さてはお前ジョーカー引いたな?」
「えっ、そうなの? 栄人君引かないでね?」
こりゃ完全に夢だな? ったく、しっかりしてくれよ? 俺。
「見える! 見えるっす! 片桐先輩……持ってますね!」
「なっ、なんだと!?」
「えっ、相音? あんたそういうの見えるの?」
「……勘!」
「期待した私がバカだった」
「でも、今の片桐先輩の反応見たら……」
「だよね? 六月ちゃん。たぶん持ってるよね? 栄人君」
ちょっとたんま、夢にしては妙にリアルに声が聞こえるんだが? 海璃に六月ちゃんにそん?
「まぁ、あるべき所に戻ってくるって言うしね?」
しかも……凜まで?
1、2、3……10人。あれ? これって、兼任組を含めた現鳳瞭ゴシップクラブの人数じゃね?
ん? ちょっと待って? 嫌な予感しかしないんですけど? まさかこれは……
夢じゃない!?
…………あぁそうだ、あの日だ……あの時のヨーマの一言からおかしくなったんだ。
『お花見に行きましょう』
ゴールデンウィークを間近に控えた、いつもの放課後。部活の開始を宣言するはずだったヨーマの口から出たのは、そんな突拍子もない言葉だった。
『おっ、お花見ですか?』
『そうよ? 恋』
お花見って桜だよな? って、もう散っちゃってるじゃねぇか。
『シロ? あんたどうせ、桜なんてもう散っちゃってるじゃないか? なんて馬鹿な事考えてそうな顔してるから先に言っとくけど、日本には今まさに満開だったり、これから咲く地域だってあるのよ? 良く覚えておきなさい?』
うっわ! めちゃ当てられた! 心の声がばっちりホームラン打たれたんですけど? てか、俺そんな顔してた? いやいや、そんな顔しててもそこまで正確に俺の心を読み取れるとは……
『という事は、少し遠出になるって事ですか?』
『えぇ、日帰りで考えてるの。まぁどうせ行くなら大人数の方が良いし……六月ちゃんと早瀬さんも呼んでいいわよ?』
『本当ですか!? ありがとうございます! さっそく連絡だ! 良かったね? イリちゃん』
『えっ、あぁそうですね!? ……あの、こういうのってこんなざっくりとした感じで決まっちゃうもんなんですか?』
おぉ、我が妹よ。その通りだ! そこに気付くとはお前もなかなかやりおるわい。
『まぁ……大体はそんな感じかな? でも良いんじゃない? 新聞部がこんな大人数になる事自体奇跡に近いし、親睦会も含めてさ』
『はっ、はぁ……』
桐生院先輩……あんたも心底ポジティブに物事を考えますなぁ。
『それより、交通費とかそういう必要経費はどうなるんですか? 部活の活動費では賄えるとは……』
『その辺は心配しないで高梨さん。昨年の実績と部員の増加が認められて、活動費も増額になったのよ?』
『おぉ! さすが先輩方! 部長会議で上手くやってくれてたんですね!?』
『その辺は抜かりないわ。じゃあ、とりあえずここに居るメンバーの予定でも聞いておこうかしら? 今年はかなりの大型連休だから、できれば最初辺りで考えているのだけど?』
すでに日程まで大方決めてるんですか? さすがはヨーマ。
『僕は問題ないよ』
『私も問題ないです! 大丈夫だよね? 凜?』
『うん。もちろん大丈夫』
『あとイリちゃんは?』
『えっと……特に予定はないです!』
『じゃあ決まりだね!』
『ということは……ここに居るメンバーは全員大丈夫って事ね』
ん? あれ? 耳がおかしくなったのかな? 俺聞かれてない様な?
『じゃあ、早瀬さんと六月ちゃんにも聞いてもらえるかしら?』
『分かりました』
『了解ですっ!』
『あっ、シロ?』
おっ、やっと俺にも確認を……
『両桐君と、あと騒音君だっけ? あの子達も誘っていいわよ? 聞いてみてちょうだい?』
えぇ! あの2人も? いやいや、それはマズイって! 油に水どころかガソリンぶっかけて走り回る様なもんだぞ? しかもちょいちょい栄人の事両桐君って言うのはワザとなの? 本気で間違ってるの? もしかして渾身のボケだったりしますか? いや、触れたら大火傷しようなんでシカトしますけどね? 騒音君に関しては良いと思いますけど。
『ちょっと? 聞いてるのシロ? 分かった?』
聞いてみて? から、分かったって? ナチュラルに命令になってんじゃないですか!? でも、逆らったら元も子もないんですよね?
『ハイ、ワカリマシタ』
『それじゃあ、日程とかは後で教えるから、とりあえずは皆それぞれ聞いてみてね?』
あの2人だけは誘いたくないぞー!
『えっ! お花見!?』
『そうそう、彩花先輩がこっちゃんも誘ってって? だから、部活とかの予定はどうかなって?』
『んー、その日は部活だけど……』
『そうだよね……』
『これからシーズン迎える訳だもんね……』
まぁ当たり前だよな? これから色んな大会あると思うし、大事な時期……
『でも、行きたい!』
おっ!?
「ほっ、本当?」
「本当?」
いや、綺麗にハモってんじゃないよ?
『私、皆とお花見行きたい。恋ちゃんと桜見たいし、高梨さんとも仲良くなりたい! だから、監督にはちゃんと言うよ? だから、私も一緒にお花見連れて行って下さい』
『やったぁ』
『本当に良いの? 早瀬さん?』
『もちろん! あっ、あとで葉山先輩にも言ってくるね?』
『じゃあ一緒に行こうよ!』
『そうね! 一緒に行きましょう?』
『うん!』
これは早瀬さん決定かな? これで少しはマイルドになりそうだ。それにしても、なんか早瀬さん変わった? 前までそんな、自分の気持ちストレートに話せてたっけ? 皆とお花見行きたいとか……まっ、考えすぎかな? なにはともあれ、女神の同行も決定。あとは……
問題児2人か。
嫌だなぁ、あの2人に話振るの嫌だなぁ。
でも、もうすでに学食に奴らは居るし……そうだ、この話はなかった事にしよう。聞くのを忘れてた事にしよう。そうしよう。
そんな事を考えながら、廊下を歩いていた時だった。
コンコン
『おい、蓮』
窓を叩く音に、俺を呼ぶ声。普通に考えればあり得ない事なんだけどさ? 慣れってやつ? 不思議と驚きとか怖いとかそんな感情を抱かない自分が恐ろしい。ここ一応3階なんですけどね?
ん? この声……忍さんか? ったく、頼むから普通に出てきて欲しいんだけど。
なんの疑いなしに、窓の方へ顔を向けていく。まぁどうせ窓の縁に経ってるか、上からぶら下がってるかのどっちか……って! 顔半分しか見えてないんですけど?
窓の下から見える忍さん……けど、顔半分くらいしか見えていない。そんで片手で窓をコンコンしてるって事は……なに? 忍さん、あんた片手で懸垂しながら顔半分見える所でキープしてんの!? 何その筋力! しかも下から覗かれるのってなんかめちゃくちゃ怖いんですけど!?
『しっ、忍さん! それ、軽くホラー入ってる登場の仕方なんで今後止めてもらえますか?』
『えっ!? だれか窓から覗いてる?』
『嘘!?』
…………
『キャー』
『きゃぁぁ』
ほら言わんこっっちゃない! あれ? 待って、という事は今の人達から見たら、俺はその幽霊らしきやつと話してるって事にならないか? えっ? 大丈夫だよね? 話してる所は見られてないよね? 変な噂だけは本当に止めて? 顔分からない人達だったし、大丈夫だよね!?
『すまん!』
いやいや、本当にその通りだよ!
『いや……お願いですから今度から普通に登場して下さい? あれが普通の生徒の反応ですからね?』
『了解した』
『それで? 何の用です?』
「あぁ、今度六月が花見に行くらしいな』
花見? あぁ、ヨーマが六月ちゃんも誘えって言ってたんだっけ? でもその口ぶりだと、六月ちゃんも予定大丈夫て事かな?
『行くのは行きますけど、六月ちゃんが行くかは俺聞いてないですね』
『あぁ、本人は行く気満々だ。めちゃくちゃ興奮した様子で俺に報告してきたからな』
興奮って……意外と六月ちゃんこういうの好きなのかな?
『そうだったんですか?』
『あぁ、そこでだ。六月の事頼んだ』
『いや、六月ちゃんも高校生ですよ? それに海璃とか恋も一緒なんで大丈夫ですよ?』
『まぁ、それもそうだが……』
おいおい、シスコン全開じゃねぇか! お姉さんには拒否反応出まくりなのに妹さんには激甘って……それもそれでおかしいけどね。
『分かりました。迷子とかにならないように気を付けますんで』
『本当か!? ありがとう』
『いえいえ、どういたしまして』
『それじゃあ、頼んだ。じゃ』
なんだかんだ言って、妹さんの事心配なんだろうなぁ。まぁ気持ちは分からなくもないけどね? うちの愚妹も昔から突拍子もない事始めたりしてたからなぁ。今では大分落ち着いたけど。
まっ、これで六月ちゃんも参加決定。てか、これは本当に全員参加もあり得るぞ? ……いや、あの2人だけは絶対に阻止するからな? 絶対に!
『おーい、蓮こっち』
『月城先輩ー、こっちっす』
うわぁいつも通りテンションたけぇ!
『あぁ』
『よっし、じゃあ早速食券買いに行こうぜ?』
『そうっすね!』
いいか? 決して口を滑らすな? お花見の事は忘れろ忘れろ。
『そう言えば蓮』
『なっ、なんだ?』
『お前ももちろんお花見行くよな?』
はっ! お花見? なんでお前それを……
『もちろん行くっすよね?』
はっ! そん、お前までなぜ……
『『いやー』』
『葉山先輩に直々に誘われるとは思わなかったよ』
『葉山先輩にお誘い受けるなんて夢みたいっす!』
…………あいつ何してくれてんだよ!! あんたに誘われたらこいつら断る訳ないじゃん! てか、直でお誘いしたの? この2人に!?
『『いやー』』
『滅茶苦茶楽しみだなっ!』
『滅茶苦茶楽しみっす!』
ははっははは……
『そうだな』
てな具合で、総勢10人で新幹線に乗りながらババ抜き。贅沢にも2列を占領している俺達は、周りから見たら楽しそうな学生旅行とでも思われてるんだろうが、全然そんなテンションにはなれないね。多数の危険人物と一緒に居るという事実が、何か起こりそうで恐ろしい。恐ろし過ぎる。
頼むから……なにも起こらないでくれぇ!




