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67.片桐栄人

 



 俺は、嘘がつけない。



 いや、正確には嘘をつけなかったって言った方が正しいかもしれない。


 なんでこんな事言うかって? そりゃ俺にもそんな事考える時だってあるさ。


 …………みんな俺の事どう思う? 明るい? ムードメーカー? まとめ役?


 半分正解で、半分不正解。

 半分本心で、半分は偽物。


 けどさ、その偽物も本当の偽物じゃない。

 偽物であって、偽物じゃない。


 何言ってるか分からないだろ? 俺も実はよく分かんない。


 ただ1つ言えることは、その偽物も大事な俺の一部だって事。


 片桐栄人って奴のね。




 少し、昔話をしようか? 何? 俺っぽくない? いやいや、ごめんごめん。それでもまぁいいじゃないか。ここいらでちょっと俺のくだらない話聞きながら休憩してもさ。


 ふぅ。まず、俺に両親は居ない。

 あぁ、表現がまずかったな。居なくなったって表現の方が正しいかもしんない。なんせ俺が小学校1年生の時、事故で死んじゃったんだから。


 その時の事は鮮明に覚えてるよ。母さん達は結婚記念日って事で2人仲良く出掛けていった。俺は爺ちゃんと婆ちゃんと家に居てさ、結構楽しく過ごしてた訳、電話が鳴るまではね?

 電話取った婆ちゃんが血相変えて部屋に入って来て、爺ちゃんになんか言ってんの。それ聞いた爺ちゃんはいきなり立ち上がって、俺の手握って……そんで急いで軽トラに乗せられた。


 何話してたかなんて分からなかった。ただ軽トラの中で爺ちゃんは急げ急げって呟てて、婆ちゃんは俺膝に座らせてなんか手合わせてたし、子どもながら何かしら良くない事があったんだって思ったっけ。

 そして、到着したのは病院。手を引かれるがまま連れられて……大きな扉の前に着いた時、中から出てきたテレビでしか見た事のない服装のお医者さんが爺ちゃん達に何か話して、何も聞こえなくなった。


 両親が死んだって実感はしばらく湧かなかっよ。だって、家に来て、普通に布団で寝てるんだもん。顔に白い布置いてるのも、なにか面白い事しようと思ってやってるんだな位にしか感じなかったし、火葬場に行った時も、そういうマジックなんだろって思ってた。まぁ今思えば……現実逃避ってやつだよね。


 それでも……そんな楽観的な俺にも事実が突き刺さる時が来る訳で、これも忘れられない思い出の1つ。

 両親が火葬場マジックを終えた夜、俺はいつも通り寝ていて、いつも通り夢を見た。そこに現れたのが母さんと父さんだ。2人仲良く立っててさ、俺の方見て笑ってた。そしたらさ、母さんが俺の方近付いてきて言うんだ。


『母さん達はもう皆を、栄人を笑顔にする事が出来なくなっちゃった』

『栄人? これから栄人は100歳位まで生きる。 それは長い様で、あっと言う間なんだ』


『あっと言う間な時間、どうせだったら楽しく過ごしたいと思わない? 毎日を楽しく、笑顔で』

『まぁ、これは父さん達の勝手な願いだし、別に無理してまでやる事じゃないけど』

『けどさ、母さんも父さんはいつまでも見ていたいな……』


『栄人の笑顔』


 それ聞いた瞬間、目が覚めた。もちろん目の前に母さん達は居なくて、窓から見えるでっかい月だけが俺を見ていた。そして、ようやく分かったんだ、母さん達は月に行って、もう戻ってこないんだって。


 それからだよ、俺は常日頃、毎日、毎月、毎年を楽しく過ごそうと思った。

 最初はさ、先生とか友達にも心配されたっけ? 無理してるって。でも別に無理なんてしてなくってさ、なんとなく母さんが話した事の意味が分かったからなんだよね?


 楽しい1日? だったら、より一層楽しくしないと損だろ?

 何もない1日? だったら楽しく笑ってた方が得だろ?

 悲しい1日? んなもん、俺がさっさと忘れさせてやるよ!


 あっと言う間の人生、楽しいの多い方が良いに決まってるだろ?


 そんな感じで過ごしてきた小学校。そんな俺の様子に皆も段々と慣れていったのか、自然と皆笑ってたっけ。なんか生徒会長なんかやってみたりさ? だって皆推薦すんだもん。やってみろってさ? 

 別に断る理由もないし引き受けた。それにやるからには楽しくしないとだろ? まぁなんだかんだ皆も楽しんでくれたとは思う。あっ、卒業式は別ね? あれだけはノーカンで。


 ちなみに陸上ともこの時出会ってさ、3年生の時かな? とりあえず走ってみたら速いって事で地区大会出てみたら優勝。そんでなぜか全国大会まで行って……4位だったのは覚えてる。ただ陸上部はなくってさ、俺も野球部だったし? けど、全国って舞台が楽しくて楽しくて仕方がなかった。


 そして桜ヶ丘中に入ったんだけど、ここで出会う訳さ。親友でもある……月城蓮にね? 

 この時には、もやは今の様な片桐栄人が出来上がってた訳で、そりゃいつもの如く楽しく明るく和気藹々と過ごしてた。中学のクラスメイトも、小学校の皆みたいに笑ってくれた。


 んで、いつだったかさ、同じ小学校だった奴と話したくて別のクラスに行った時、そこに蓮が居たんだ。

 蓮を中心に笑いが広がってて、しかも男女問わずだぜ? まさに中心って感じでさ。俺も驚いたけど、それと同時に滅茶苦茶嬉しくなったんだ。自分と同じ様な奴が居るってね? 

 速攻で話し掛けてみたら、引くどころかウェルカム状態でさらに嬉しくなって……そんな感じで仲良くなったよ。同じ様な奴と出会えた、それは俺にとっても大きな大きな糧で嬉しくなったんだ、けど……


 蓮は俺とまったく同じではなかったんだよなぁ。 


 ある日廊下で、蓮と同じ組っぽい奴が話してた。聞く限り、飼ってた犬が死んじゃったって事らしくてさ、そのクラスメイトは悲しんでた。俺だったらさ、いつものように明るい気持ちにさせようと思って話し掛けるんだけど、蓮は違ってた。


 同じように泣いて、同じように悲しみを共有して、そして諭してたんだ。


 心底驚いた。一緒に悲しむ? 嘘だろ? ハッキリ言って俺はそんな事考えた事ないし、多分無理だ。けど、現に蓮はそれをしている。


 太陽の様に、溢れんばかりの熱をもって相手の悲しさを消してきた俺と、

 相手を包み込んで、その悲しみを一緒に飲み込んで消していく蓮……


 俺には無理だ。負の感情を、ましてや他人の感情を飲み込むなんて俺には到底無理だ。

 絶対に無理だ。そんな事したら、自分がどうなるのかすら分からない。恐い。恐い。


 だけど、月城蓮はそれをやってのけている。何の迷いもなく。


 その瞬間だった、月城蓮は俺の……憧れになったんだ。


 それからはあっと言う間さ。結局俺には蓮の様に他人の感情を飲み込むなんて事出来なくて、日に日に憧れは強くなったっけ? 2年で同じクラスになってからはそれは顕著で、俺は一応学級委員長って立場だったけど、何かしらの役割を蓮に頼む事が多かった。それは単純に蓮の事を信用してるから……いや、蓮の方が上手くやってくれると思ったから。

 もちろん、蓮との仲は良かった。良かったというより、最高だ。だからこそ俺は親友だと胸を張って言える。憧れの人と親友だって事が何よりも嬉しかったし、誇りだった。


 けど、3年のあの日……全てが変わった。夏休みが明けて、登校してきた蓮の様子はおかしかった。

 いつも通り話し掛けても、反応は薄くて……そんな元気のない蓮を見るのはツラかった。だから俺なりに何とかしようと思って、色々考えたし、探した。なにか蓮の周りで変わった事がないか、おかしな事はないか……でもそれはあっさり見つかった。


 高梨凜。

 何度か話はした事あるけど、正直深くまでは分からない。けど、蓮の幼馴染で仲が良い。一緒に登下校もしているってのは今までの会話の中で分かっていた。

 そう、言われてみれば夏休みが明けてから、蓮と高梨さんは学校で話をしていない。それどころか、一緒に登校もしていない。それだけで、原因はハッキリとした。


 どうするべきか? 蓮に話し掛けるよりも、高梨さんに聞いた方が良いんじゃないか? そう思って、俺は生徒会室に行こうとした時に……あれを聞いたんだ。


『知ってる? 月城君居るじゃん? 振られちゃったらしいよ?』

『えっ? 誰に?』

『凜に!』

『えっ? だから最近一緒に居ないんだ』

『そうそう登校もしてないみたいだしね』


 女子たちの噂。それは単なる噂……そう思った。でも、これを聞いたからってどうすればいいのか、俺には分からなくって、でもそんな事実際にある訳ないって思っている自分も居て……それで期待を込めて、蓮に聞いたんだ。


『……はっ、はぁ? ありえねぇよ。あいつはただの幼馴染だぞ? 有り得ないって、そんなの信じるのか?』

『おっ、そうだよな? やっぱりそうだよな! わりぃ、変な事聞いちまって』


 否定はしていた……けどさ、どれだけ近くでお前の事見てたか分かるか? ……嘘下手すぎなんだよなぁ。


 何とかしないといけない。けど、いつも通り明るく接してどうにかなる問題でもない。分からなかった。全くもって分からなかった。ただ、眺めている自分がもどかくて……ついに、


 蓮は最悪の状態になった。


 休み時間は黙々と机に向かって勉強していた。

 学校へ来ては勉強していた。

 俺達が話し掛けたら何も無かった様に答えてくれたけど、その眼にはかつての光はなかった。


 それは……もちろん俺のせいだったんだ。俺があんな事言わなきゃこんな事にはならなかった。こんな月城蓮にはならなかった。そんな気持ちでいっぱいで……人生で初めて後悔した。

 悔やんでも悔やみきれなかった。だから、蓮が鳳瞭を受けるって言った時、素直に嬉しかった。俺はその時推薦で鳳瞭に行くことが決まってたし、偶然にも程があるその言葉が滅茶苦茶嬉しくて、切に合格を祈った。


 そして、蓮は合格した。


 その時さ、俺思ったんだよね。これは母さんや父さんがくれたチャンスなんだって。親友の笑顔取り戻せってチャンスくれたんだって。だから俺は決めたんだ。


 俺のせいで失った、本当の月城蓮を……取り戻すって。


 同じクラスになれたのも最高だったし、知り合いの琴も同じクラスで助かった。お互い顔見知りにすればボッチって訳じゃなくなるだろ? それに、無理矢理学級委員にも推薦して、クラスメイトと話す機会を増やしたし、なるべく表に出してやろうと思った。


 俺は、前の蓮みたいに人の気持ちを飲み込むなんて事出来ない。けど、俺にも、俺にだって出来る事がある。そう、何度だって明るく楽しく、笑顔にさせるって事が!


 まぁ、問題は日城さんだったよね? 最初見たときびっくりしたよ、マジで高梨さんにそっくりだもん。顔は勿論声もね? なるべくその事には触れない様にしたけど……ピンと閃いたのさ。毒をもって毒を制すって言葉がある通り、別人とはいえ似てる日城さんと関わり合いを持つようになれば、何とかなるんじゃね? 的な。だから、日城さんが副委員やるって言ってくれた時は嬉しかったね。着々と準備が整ってきたって。


 まぁ、それから林間学習、体育祭、文化祭と色々無理矢理引っ張り出してきた訳だけど。どうだろう、それなりに元の蓮に戻って来たんじゃないかな? 蓮自身も新聞部に入ったみたいだし、しかも体育祭のあの走りで学園中の注目されて、作戦通りと言えば聞こえはいいけど……表立たなきゃいけない状況にできたのは良かった。


 俺自身もおかげ様で、葉山先輩と桐生院先輩とも仲良くなれた。新聞部の小旅行にだって連れて行ってもらえた。それに今日もクリスマスパーティーに招待してもらったしね。


「ふぅ」

「どうしたの? 栄人君」


「いや、でっかい月見えたからさ……思い出してた」

「思い出してた? 何を?」


「色んな事」

「何それ? 変なの。ふふ」


 そうさ、俺は……


「なぁ、琴?」

「ん? どうしたの?」


 あんな月にはなれない……


「俺って変か?」

「変? んー見る人によっては変かな?」


「マジか?」

「でも、それが栄人君じゃない?」


 でも……


「そっか……」

「じゃあさ、俺……」


「変わらなくていいよな?」

「変わる? ……うん、栄人君は変わらなくていいよ。多少強引でも、私達の事引っ張ってよ。それが片桐栄人でしょ?」


 太陽にはなれる!


「そっか、ちょっと自信ついた」

「えっ? さらに自信ついちゃった?」


「おう、琴のせいだな」

「えー! そんなぁ」


「「ははっ」」


 やっぱり、悩むなんて俺らしくもない。

 これまでも、これからも、


 俺は俺らしく皆を照らすさ……




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