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63.安心したよ、少しだけ

 



「えっ?」


 その瞬間、恋が驚いた様に声をこぼした。そしてすぐ様、


「先輩何言ってるんですか?」


 恥ずかしさか。それとも本当に冗談だと思っているのか……笑顔を見せながら首藤に問い掛ける。


「冗談じゃないよ。恋ちゃんの事が好きなんだ」


 その問いに、もう1度首藤は真剣な顔で答える。周りから見てもそれが本気なんだって事は一目瞭然だった。

 マジで告りやがった……マジか? 


「本当……何ですか?」


 恋の顔から笑顔が消えて、真剣な面持ちに変わる。恋も首藤が本気なんだって分かったんだろう。そのままゆっくりと顔を俯かせた様子は、まるで……恥ずかしがっている様な感じがする。


 下向いたって事は動揺してるって事か? 断るんだったら多分速攻で断ると思うし……何か考えてる?

 俯いて少しの沈黙が訪れる。この沈黙がどっちを意味するのかは分からない。けど、ここ数週間の恋の様子とか奴との関わりを考えた時、俺の中ではある程度予想はついていた。


「先輩……」

「ん?」


「先輩の気持ち嬉しいです」

「それじゃあ……」


 沈黙を破り、そう言いながら顔を上げた恋は……笑っていた、少しはにかんだ笑顔を見せながら。

 あぁ、やっぱりそうなんだろうな。こんな短期間であんだけ仲良くなるって事は、それなりに共通する趣味があったり、運命的な出会いだったのかもしんない。そうか……そうか……


「ごめんなさい」


 ……えっ? ごめんなさい?


 その瞬間頭を下げる恋、それはまさに謝罪という意味合いで間違いはないと思う。けど……


「そっ、そっか……」


 首藤の反応的に、こりゃ内心イケるって自信あったんじゃないか? 結構動揺してるみたいだし。それにしてもまさか断るとは……俺も完全にOKって感じだと思ってたんだけどね。


「そっ、そんなに時間も経ってないし早計だったよね! ごめんごめん」

「すみません」

「あっ、謝らなくていいよ。俺もっと頑張るからさ!」


 動揺しすぎだろ首藤。頑張るって……まぁ、あんだけ笑顔で何回も話してたら勘違いするのも分からない訳じゃないけどね。これだから女ってのは怖いよなぁ。


「首藤先輩……」

「なっ、なんだい?」

「私こう見えて、結構一途なんですよ。今までもそしてこれからも……気持ちは変わりません」


 ん? どういう意味だ? 一途って事は……


「えっ? なっ、なんだ……他に好きな人いるって事か! なるほどなるほど……でも俺頑張るから!」


 そゆ事か。これは首藤のダメージでかいぞ?


「あっ、それじゃあ行くわ! ごめんね呼び出して! じゃ!」


 あっ、逃げやがった。しかもめちゃくちゃ速ぇ。にしても、結局恋は奴と付き合わなかったって事か。

 ……って何ホッとしてんだよ俺! いやいや、これは違う。あれだ! クラスメイトとして胡散臭い奴の毒牙に掛からなかった事を安心してるんだ! そうなんだ!


「へーックション!」


 その時だった。後ろから聞こえてきた、天地を割る勢いのくしゃみ。おかげで己への自問自答なんてどっかに飛んで行って、いきなりのデカい音に体が跳ねた驚きより、それをしでかした栄人への怒りよりも……体中から溢れ出す危機感。直感でヤバいって分かる。


「だっ、誰!?」


 そうなりますよね……




「それで? なんで皆してあんな所居たの?」


 そりゃこうなるのは当たり前だろうよ……栄人め、やっぱりお前と居たらロクな事がない!


「誰の提案? もう、やって良い事と悪い事あるんだよ?」


 俺だって言ったら凄まじく怒られそうだなぁ……まぁ実際俺なんだけどね。仕方ない正直に……


「恋ちゃんごめん。私が2人に言ったの」

「えっ? こっちゃんが?」


 早瀬さん!?


「屋上に呼ばれてたの聞いちゃって。最近恋ちゃん良く首藤先輩と話してたでしょ? だからもしかしてって……」

「そうなの? でもなんで盗み聞きなんて……」


「私ね何だか嫌な予感がしたの……首藤先輩に。完全に勘なんだけどさ? だから、もし恋ちゃんが……」

「付き合うって言ったら止めてた?」


「うん……」

「ははっ、大丈夫あり得ないから」


 あり得ない? なんかさっきも言ってたけど、随分あっさりだったよなぁ。


「本当?」

「本当」


 だったら尚更、なんであんなに話してたんだ? ただ単に趣味が合うからとかだったら、さすがに首藤が可哀想になるんだが。


「じゃあ結構話してたは……単に話が合っただけ?」

「げっ、ツッキーにも見られてたの?」


「いやいや、廊下とかで話してたら目に付くでしょ」

「はは。なんかさぁ最初取材する訳じゃん? ある程度相手の機嫌も伺いつつじゃん?」


 まぁ、確かに。俺は今回全然だったけど。


「話の中で、あるバンドが好きだって話になってね? 私もそのバンド好きな方だったから、そう話したら……全然話止まらなくて」


 えっ? つまりあれか? 相手の機嫌に合わせて話に乗っかったら思いの他グイグイ来られたって事?


「つまり恋ちゃんは……」

「なかなか言い出せなくてさ……なし崩し的にずっと話してたんだ。テヘっ」


 なにがテヘっだ!


「でも、ある意味良かったかも。これで暫く話し掛けてこないでしょ?」

「まぁそうだろうな。それに日城さんに好きな人居るって分かったら尚更でしょ?」


 ん? あぁ、確かに言ってた気がするぞ? 結構一途だって……そうか、それってつまり……


「あれ? 私そんな事言ったっけ?」


 は?


「えぇ?」

「言ってたよ?」

「そだっけ、嘘に決まってんじゃんそんなの」


 マジかよ? 何? とっさに出たって事?


「そうなの? 恋ちゃん」

「そう言った方が諦めてくれるかもって思ってさ」

「それ瞬時に考えたの? やるなぁ日城さん」

「恋ちゃんすごいよ!」


 うわぁ……すげぇけど、首藤哀れすぎじゃね? やっぱり女って……


 怖ぇ……。




「ふあぁぁ」


 あぁ、今日も最高の昼寝だったなぁ。これは止められん。


「やりぃ、賭けは俺の勝ちな」

「くそぉ、新! ちゃんとやってくれよまったく」


 ん? 外に誰か居る? 珍しいな、昼休みとかこっちの棟には殆んど人来ないし……声的に複数?


「いや、マジあり得ねぇよ。あそこまでいったら普通に脈有りだと思うじゃん?」


 待てよ、この声……


 音を出さないように俺は階段を上がっていく。

 声の大きさからして、そいつらの居る場所を見つけるのは……


 あっ、居た。


 容易だった。


 こんな人も来ない所で何話してるのかな? 首藤先輩。


「しかもさー、ああいうタイプって意外と押しに弱い訳。だからさぁ結構押せ押せで、あっちも良い感じ醸し出してたんだけどさぁ」

「結局ダメだったんだろ?」

「それにアイツは新聞部だろ? お前彼女居るのに仮にOKだったらどうしてた訳」


 彼女?


「そりゃ、適応に遊んでポイッだろ?」

「うわっ、マジで? そうなったら葉山になんかされてたかもな」


 遊ぶ?


「いやいや、自分でOK出したんなら葉山に何か言われる筋合いなんてないだろ?」

「まぁ、そりゃそうだけどな。とりあえず賭けは俺達の勝ちだから、例のやつ頼むわ」

「わかったよ! ったく、全部あいつのせいだわ」


「新、お前次は頼むぞ?」

「おうよ、任せとけ。ったく、無理矢理にでも……」


 ほほう……そういう感じ? 少し同情してた自分が恥ずかしいですよ。

 でも、少し安心した。生徒皆が生き生きしてて、謙虚で礼儀正しい。虐めなんてものもない。そんな超有名校なのかって少し驚いてたんだけど……良かった居るじゃんか。普通の奴等がさ。

 まぁ、今の話聞いたとしても、別に俺は興味湧かないけど……


 これは楽しくなりそうだ。




 ガラガラ


「お疲れ様でーす」

「あっ、お疲れ様月城君」


「あっ、桐生院先輩……だけですか?」

「あっ、うん。彩花は遅れるってさ。それにしても、凄い反響だよ?」


「えっ? あぁ、桐生院先輩のお陰ですよ。ありがとうございました」

「僕は何にもしてないよ。でもいいの? 2人にも匿名のメールで送られて来たって事にして」


「えぇ、いいんですよ。そっちの方が……盛り上がるでしょう?」

「まぁね、実際今は悪い意味で盛り上がってるしね。各部活で聞き取り……特に運動部では監督達が血眼になってるみたいだし」


「仮に自分の所の部員が関わってたりしたら、威厳にも関わりますしね? 特に全国大会常連の運動部では」

「ふふっ、それにしても月城は優しいなぁ」

「全然ですよ。俺は全然……」



「興味ないですもん」



 

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