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53.変わったのは?

 



 風が冷たいなぁ……


 頬に少し刺さる様な風を感じながら、俺が立っているのは鳳瞭学園の屋上。

 最近じゃどこの学校でも屋上へは行けない様になってるみたいだけど、ここは違うらしい。

 透明とはいえ、このデカくて分厚くて壁を乗り越えれる奴なんてそうそう居ないだろうし、安全面はバッチリって所は……流石名門校だ。


 カチャン


 ん? 誰か来たのか? まぁ、入口とは真逆のトコに居るから、こっちまでは来ないだろう。

 それにしても……結構眺めいいな。もっと前から来てればよかったなぁ。特に夏とか……


「月城君、ちょっとお話いいかな?」


 ん? この声は……早瀬さん? なんでまたこんな寒い所に? まぁ、それは別にいいか。


「なんだい?」


 少し離れた所から、俺を見つめるジャージ姿の早瀬さん。明らかに部活の途中って格好だけど、俺の返事に何か答える訳でもなく……と言うより何か言いたいけど、なかなか言い出せないって感じかもしれない。その場で明らかにモジモジしている。


「えっと……その……」


 ん? こんな季節にわざわざここに来るはずはないよな? だったら俺を探してきた? ……なんとなく思い当たる節はあるけどね。


「つっ、月城君どうしてこんなとこに居るのかなぁって……」


 分かりやすいなぁ。


「新聞部の取材だよ。学園内の好きなスポットベスト10って記事なんだけどさ。ここが第1位って訳。まぁ来る季節完全に間違えたけどね」

「そっ、そうなんだ」


「早瀬さんはなんでここに?」

「わっ、私は……そっ、そう。月城君が屋上に行くの見えたから何しに行くのかなって思って!」


 早瀬さん、嘘付けないんだから無理するなって。声は上ずってるし、明らかに動揺してるじゃんか。


「そうなんだ」

「うん……」


 それで本当は何しに来たんだろう? やっぱり俺を探しに? てか、この間はなんだよ。早瀬さんもちょっと俯いてるし……


 それからどれ位経っただろう。何とも言えない沈黙が、俺達の間に流れる。別に俺は話す事もないし……早瀬さん待ちなんだけど。

 早瀬さんの性格的にここまで黙ってるって事は、相当聞きにくいか、勇気の要る話をしようとしてるのかもしれない。


 もしかして……告白? ってんな訳あるか。早瀬さんは多分栄人の事好きだろうし、見てれば大体は予想できちゃうもんね。

 となると……まさかついに栄人へ告白するとか? その相談か?


「あっ、あのっ、月城君!」

「ん?」


 おっ、来たか?


「恋ちゃんの事なんだけど……」


 あっ、やっぱりそっちの事か。


「日城さん?」


 これ、あれかなぁ……最近日城さんの様子がおかしい気がするけど、月城君恋ちゃんとなにかあった? 的な? そうだろうなぁ。


「うっ、うん。最近なんだか恋ちゃんの様子が変な気がしてさ。月城君、なにか知らないかな?」


 ん? てっきりピンポイントで質問されるかと思ってたけど……考えすぎたかな? まぁ、こっちの方が答えやすいから良いけどね。


「んー、特には分からないなぁ」

「そっ、そっかぁ。ごめんね変な事聞いちゃって」

「別にいいよ」


 ……また沈黙だ。なんかもっと突っ込まれるかと思ってたんだけどなぁ。まぁでも、早瀬さんの様子を見たら……


 モジモジ


 明らかにまだ話したい事あるって感じだよなぁ。俺から話し広げる必要はないんだけど……まぁ早瀬さんにはお世話になってるし、そんな姿を見せられたら罪悪感しか湧かないよ。仕方ない……


「早瀬さん」

「はっ! なにかな?」


「ちなみに日城さんはどんな感じで変なの?」

「えっ! あっ、じっ実はね!」


 そこまで驚く? しかもその後めっちゃ笑顔だし! いつもの早瀬さんからは考えられない姿だなぁ……


「なんかね? 妙にテンションが高いっていうか……いや、元々明るいけど最近は少し不自然っていうか、なんか無理してる気がするの」


 無理してテンション上げてるか。まぁ、最近いつも以上に早瀬さん達女子と行動してる感はあるかもなぁ。


「無理してるかぁ」

「うん。色々誘ってくれるのは嬉しいんだけど……それにしてもテンション高いんだ」


「本当に楽しんじゃないの?」

「そう……かなぁ。でもね……」


 でも?


「今の恋ちゃんの笑顔は、作り物なんだ」


 作り物?



『そんな偽物の笑顔見せるなよ』



 なんであの時の事思い出すんだよ。


「月城君もそう思わない?」



『大丈夫。ツッキーの嫌じゃない、それなりの距離感で話すからさ? だから、新聞部とか辞めないでね?』



 勝手に出てくんな。別に俺のせいじゃない、日城さんが勝手に言ったんだろ?


 俺は……


「月城君?」


 俺は……



『ツッキー、なんかごめんね』



 日城さんだから全部話したんだ。


「月城君?」


 はっ、やばっ。


「あっ、ごめんごめん。えっと……」


 あれ? 早瀬さんなんて言ってたっけ? まずい、思い出せない。


「その反応は……月城君もやっぱり感じてたのかな? 恋ちゃんなんか変だって」


 あっ、そうだ。日城さんが変で、笑顔が偽物だって話だったよな? あぶねぇ。


「んー、まぁ少しは思うけど」

「心配じゃない?」


 ん? 急にどストライク投げてきたぞ? 早瀬さん。

 ……こういう時は適当に流すのがいい。


「んーまぁ……」


 どうだ?


「あのね……私って恋ちゃんと高校で知り合ったばっかりだからさ、恋ちゃんの本心っていうのかな? 本当の姿が分からないんだよね。もちろん今までの姿が本当で、今の姿が作り物だったらいいのにって思ってるんだけど……もしかしたら今の姿が本当だったり、それともまだ見せてなかったり……」


 確かに。本心ほど分からないものはないからな。俺だって分からない……自分の事でさえ。


「本当に分からないんだよ。もちろん月城君にも言えるんだけどね?」


 ん? 


「俺……?」

「うん、まぁね。月城君だって、最初は無口で怖いのかなって思ってた。けど話し掛けたら返事してくれるし、挨拶もしてくれるし、嫌だって言いながらも学級委員の仕事ちゃんとしてくれるし」


 いや、それは買い被りすぎ。


「いやいや、それは早瀬さんの妄想だよ」

「ふふっ、そうかもしれないね? でも私はそう思ってるの」


 嬉しい限りだが、それは俺の思い描いてる学校生活とキャラではないんだよなぁ。


「そっかぁ」

「でも、まだ皆の本心は分からないのかもしれない。それは仕方のない事だと思う。だけど……私にとっては、恋ちゃんや栄人君、月城君と笑って学級委員の仕事をしてる時が……1番楽しくて、嬉しいんだ」


 一緒に学級委員の仕事……?


「あっ、なんかごめんね! 自分で言って急に恥ずかしくなっちゃった!」


 あっ、明らかに顔が真っ赤になってる。


「いやっ、別にいいけど……」

「じゃっ、じゃあ私行くねっ! 恋ちゃんの事何か分かったら教えてね! それじゃ!」

「えっ、早瀬さ……」


 はえぇ……さすが陸上部。瞬く間に居なくなった。

 それにしても、まさか早瀬さんが来るとは思わなかったなぁ。でもさ、早瀬さんは言わなかったけど……わざわざ部活の途中でここに来るって事は、何かしらの原因を俺が知ってるって思ってたって事だよな?


 他の人から見たら、そんなに変化あったのかな……? 俺と日城さんの様子。まぁ、いきなり日城さんが話し掛けてこなくなったら当たり前か。それで本人に聞くのは気まずいし、消去法で俺に聞き込み……まぁ早瀬さんらしい優しさだよね? 本当に良い友達ができたよ日城さんは……。にしても、


「様子が変か……」


 やっぱり俺のせいかな? でも別に俺は日城さんが彼女に似てるからどうこうなんて、もう気にしてないんだよ。実際、日城さんにだけ異常に感じてた症状だって……治まってるし。



『恋ちゃんや栄人君、月城君と笑って学級委員の仕事をしてる時が……1番楽しくて、嬉しいんだ』



 ……あの頃に戻れるのかな? どうなんだろ。


 ピュー


「うっ、寒っ! 俺も部室戻ろっっと!」


 俺は……俺は……


 どう思ってるんだ?




 そして今日も平和な1日が終わる。

 学校来て、


 授業受けて、


 学食行って、


 午後の授業で昼寝して、


 それから部活へ……


「おいー蓮!」


 イレギュラー発生だよ。なんだなんだ? いつも以上にハイテンションじゃねぇか。


「なんだ?」


 おいおい、お前が張り切ってる時って……


「今度の日曜日に白浜マリンパーク行こうぜ! 俺と琴、それに日城さんと4人で! いいだろー?」


 ろくな目に合わないんだよなぁ……




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