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142.懐かしき記憶(裏)

 



 夜景を背にし、こっちを向いている凜は……笑みを浮かべていた。そんな彼女に重なるのは、あの日の姿。


「まぁ、ここに来るのも久しぶりだし、話を聞くにはベストかもな?」

「そう……だね。だからこそ、ここに来てほしかった」


 そうか。俺にとって色んな意味で始まりの日。

 けど、お前にとってはターニングポイントってやつか。


「俺にとっては、あの日が全ての始まりだと思ってたんだけど……お前ら姉妹にとっては違うんだろ?」

「……うん」


 そんじゃあ長話もあれだし、早速……聞いて行きますか。


「恋から色々聞いたんだけどさ?」

「色々かぁ。恋ちゃんどこまで話したの?」

「まぁ搔い摘んでいくと、恋と凜は双子の姉妹で、凜は高梨家の養子って事位かな?」


 まぁ、他にも昔から俺の事知ってたとかっても聞いたけどさ? 大いに凜に関係するのはここだろ?


「そっかぁ」

「それで? 凜が養子になった理由については直接聞いた方が良いって言われたんだけど? しかもなに? 俺のせいとかって嬉しくもないオマケも言われたんでね。まずはそこ、教えてもらえるかな?」

「蓮の……? もう、そこまで言わなくてもいいのになぁ」


 そこまでって……その口ぶり、やっぱ俺関係してんじゃないかっ!


「でも約束だもんね? 全部……話すよ?」

「あぁ……」

「まずね、私のママとお母さんも双子の姉妹なんだ」


 ママとお母さん? 待て待て、どっちも母親って意味だよな? 確か凜がおばさんを呼ぶ時は……お母さんっ! じゃっ、じゃあママって言うのは……


「あっ、ごめんね。ママは私の本当の母親。お母さんは蓮も良く知ってる……詩乃(しの)おばさん」


 おばさん……あっ、そういう事。あれ? でも養子って事はさ?


「そういう事か。でもさ、養子になったんならその時点でおばさんが母親になるんだよな?」

「法律上はそうみたい。でも私の場合、普通養子縁組って名前の制度でね? ママとの親子関係が無くなる訳じゃないんだ。まぁ変な話、2組の両親を持つって感じ。だから、私にとってはママとお母さん……どっちも母親なんだ」


 そっ、そうなのか? てっきり養子になった瞬間、前の両親とは関係が無くなるとばかり思ってたんだけど……養子縁組ってそういう事なのか。全然知らなかった。


「それにママとお母さんも、私と恋ちゃんみたいに一卵性の双子だから顔もそっくりなの。だから私とお母さんが一緒に居ても、皆不思議に思わないのかもね」


 そりゃそうだ。あんだけ顔そっくりならカミングアウトしない限りバレはしないだろ。俺だって言われるまで全然気付かなかったし? でも、ぶっちゃけその事についてはどうでもいいんだ、俺が詳しく聞きたいのはさ、


「そりゃそうだろ。けどさ、だったら尚更意味分かんないんだよ。なんでわざわざ……」


 そう言いかけた時、ふとさっき恋の言った言葉が頭を過る。


『でもさ、例えばこういう場合もあるんだよ? 子どもが欲しくても欲しくても、絶対に叶わない……そんな親族の為にとかね?』


 こども!?


「普通に考えたらそうだよね。実はね? ……お母さんは子どもが産めないんだ」


 やっぱり、そういう事か。


「子どもが……」

「うん。蓮? 私達が初めて会った時のこと覚えてる?」


 いっ、いきなりなんだ? 覚えてるも何も……さっき恋と話してたばっかだ。


「あぁ」

「私達が4歳の時、全てはあの時から始まったの」


 あの時から……


「聞かせて」

「あれはお母さんが手術を終えて、家に帰って間もなくの事。ママと私と凜は、少しの間だけあの家に行く事になったんだ。術後のお母さんに無理させない為にね。パパは仕事の関係で無理でさ? お母さんも全然要らないよって笑ってたみたいだけど、ママはそれを許さなかったみたい。かなり仲良いからさ? 心配で心配で仕方なかったみたいだよ? 体力的にも、精神的にも」


 術後? 無理させない為に来た? そっ、そうか。だからあの日……


「それで、あの日……公園に来たって事か? 凜と……従兄ひしろに扮した恋が」

「正解」


 なるほどなぁ。あの時は全然思いもしなかったけど、引っ越してきたとかの話もなしに、いきなり自分と同じ年の子が近所に現れてさ? そのまま保育園から中学まで一緒って……今考えたら変だよな?

 ……ん? 待てよ? 子どもは分からなくても、周囲の大人は知ってんじゃないの? てか、一般的な考えを持つ人なら疑問に思わないか? はっ! もしかして……


「なぁ凜。一応確認だけど、凜が養子だって事俺の親は……」

「ふふっ、知ってるよ?」


 やっぱりっ! ちくしょう、よくもまぁそれを黙って平然と過ごせるもんだな。


「そっ、そうか」

「でも、おばさん達を責めないでね? 多分、混乱とかさせたく無いって優しさだから」


 ホントにそうなんですかね? その辺は議論の余地有りですけど、まぁ今は置いておこう。

 さて、これで恋凜が公園に来た理由は判明したんだけど……まだまだ聞きたい事は沢山有るんだよ。結構俺にとっても重要なさ? 


「そういう事にしとくよ。でもさ、なら教えてくれよ?」


 養子になった理由と俺の関係。


「凜が養子になったのは、俺が原因ってどういう事だ?」

「原因かぁ……確かに恋ちゃんの言ったそれは正しいよ」


 たっ、正しい!? 待て待て、俺なんかしたのか? 言ったのか? 全然覚えてないんですけど?


「はっ、はぁ? マジかよ? あのさ、俺そうなる様な事……した記憶がないんだけど?」

「ふふっ、大丈夫。蓮は何もしてないよ?」


 はぁ? おいちょっと待て? 話が全然噛み合わないんですけど?


「待て待て、じゃあどういう意味だよ」

「あのね? 蓮。私はさ、小さい頃からずっと内気でね? 人が傷ついたり、人に嫌われのが極端に嫌だったんだ。だからね? おもちゃで遊んでても、他の子が貸してって言ったら断れなかった。それがお気に入りのおもちゃでも。そんな私を皆は大人しくて優しい子って褒めてくれるんだけど、それは大きな間違い。自分で行動できないだけ、自分の意見を言えないだけ……ただそれだけだったんだ」


 内気……? 自分の意見を言えない? 確かに小さい頃の凜はどちらかというと静かで落ち着いた感じではあった。でも遊ぶ時は結構はしゃいでた気がするけど。


「そんな私を守ってくれたのが恋ちゃん。嫌なのに物を貸してあげようとすると、近くに居なくてもどこからともなくやって来て相手を言い負かす。その姿はお姉ちゃんっていうより、お兄ちゃんって感じ。それにいつも手を繋いで、いつも隣に居てくれて……本当に嬉しかった。そんな恋ちゃんの為にさ、お菓子欲しそうにしてたら遠慮なくあげたし、恋ちゃんがウキウキセットのオモチャ気に入らなかったら喜んで交換もした。でも全然悲しくなかったよ? むしろ私は嬉しかった。だって……いつも守ってくれる恋ちゃんに恩返しが出来るんだから」


 なるほど。何となく今の恋の性格的に実に分かりやすい幼少期だな。でもそう考えると……今もどちらかと言うと、そんな感じの関係が薄っすらと見え隠れしてるかも。


「そんな感じでね? あの日暇を持て余した私達は、2人であの公園に遊びに行ったんだ。そこで出会ったのが……」

「俺か?」

「正解。ふふっ、蓮? 初めて私達に言った言葉覚えてる?」


 言葉……? ヤバい、全然覚えてない。しかし、凜が覚えてるって事は……幼少期の俺、やらかしたのかっ!?


「いや……」

「ブランコ乗りながらさ? 俺は月城蓮っ! よろしくなっ! ってドヤ顔で言ってた」


 ……止めてくれ。想像したけど恥ずかしくて隠れたい。


「それが私達の出会い……だったんだ。でもね? その時点でちょっとおかしかったんだよね?」


 ん? おかしい?


「おかしいって?」

「だってさ? 恋ちゃんってばお姉ちゃんのくせに、いきなり俺の名前はひしろ。凜の従兄だ! よろしくっ! なんて言うしさ?」


 あぁ、第一声がそれだったのね? 


「髪も短かったし、結構男勝りだったし……正直違和感はなかったと思うよ? 蓮はどうだった?」


 いや……その……さっき恋にそれを言われて、驚いて来たばっかりなんだよ。


「全然分からなかった。さっき恋に言われるまで」

「だよね? でもさ、それから楽しかったよね? なんか気が付けば3人で遊んでる事が多くて、いっつも笑ってて、いっつも走り回ってて、いっつも服汚しちゃって」


 確かに……そういえば母さんに洗濯代を請求された事もあったな。全く払ってないけどっ!


「そして……あれが起きたんだよ?」


 あれ?


「あれって?」

「多分、蓮も覚えてるはずだよ? 今思えば、あの出来事はとっても大きくて重要で……大切な出来事だったんだ」


 重要で大切……? もしかして凜が養子になったのは、その出来事と俺が関係してんのか!?


「なんだ……? その出来事って?」

「絶対に思い出すよ? というより……思い出して欲しい」


 思い出して……欲しい?



「あの……ジャングルジム事件について」




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