104.なんか色々ありましたけど、やっぱり彼女は別格です
俺は今……感動しているっ! なぜかって?
≪今年の激闘を見事勝ち抜き、総合優勝に輝いたのは……紫組ですっ!≫
こういう事ですっ!
あのあと、皆の頑張りもあって俺達は着々と点数を重ねていった。
学年対抗リレーでは4組に負けて2位だったけど、1・3年は圧倒的な速さで1位をゲット。
1年生ではそんと、まぁ大体想像はついてたけど烏野衆である六月ちゃんが次元の違う速さを見せつけ、3年は終始1位をキープしそのままゴールという離れ業をやってのけたりと、それはもう凄かった。
まぁそう見ると、俺達の2位って結構霞む気がするけど、それでもアンカーまでは1位だったんだぜ? でもさすがに栄人には勝てなかったよなぁ。けど島口は責められないよ? てか、栄人相手に良くやったよ本当に。
てな具合だったんだけど、最後の色別対抗リレーも……大体の流れは分かるよな? そう、1走目の六月ちゃんと、2走目そんの黄金ペアのおかげで最初から圧倒的な差を付け、そのままゴール。まじであの2人はヤバいわ。
ほら見ろ。あのヨーマの顔。なんかすかしてる様に見えるけど、あれ内心絶対嬉しいはずだ。なにせわざわざ俺達のテントに来て激励した位だからなぁ。負けず嫌いなのは分かってたけど、相当熱も入ってたんだろう。なにはともあれ、これで俺の秘密は守られたぁ!
「じゃあ蓮、あとは頼むなぁ」
「後片付け頑張ってくれ」
……はぁ、学級委員って後始末までやらなきゃいけないんですね? そりゃ皆頑張ってくれたからこれ位朝飯前だけど、日差しも残るこの時間帯の作業はつらいぜ。しかも、格好つけて早瀬さんとか教室戻ってもらっちゃったし……いや、男に二言はない。まぁ怪我しない程度にゆっくり片付けますか。
えっと、テント片付けるには……人数足りないな。とりあえず栄人達が終わるの待って手伝ってもらおう。それにしても我がクラスの乙女達にタオル渡す姿は面白かったなぁ、久しぶりに栄人の焦った顔見たわ。まぁ、それはそれで感謝しないとな?
「つっ、月城さん」
なんて事を考えながら、テントの下でボーっと他のクラスの片付けを眺めていると、不意に後ろから名前を呼ばれた。
ん? 声的に女の子だってのは分かるけど、俺なんかに声掛ける女の子って誰か居るか? ちなみに恋の声ではないしなぁ。誰でしょう?
ゆっくりとその声のする方へ向きを変えると、そこに居たのは……
「あっ、あの、今お時間良いですか?」
なんかいつも以上にモジモジしている六月ちゃんだった。
六月ちゃん? てか、今マジマジとその姿見たけど……素晴らしいっ!
「つっ、月城さん?」
はっ! ヤバいヤバい変な顔してなかったか? 俺。紳士に、紳士にだぞ?
「あっ、あぁ。六月ちゃんか。体育祭お疲れ様」
「ありがとうございます」
「それで? あっ、もしかして六月ちゃんも学級委員とか?」
「あっ、いえ。違うんですけど……」
ん? だったらなぜここに? 他の生徒達はすでに校舎に行ってるはずなんだけどな?
「それじゃあ、忘れ物か何か?」
「いえ、その……月城さんにお聞きしたい事あって」
「聞きたい事?」
おっ、六月ちゃんからの質問? 包み隠さず答えますけど? 一部例外はあり。
「はい……その……」
「何かな?」
「えっと……あっ、あのっ! 本当に良いんですか?」
はっ? 良い? 良いって何が?
「ん?」
「木村君から聞いたんですっ! その……リレーで1位になったら、月城さんがなんでもしてくれるって」
はっ、はぁ? 木村って……そんか! しかもなんでもって……待て待て? そういえば六月ちゃんって学年及び色別対抗リレー出てたよな? しかもその順位は……圧倒的1位じゃねぇか!
「あっ、あの……やっぱり無理ですよね? 何となく分かってたんです。木村君の冗談なんじゃないかって……」
くっそ、そんの野郎何言ってくれてんだっ! でもなぁ、俺もそんの事利用したし……そこまで強くも言えないんだよ。しかも……六月ちゃんのそんな顔見てたら俺まで悲しくなっちゃうじゃないかっ!
「いっ、いや? そっ、そんな事ないよ?」
「えっ! 本当なんですか?」
あぁ、めっちゃ明るくなったぁ。これは……いまさら冗談なんて言える状況じゃない。でもまぁ、六月ちゃんが頑張ってくれたのは事実だし、別に……いっか。
「うん。本当だよ?」
「やったぁ。それじゃあ、ストメでお願い事送っても良いですか?」
「いっ、良いよ?」
「ありがとうございます。それじゃあ、お片付け頑張ってください。失礼しますっ!」
一礼し、走り去って行く六月ちゃんの後ろ姿。それを見ながら……俺は少し考えていた。
あれ? そう言えばなんでもって言ってた? 言ってたよね? 六月ちゃんだからあり得ないとは思うけどさ?
……とんでもないお願いだけはやめてね?
時刻は4時10分。部活へ向かう学生達が多くみられるこの時間帯に、やっと体育祭の片付けは終わった。
だー、水が美味いっ!
働きっぱなしだった体に水分が沁み込んで、俺の体を癒してくれる。あぁ水って素晴らしいものだっ!
「蓮」
そんな感動に浸っている俺を邪魔するかのように、聞こえてくる声。その声に一瞬おっ? って思ったけど、すぐさまその期待は消え去った。
「なんだ……? 凜」
ドキドキを返してくれよ?
そんなガッカリした気分でゆっくりと後ろを振り向くと、まぁ案の定そこには凜が立っていて、俺の方を見ていた。
「はい、これ」
そう言って、凜はおもむろになんかを差し出してきたんだけど、一瞬身構えたのは言うまでもない。
うお、なんだ? 凶器か! ……ってタオル?
「どうぞ?」
こんなシチュエーションに遭遇したら、ほとんどの人はとんでもなく優しい人っ! って思うのかも知れない。けど……俺はそう簡単にはいかないのよ? なんたって、警戒しまくりだからね?
しかし、ここでこのタオルを拒否した場合どうなるだろう? この行動に何の目的があるのかは分からないけど、そんな愚行をこいつがクラスの皆に言い回ったら……まぁ俺は最低最悪な奴の烙印を押されるだろうな。
そして? 受け取った場合は……特に問題はないのでは? 思い通りにならず気分を損ねるのと、思い通りになって気分が良くなる……それなら後者の方がこいつにとっても良いはず? ならば……
「サンキュー」
ここは受け取るべきだろう。
「ふふ」
笑った? 思い通りになった嬉しさか?
「なんだ?」
「ううん。何でもないよ?」
なんだそれは。そういう謎の行動が怖いんだよ。
「あっ、蓮にも言ってあげようか? 労いの言葉」
労い? こいつ俺が3人にお願いした事を……嫌みのつもりか?
「いいよ、俺は大して頑張ってない」
「そうなの?」
「あぁ」
「そっかー、残念」
うわぁ、やっぱり一言一言に裏がありそうな気がするー!
「でもさ?」
でも?
「私は結構頑張ったんだよねー。タオル渡したり労いの声掛けしたり? リレーだって」
それが狙いかっ! そうして俺に何かを要求する気なんだろ! 汚い奴だ。
「まぁ、そうだな。だったら栄人か相音に……」
「私は、蓮からもらいたかったんだけどなぁ……タオルとお褒めの言葉」
はっ、はぁ? こいつまた意味の分かんねえ事言ってやがる。そこまでして俺をおちょくりたいのか? だか、ここで乱れてはダメだ! あくまで普通に普通に。
「冗談止めてくれよ」
「冗談……じゃないよ?」
それまで少し笑みを見せながら話していた凜の顔が、一瞬だけ真顔になる。でもそれは本当に一瞬だけ。
「なぁんてね? じゃあまた明日ね?」
すぐに表情を変えた凜は、そのまま体を反転させて校舎の方へと歩いて行く。何事もなかったかの様に会話を終えて、さも普通に帰るように……
やっぱりおかしい。あんな事冗談でも話す奴じゃなかった。だったら、その行動の裏には……何か別の意味がある。その矛先が……俺だったらまだ良い。けど、もしそれが恋に向けられたら……
「あっ、ツッキー!」
「うおっ、恋?」
って、考えてるそばから本当に来るなよっ! いや、すいません。本当は来て欲しかったです。
「片付け御苦労さまー」
「まったくだよ、かなり疲れた」
「テントとか道具って結構重いもんね?」
「確かになぁ」
やっぱ、恋と話してると楽しいな。まぁ直前があいつだったから余計にそう感じるよ。気兼ねなく……なんでも話せる。
「それで? 着替えもしないでどうしたんだ?」
「いやぁ、着替えるの面倒だからさ、寮から体操着で来ちゃったんだよね。そんで部活行こうかなぁって思ってたらさ、ツッキーの姿見えてね?」
「疲れた俺をからかいに来たと?」
「そうそう、からかいに……って違ぁう! 私の美声で疲れを癒してあげようとわざわざ来たのっ!」
美声って……自分で言うんかいっ! まぁ確かに恋の声聞いたら疲れも吹っ飛ぶけどさ? ……ん? なんかさっきから後ろで手組んでるけど、なんか持ってんの?
「それは……アリガトウゴザイマス」
「めっちゃ機械的なんですけどぉ?」
「そんな事ないぞ? それより恋? なんか持ってんの? さっきからずっと手、後ろで組んでるけど?」
「えっ? なっ、なんでもないよ? あっ!」
そう言いながら片手を振って、何もないアピールをする恋。しかし、かなり慌てたんだろう。急いで片手に持ち替えたそれは、無情にも地面へと落ちて行った。
はい、嘘でしたね? なんだなんだ? ん? 白い……タオル?
「あれ? これって……」
「何でもないっ!」
恋はすかさずそれを拾うと、またすぐさま後ろに隠す。けど、もうバレバレなんですよね? しかもなんでタオルをそんなに隠すのかね? 自分で使ってるなら首にでも掛ければ良いのに……はっ! まさか……
俺の為に持って来てくれた!? 待て待て、もしそうなら滅茶苦茶嬉しいんだが?
「あの、恋? もしかしてそのタオル……」
「こっ、これはなんでもないのっ!」
いやいや、めっちゃ動揺してんですけど? むしろその反応で少し確信したんですけど?
「俺に持ってきてくれた?」
「ちっ、違うよっ! これは私使ってたタオルっ!」
「本当かな?」
「本当っ! それに、ツッキー持ってるじゃん……タオル」
はぁ! しまったっ! ここでこんなにもお邪魔になるのかっ! このタオルはっ! ちくしょう、やはりあいつ図ったな! だが、俺は何としてでも恋からのタオルをもらいたいんです。考えろ、なんとか良い切り返しを思い付けっ!
「いっ、いやぁ、これ実はテーブルとか拭いてさ? 使い物にならないんだよね?」
「えっ? そっ、そうなの?」
素晴らしい! 素晴らしいぞ月城蓮。我ながら素晴らしい切り返しだっ!
「あぁ。だからさ、ちょうど汗とか顔についた水滴とか、拭きたくて拭きたくて仕方ないんだよねぇ」
「なっ、なんだ。そういう事なら……はい。使ってもいいよ?」
おぉ、ついに恋からタオルゲットだぜっ! しかも恋、さっき自分使ってたタオルだって言ってなかった? 本当にそうならさすがにそれを人には渡さないだろ? すんなり渡すって事は……やっぱ新品のタオルって事じゃないかぁ。ったく、素直じゃないなぁ。
「ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」
「うんっ! どうぞ? ツッキー、体育祭お疲れ様っ」
タオルももちろん嬉しい。けど、その満面の笑顔で言われる、お疲れ様程……
俺の心と体を癒してくれるものはないよ。




