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第一話 - ゆく川の流れは絶えずして

ゆく川の流れは絶えずして。


街にはたくさんの人が行き交うけれど、偶然に同じ人にあう確率は低く、ましてや偶然その場に居合わせた複数人がまた集まることなんて天文学的な確率だ。


僕たちは互いに知らんぷりしてすれ違い、一瞬一瞬の奇跡的な出会いを浪費しているのだ。


渋谷、ハチ公前。

いつもの待ち合わせ場所に立ってからもう二時間くらい経つ。


あの子はまだ来ない。

まぁ待ち合わせしてないから来るわけないんだけど。


僕が彼女にフラレてから始めた根暗な趣味、『待ち合わせごっこ』。

昔みたいに笑いながら駆け寄ってくれるあの子を空想したりもするけど、最近では『もう二度と出会うことのないであろう人と人のすれ違い』を眺めることで心を慰めている。


たまたま出会って、すれちがって、二度と会えないのは、みんな同じだよって自分に言い聞かせるために。


『……動くな』


頭上から突如、殺気立った声を浴びせられ、軟派主人公は振り返る。

一瞬の混乱、そして驚愕…。


ハチ公の像の上に、漆黒の忍者がそびえるように立っている。


一陣の風が吹き抜け、ゴミを啄んでいた鴉が一斉に飛び立ち、ドブネズミの群れが難破する宿命の船から逃げ出すかのように走り去る。


ガサガサガサ!!!!


突如として人混みからカカシのような風貌の『何か』が無数に躍り出て、漆黒の忍者に襲いかかる。


チュンッチチチチッ!!

ザンッ!!!!


機銃掃射のような剣戟の音。

予期せぬタイミングで開始した市街戦に逃げ惑う市民。

渋谷は一瞬で戦場と化した。


漆黒の忍者は健闘するものの、カカシのような風貌の一団の勢いはすさまじく、何十、また何百と人混みから現れては漆黒の忍者に襲いかかっていく。


劣勢………しかし!


『口寄せッッ!!!!』


カッ!!!!!

雷鳴がハチ公像を直撃する。


シュウゥゥゥゥゥ………

銀色の毛並みの巨大な狼が、ハチ公像のあった場所に出現する。

これは誰もが知る、渋谷の伝説の獣。


『誅犬蜂公ッ!火遁之壱、嵐華!!!!』


業ッ!!!

漆黒の忍者が印を結ぶと同時にハチ公の口から炎の咆哮が噴出し、カカシのような風貌の何百という敵を焼き払った。


あとに残るは、燻るように燃える藁の山のみ。


うずくまって避難していた軟派主人公がよろよろと立ち上がり、忍者に話しかける。


『あなたは、あなた様はもしや……』


漆黒の忍者は深く頷いて応えたのち、懐から一つの巻物を取り出し、軟派主人公の前に突き出した。


『この書状を持って半蔵門へと走れ』


漆黒の忍者が軟派主人公を見つめる眼差しに宿る感情は、信頼でも威圧でもなく、憐憫…。

忍者は市民への愛情に満ちていたが、市民を守りきれぬほどには無力であった。

彼はこれからきっと死ぬであろう軟派主人公を哀れんでいた。


軟派主人公は伏し目がちにしばし沈黙し、そして優しく微笑んだ。


『……御意』


軟派主人公は忍者から巻物を受け取り、そして強く握りしめた。


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