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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
6/31

1-6 人気者の恩返し

「あのヒナタって座敷わらしのことも知らないのか?」


「当たり前だろう。

 あんな座敷わらしと知り合ってたら、

 忘れようにも忘れられない。

 鬼もいっしょだ」


そんな既視感しかない話を昼休みにイチロウと話している。


ヨシキは自分で作った弁当、

イチロウは購買で勝ち取った焼きそばパンを食べながらだ。


話題の中心であるヒナタはお昼にも関わらずいまだ質問攻めだ。こころなしかアマノのときよりもひとが多い。それでもヒナタはアイドルの握手会のようにさばいている。


「あの座敷わらしは何なの!?」


アマノが苛立ちを隠さずに戻ってきた。

片手には牛乳パック。

昨日買いすぎた焼きそばパンを今日も食べている。

袋をチラ見すると賞味期限は今日。

食べ物を粗末にしたくないヨシキとしては、

残りどのくらいあるのか気になる。


一晩にして転校生の属性を忘れさられたことが、

気にくわないのだろうか?


あるいは朝のヨシキとヒナタのやり取りが

気に食わなかったのだろうか?


これも気になるがおそらく聞かなくても答えてくれそうだ。

ヨシキはそう思ってアマノの質問に呆れた口を開く。


「俺が聞きたいんだが……」


「本当に? なにか隠してない?」

「隠してない」


「あたしの復讐を恐れて、

 仲間を呼んだとかじゃない?」


「どうやって一晩で転校生を手配できるんだよ。

 それに鬼に対してあんな小さな女の子じゃダメだろう?

 座敷わらしって争いをする妖怪じゃないんだから」


「分からないわよ。

 あのナリでとんでもない力を持ってたりするかもしれないじゃない。

 ないと思うけど」


「アマノだってそう思ってるじゃないか」


「わたくしのお話をしてますか?

 良ければお昼もごいっしょしてよろしいでしょうか」


ヨシキがアマノの言葉に呆れていると、

隣からひだまりのような温かい声が聞こえてきた。


当然声の主はヒナタだ。

質問攻めをかいくぐってこちらに来たようだった。


手にはかわいらしい

『舌切雀の小さなつづら』のようなお弁当箱がある。


ヒナタはこちらの答えを待たずに机を寄せてきた。

もしかしたら、質問したいのはヒナタのほうなのかもしれない。


「お昼はいっしょでもいい」

「おれっちも歓迎だぜ」

「勝手にすれば」


「ありがとうございます」


またもていねいなお辞儀をしてから、

ヒナタは席についた。

それからヨシキは話を続ける。


「ヒナタというより俺の話だな。

 そこの鬼は復讐に、そしてヒナタは恩返しに。

 二日で俺の人間関係が新しくなった気分だって話してた」


「驚かせてしまって申し訳ありません。

 ですが、ヨシキ様がこの学校にいらっしゃると聞いて

 居ても立っても居られなかったのです」


「そんなのあたしもいっしょよ。

 腸煮えくり返る気分だったわ」


アマノはそう言って三袋目の焼きそばパンを平らげた。

あからさまに苛立った様子を見せつけてくるが、

ヒナタもまったく気にせず話を振る。


「鬼様はどのようなご縁があったのですか?」


「アマノよ。鬼様なんて偉そうな呼び方、

 あたしにはもったいないわ」


呆れたようなへりくだったような言い方だ。


(意外と自己肯定感低いのか?

 あるいは本当に鬼の中のヒエラルキーが低かったとか)


そんなことを思いながらアマノを見つめた。

アマノは特に気にせずにいるが、顔をしかめ始める。


「では、アマノ様。

 ヨシキ様とはどのようなご関係でいらっしゃいますか?」


「質問変わってるじゃない!」


「それは俺も気になる」


「ヨシキには説明したでしょ!

 あんたの先祖の陰陽師があたしを退治したの!

 それにムカついたからあたしは復讐しにきた!

 それ以外にないわ」


「まあまあ、そんなご縁があったのですね」


「なんで嬉しそうなのよ!

 復讐よ、復讐!

 こんな漢字で書くのもめんどくさくて、

 恐ろしい言葉で言ってるのにどうして怖がらないのよ」


「怖くないからな」


ヨシキがサラリと言った。

するとイチロウは大笑い、ヒナタもクスクス笑い始める。


「当事者に言われたらおしまいだな!

 どうだアマノっち、おれっちに復讐しないか?

 おれっち踏まれるのは歓迎だし、

 アマノっちが好きなプレイを――」


「お断りよ。

 あんたのでかい目を凹ませるより、

 ヨシキのすまし顔を引きつらせたいの!」


「ちぇー」

イチロウは残念そうに口をとがらせた。


それからアマノは、

テストの結果が悪かったような顔をしながら話を続ける。


「あの時代、鬼は人間を襲って、

 人間は鬼を退治する。

 仲良くできないもの同士だったの。

 だからあたしはあの陰陽師に負けた。それだけよ」


(勝敗にも不満を持っているのは確かだが、

 不満はそれだけではない。

 まるで、その時代の人間と鬼の関係性に不満を持っていた感じだな)


ヨシキはアマノのしおれたようなツノを見てそう思った。

当然、本当にしおれているわけではない。

ただアマノの頭がしょんぼりと下がっているのでそう見えるだけ。


「でもお命までは取らなかったのですね。

 改心のご機会を与えるなんて、素敵な方ですね」


対しヒナタはとてもよい話を聞いたように明るい笑顔を見せた。

自分も同意していると言いたげに手のひらを合わせる。


「んなわけないでしょ!

 こんなの生き地獄よ」


「いいえ、あのお方のおかげで、

 わたくしたちはこの時代まで生きてこられたのです。

 ですので感謝しなくてはいけませんわ」


「あたしは見逃されただけよ。

 消されてもおかしくなかったし」


「ですので、

 アマノ様も生かされた理由というのが、

 あるかもしれませんわ」


「どうだか。ただあいつが甘かっただけよ。

 あたしみたいなのを見逃したら復讐されたっておかしくないのに」


「復讐されたくて見逃したとか?」


「どういう理屈よ。

 そういうのはそこの一つ目小僧だけでいいのよ」


「お褒めに預かり光栄で」


「褒めてないわよ!

 それよりも、

 ヒナタはどうしてあいつに恩を感じてるのよ!?」


ツンツンとした態度すらも心地よいと、

気持ちよさそうな顔をしたイチロウをスルーする。


それから振りかぶるようにアマノは、

ヒナタに疑問を投げつけた。


「少し長くなるかもしれませんが、

 お答えしてよろしいでしょうか?」


するとヒナタは姿勢を正した。

まるで語り部が昔話を始めるような表情になって問いかける。


一瞬でそれも質問を投げつけたアマノではなく、

ヨシキに問いかけてきた。


思わずうなずくとヒナタはゆっくりと口を開く。


「わたくしは名もない幽霊でした。

 生前のことは幼くして亡くなったことくらいしか、

 覚えておりません。ですが居場所がほしいと強く願い、

 そのせいで悪霊となっておりました。

 ひとを呪うようになります」


だんだんと口ぶりが重くなっていった。

誰が聞いても重い単語が並び緊張感が漂う。


すると少し間をおいて、

雲の切れ間から光が射すようにパッとヒナタが明るい顔になった。


「そこであのお方と出会いました。

 あのお方はわたくしを退治するためにやってきたのですが、

 わたくしを執念や呪いから開放してくださったのです。

 具体的にはひとを呪う力をひっくり返し、

 ひとを幸せにするちからを与えてくださいました。

 さらにわたくしが欲しかった居場所を与えてくださったのです。

 これにて座敷わらしの誕生というわけですね」


「あたしにはそんな呪いをひっくり返したりとかしてくれなかったけど」

話を聞いてアマノは口を尖らせていた。


「その必要がなかったのではないかと存じます。

 あのお方のお話を聞きますと、

 わたくしのような霊や妖怪を

 良い方向へ導く活動をなさっていたようですわ。

 わたくしのように救われた霊や妖怪、

 人間は他にいらっしゃると思いますの」


「どうだか?」

(アマノもなにかしてほしかったのか?)


ヒナタのフォローを聞いても

アマノは不機嫌な顔を見せつけたままだ。


それを見てヨシキはなんとなくそう思い、

ツノの角度のせいで影の落ちるアマノの顔を見ていた。


「お話がそれましたわね。

 それからはとある旅館でお世話になりました。

 わたくしがいることを知るとたくさんのひとたちが遊びに来てくださり、

 本やおもちゃをいただけました。

 お礼にわたくしはひとを幸せにするちからを使い、

 皆様をおもてなししました。

 それでもわたくしは足りないと思い、

 旅館で働く皆様の動きや言葉遣いを見様見マネで覚えたのです。

 それがこの話し方になります。

 お勉強も頂いた本や旅館で働く学生さんの教科書を読んでいたしましたわ」


「ふん、どうせあたしは勉強なんてしてないわよ」


「別にアマノを煽ったわけじゃないだろう」


「うっさい。

 それよりその旅館はどうしたのよ?

 座敷わらしがいなくなると

 建物が潰れるって聞いたことあるけどまさか――」


「いくらわたくしがひとを幸せにするちからを持っていても、

 旅館の経営をどうにかできるものではありませんでした。

 時代の流れ、でしょうか、旅館はなくなってしまったのです」


周囲がざわつき、

不安な声が上がり始めた。


いつの間にかたくさんのクラスメイトが

ヒナタの話を聞きに周囲に集まっている。


「しばらくは廃墟になってしまった旅館に

 ひとりで過ごしておりました。

 ですが、人間と妖怪が堂々といっしょに暮らす時代がやってきたのです。

 わたくしは知るとすぐに最低限の荷物をまとめ、 旅館をでました。

 なにをするかは最初決まっていなかったのですが、

 自分の妖怪としての生を思い返したとき、

 一番恩を受けた方への恩返しがしたいと思い立ったのです。

 様々なひとや場所へ相談をして、ようやくヨシキ様のことを知りました」


「そして今に至ると」

「はい!」


ヒナタが話を笑顔でまとめると、

周囲から鼻をすする音、

涙をポタポタと落とす音が聞こえてきた。


「いい話だった」

「感動した……」

「全米が泣いた」

「よかったわね、ヒナタちゃん」

「俺も今日から妖怪に優しくする。ヒナタちゃんみたいな子を救いたい」

「じゃあ俺は陰陽師目指すわ」

「わたしは旅館を始めるわ」

「人間も妖怪も住みやすい世界を作ろうぜ」

と口々に感想や影響を語り始めた。


(ヒナタの経緯は分かったが、なんだこの状況は?)


目を細めたヨシキは周囲を見渡す。

語り部のヒナタ以外で、

泣いていないのはヨシキとアマノだけだ。

アマノは特に興味なさそうに腕を組んでいた。


「わたくしがあのお方に生かされた意味は

 ひとを幸せにすることだと思います。

 アマノ様もなにか理由があって、

 今ここにいるのではないでしょうか?」


話を振られて、アマノはヒナタにうなずいた。

それからヨシキの方を煽るように見下した目つきで見てくる。


「……そうね。

 ヨシキあんたはそのご先祖様のせいで、

 あたしに復讐されることになるのよ。

 それは恨んだほうがいいんじゃないかしら?」


「別に、それは仕方ないことだろう。

 それにその復讐が怖くないと恨むに恨めないぞ」


ヨシキが涼し気な顔で言うと、

アマノは角まで真っ赤にして頬を膨らませた。


そんなやりとりに今度は周囲からドッと笑いが起こる。

まるでお笑いのステージのようだった。

だがアマノはお笑い芸人ではなく、笑いものにされるのはイヤだったようだ。


「もー! 絶対にあんたの顔を歪ませてやるんだから!」

そう言って教室を出ていってしまった。


「ちょっとからかいすぎたでしょうか?」


「悔しさで、新しいイタズラでも考えて戻ってくるから大丈夫だ」

お読みくださいましてありがとうございます。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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