4-2 復讐鬼の知る真実VS座敷わらしの勘違い
学校が終わると今日も三人でゲームをしている。
ヒナタは段々とうまくなっていた。
アマノも負けずと頑張っているが数歩及ばず。
それでも確実にうまくなっていた。
家でもいつもの様子が戻ったかと思ったが、
「なんで家でもベタベタしてるのよ?」
ヒナタはあぐらをかくヨシキの足に座っていた。
なので、アマノはゲーム画面に加えて
ヒナタにも睨みをきかせている。
「だって、そうしたいからです」
そんなアマノに対し、
ヒナタの余裕のある答えが返ってきた。
まるで煽っているようにも聞こえる。
すると今度は首を上に向けてヨシキの方を見る。
「ヨシキ様、今度こそいっしょにお風呂に入りましょう」
「諦めてなかったのか?」
さすがに二回目は驚かない。
だが疑問はあって目を細めた。
「はい。諦めていないというより、
心変わりいたしましたから」
「なによそれ。
最近ヒナタわけのわからないことばっかり言ってるわね」
隣でアマノは般若にも近い顔を見せてきた。
だがわけのわからないことを言われているというのは同意だ。
「だって、直接言うのはとても恥ずかしく……」
すると急にヒナタはポッと音を立てて顔を赤くした。
くっついているせいかその温度はヨシキにも伝わる。
「ほんっと意味分かんない。
あたしに助言してヨシキと仲直りさせたと思ったら、
今度は自分がヨシキにベタベタ」
「アマノ様、もしかしてご嫉妬なされてますか?」
「なによご嫉妬って!
嫉妬に『ご』なんて普通付ける!?」
「わたくし、
ていねいな言葉遣いを心がけておりますので」
「それはそうとして、ヨシキ様。
わたくしはお風呂をごいっしょしたく存じます。
それはお世話したいからではなく、
同じ空間を共有したいからでございますわ。
お食事といっしょです。
みんなで楽しく過ごしたいという思いですの」
「いやそれでも。ダメだ」
ヨシキはすぐに答えた。
確かに食事といっしょで
三人でワイワイするのはとても楽しい。
もしかしたらお風呂でも
そんな時間を過ごせるかもという期待もあった。
先日言われたように水着でならいやらしいことはないだろう。
だが問題はそこではなく、
当然パンツにあった。
服を脱ぐ状況が生まれるということは、
当然パンツを見られる確率が上がる。
いつどこで、どんな事が起こって見られるのか想像もできない。
事実一度見られているかもしれない状況が生まれている。
それ以来普段使いもしない風呂場の鍵を使っている。
今はアマノも事情を知っているし
それをバカにすることはしなかった。
それでもヒナタはどうだろうか?
今でも不安が残っている。
もしかしたらヒナタも、
どんなパンツをはいているのか確認したいのかもしれない。
だからこのような行動に出ている。
それならば納得だ。
もちろん見せるわけにはいかないが。
「では最終手段に出ようと思います」
ヒナタはヨシキから離れた。
少し距離をとってとてもキレイな正座で座り直す。
「以前にヨシキ様は、
裸を見せ合うのは恋人同士のような関係でないと
ダメだとおっしゃいました」
「言った覚えがあるな」
「ですから、わたくしたちが今、
ここで、恋人関係になればよいのです」
「はい?」「はぁ?」
アマノと声が重なってしまった。
揃って目を丸くしてヒナタを見つめる。
ヒナタは顔を赤くし、
熱暴走するように体をウズウズさせながら、
それをこらえているような様子を見せた。
そして意を決したように、
ヨシキに顔を近づけて、
大きくはないが強い声を出す。
「わたくしは、
ヨシキ様のことを好いております」
「はぁ!?」
なぜかヒステリックな声を上げたのはアマノだ。
ヨシキは声すらでない。
「ぜひとも恋人となりたいのです」
「なっ――」「なんでよ?」
またもヨシキより先にアマノが声を上げた。
するとさすがにヒナタも、
じゃまをされて不服そうな顔になる。
アマノに見せて首をかしげる。
「どうしてアマノ様がご質問なされるのでしょうか?」
「だって……、その。
よ、ヨシキがなにも聞かないからよ!
だからあたしはヨシキの代わりに聞いてるだけよ!」
「アマノが先に口出すから言えないだけだ。
俺も十分驚いてるし、聞きたいことだらけだ」
「じゃあ、ヨシキも聞きたいことがあるなら聞きなさい。
はっきりとね!」
まるでケンカを買えと言わんばかりの言い方だった。
なぜアマノもこんな態度をとるのかも不思議だが、
今はヒナタに向き合う。
(だが聞きたいことが多すぎて
なにから聞いていいか分からん……。
それでも早くしないとアマノがなにを言い出すか――)
「お、俺のどこがいいんだ?」
まずはうろたえながらも一個ひねり出せた。
するとアマノがヤジや悪口にに便乗するように声を上げる。
「そうよ。こんなムカつくヤツのどこがいいのよ」
「アマノ様には分からないでしょう。
その優しげな目元、本当に優しく寛大なお心、
そしてなにより、はいていないこと」
「「はぁ?」」
またも口を揃えて声を上げた。
それでもヒナタはゆっくりと思い出を語るように続ける。
「以前アマノ様のイタズラのため、
お家に勝手に入り、
お風呂を覗こうとしたことがありましたよね?
そのときにわたくしは見てしまったのです。
ヨシキ様が下着をはいていないことを」
「いや、それは――」
「隠さなくても結構ですわ。
ご周知のとおり、わたくしも下着をはかない主義なのです」
「ヒナタあれは――」
「アマノ様もご覧になったでしょう?
そしてふたりの秘密にしておこうと口を合わせましたわよね?」
それを聞いてアマノは
渋柿を騙されて食べたような顔になった。
勘違いされる心当たり、
あるいは原因が分かっているのだろう。
だがヒナタはそれも勘違いでとったようだ。
「はいていないなんて、
あのお方と同じでとてもすばらしいお考えですわ」
ヨシキはここまで勘違されていても、
口を強く結んでいた。
(俺がご先祖様と同じく『パンツはいていない』と誤解されてるわけだ。
それでいてそれがヒナタの好みらしい……。
どうする? この誤解をそのままにしておくか?
いや、ヒナタが俺のご先祖様を後ろに見て
『付き合って』なんていうのは、
お互いのためにならない。
穏便に断りたいところだが、
どうやったらヒナタを傷つけずに断れる?
やっぱり俺はパンツはいていることちゃんと伝えればいい。
だが証拠を見せろなんて言われるだろうな。
そしたら俺はブリーフを見せざるえないわけだが、
それは不安が大きすぎる。
もしブリーフを見てヒナタが引いてしまったら、
せっかくアマノと仲直りしたのに
今度こそ関係が戻らないかもしれない。
アマノはブリーフを見て引かなかったが、
ヒナタはどうだろうか?
はいていないのが好きならなおさら
こういうのはイヤがるかもしれない。
だがこのまま『はいてない』疑惑を
そのままにしておくのも怖い。
そっちはそっちで疑惑が広まったら
ヘンタイ扱いされる。
日常生活に影響がでるかもしれない)
ヒナタのうっとりとした表情を見つめながら、
ヨシキは必死に考える。
こんなに考えているのは学校のテストなどでもなかった。
文字通り人生のかかった問題だと思って頭を回す。
「違うの!」
するとこらえきれなかったように
アマノが大きな声を上げた。
「違いませんわ」
ヒナタもその勢いに負けないくらいに
声を上げて返した。
アマノはひるまない。
「ヨシキははいてるわよ!」
「そんなわけありませんわ。
いっしょに見たでしょう?」
「ヨシキははいてたわよ!
白くてすてきなパンツを!」
「おい!」
悲鳴に限りなく近い声を上げた。
アマノはヨシキの手をとって強く引っ張る。
鬼のちからが強いのかヨシキの体も揺さぶられる。
「ヨシキ! ここははっきりと言うべきよ!
あんたはあんなにいいパンツをはいてるんだって!
誇りなさい! はいてないわけないって!
あいつとは違うんだって!」
「ヨシキ様、お答えください。
はいているのか否か!」
ヒナタも真剣に鬼気迫る様子でこちらに問いかけてきた。
質問が質問なだけに滑稽な感じもしてしまうが、
当事者たちは真剣だ。
(アマノが言ってしまったおかげで、
選択肢はふたつにひとつ……。
もうごまかせる段階じゃない。
どちらか答えなければこの場はおさまらない)
「ヨシキ! あたしははいてるあんたがいいのっ!」
アマノは全身から振り絞るような声をヨシキにぶつけてきた。
両手を強く振って、目をつぶって全身を使って訴えてくる。
(そうだ。種類まで言わなくていい。
アマノが白いのって言ってしまったが、
ブリーフでなくても白いパンツはある。
なんか聞かれたらそのときイチロウに
頼んで用意してもらえばいい。重要なのはこの場を乗り切り、
穏便に済ませること)
「俺は、パンツをはいてる」
まるで一世一代の大決意を伝えるべく、
真剣で、低い声で、事実を口にした。
するとアマノはバタバタと駆け出した。
止めるまもなく行って戻ってきたアマノは、
片手に白い布を持ってきていた。
ヨシキの顔まで白くなった。
「そうよ! こういうのをはいてるの!」
アマノはそれを手のひらで『不当判決』と
伝える紙のようにバッと広げた。
「まあ!?」
ヒナタが信じられないような声を上げた。
ぽっかりと口を開けてしまったことに気がつくと、
慌てて口元を小さな両手で抑える。
「どうよ! いいでしょ!
あいつと違ってちゃんとはいてるんだから!
あいつと違うんだから!」
さらにアマノは『不当判決』の理由を
説明するように語りだした。
今度はパンツが証拠品になったようだ。
ヨシキとしては恥ずかしさのあまり
どうすればいいのか分からない状態だが、
もうどうすることもできないし、
どうすればいいか分からない。
目まで白目をむき出しそうだ。
「そう、でしたわね」
だがアマノの言葉で、
ヒナタがなにかに気がついたようだ。
ヒートアップしていた雰囲気が一気に静まっていく。
すると先程まで前のめりな姿勢だったが、
背筋をまっすぐとした。
「今日はこれにて失礼いたしますわ。
わたくしも頭を冷やす必要があるようです」
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