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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
27/31

3-5 復讐鬼、贈り物を買う

「おっ、アマノっちじゃん。

 いらっしゃいませー」


ミコに言われたお店に行くと、

クラスで見たことがある一つ目小僧がいた。

お店の帽子をかぶり、

お店のエプロンをつけている。


「イチロウったっけ?

 あんたこんなところでなにをしてるのよ?」


「アルバイトですぜ。

 おれっちのこと覚えてくれてるとは、ありがたやー」


答えながら仏様を目にしたように手を合わせた。

憎たらしい相手と同じ扱いをされて、

アマノは苦虫を噛まされたような顔をする。


「あんたのことなんか興味ないのっ!」


「ああ、そういう扱いがありがたいー」


イヤがりそうな返しをしたのに、

イチロウは嬉しそうな声と顔で礼を言った。

アマノはいらだちを隠さずに声を上げる。


「気持ち悪い動きしてないで、

 あたしの話を聞きなさい」


「はいよ。ヨシキのことかい?」

「ど、どうしてそれを!?」


にっかりと笑う一つ目小僧の目玉に、

驚いた自分の顔が映った。


「それはいいからさ。

 ひとつやふたつ飛ばして、

 話したいこと聞かせてくれよ」


アマノは映った自分の顔を見ながら考え始めた。


この一つ目小僧はどこまで事情を知っているのだろうか。

ヨシキからどのくらい話を聞かされているのだろうか?


もしかして自分がヨシキのパンツのことを

かっこいいと思ってしまったことや、

本当に復讐してよいのか迷っていることなど、

知られているのではないか?


いや、それらの話を聞かれてもいない。

口を滑らせたり、

聞かれてもいないことを答えなければ大丈夫だろう。

アマノは固くしていた口を開く。


「……しゃくだけど、

 あいつ――ヨシキに贈り物がしたいの」


「ほー。仲直りのために?」

「仲良くないっ!」

同じことをヒナタやミコにも返した。


(ったくどう見たらあたしとヨシキが仲良く見えるのよ!?

 あたしは復讐のために来てるのよ。

 こんなに目玉でかいのに見えてないの!?)


だがバカにするとイチロウは喜ぶ気がする。

アマノはきつい顔を向けるだけで、

黙っていることにした。


「いい案がある。ついてきてくれよ」

「本当にいい案?」


アマノは思わず言い返した。

それでも、イチロウがいやらしくも

自信を感じる笑みを浮かべたままなので、

黙ってついてく。


売り場を歩いて男性向けのコーナーへと足を踏み入れる。

当然入ったことのない空間だ。

その奥に並ぶ商品を見て、

アマノは思わず目を見開いた。


「これはっ!?」


そこに並んでいたのはパンツ。

ここは男性下着のコーナーだった。


通常であればアマノのような年頃

(精神年齢基準とした場合)

の女子が近寄るのはちょっとためらう場所だろう。


今は客も少なく、周囲のコーナーも人気がない。


だがそんなことはアマノはまったく気にならなかった。

パンツはファッション、

隠すのではなく見せるものという考えを持っているからというのもある。

それ以上にアマノの気を引くものがそこにはあった。


「ヨシキがはいてたのと同じ……?」


最近流行りの漆黒のボクサーパンツは当然、

中学生から大人までに好かれる色とりどりのトランクスもある。

当然アマノはそのどちらでもなく、

白い水晶の鎧のようなパンツに目を奪われていた。


ブリーフ。


だがアマノはその名前をまだ知らなかった。

それでも、人気のあるパンツに追いやられ

コーナーの隅っこに並ぶパンツに、

アマノは目を奪われていた。

宝石でも見ているように目をキラキラと輝かせる。


「こんなに売られている……」


アマノには信じられなかった。

こんなにステキなパンツが、

他のパンツと同じように売られている。

はいているひとをヨシキしか知らなかったので、

もしかしたらどこにでも売っているものではないとも考えていた。


それもアマノのお小遣いで十分買える値段だ。


「ブリーフって言うんだぜ」

「ぶりいふ、かっこいい響きね」


思わず口にしてしまった。

今は感動のあまりイチロウのことなんかほとんど目に入っていない。

ただただ、目の前にあるステキなパンツに心を揺さぶられているだけ。


「アマノっちも気に入ってくれてなによりだ。

 これをヨシキにプレゼントして

『あんたの下着は全然ダサくなんかないんだからね』

 くらい言ってやれば、イチコロだぜ」


「そ、そんなこと――」

「実は思ってるんだろう?

 さっきから目が輝いてるぜ」


アマノはようやくそこで大きなスキ、

あまりひとに見せたことがない顔をしていたことに気がついた。

恥ずかしさで音がするほど思いっきり首を振る。

さすがに痛い。


「いいぜいいぜ。誰にも言わないから」


イチロウはニヤニヤとしつつも言ってくれた。

アマノは恐る恐る目線を前に戻す。


「ヨシキのヤツは、

 これをはいていることを恥だと思ってる」


「ウソでしょ!?」

またも目を見開いた。


こんなにもステキなパンツをはいていて、

それを恥だと思って隠している。

アマノだったら今しているように

見せびらかしてしまうほど価値を感じているのにだ。


イチロウは『思ったとおりだ』と

納得したようにうなずいて話を続ける。


「他のパンツは落ち着かないからこれをはいてるんだと。

 だが周囲は誰もこれをはいてない。

 変わり者だと思ってる自分を隠してるんだ。

 それもすっげー神経質にな」


そのことは知っていたので、

顔を動かさずに話しを聞いていた。

制服ズボンの下にも体育で使うハーフパンツをはいて、

誰かに見られないようタンスに鍵までかけている。


「じゃあ買うのはどうしてるのよ?」


「それは唯一事情を知ってるおれっちが見てる。

 逆に言うとおれっちがいないと

 あいつはパンツの一枚も買えないんだ。

 通販とかすればいいのに『履歴が残る』

 とかなんとか言ってるしなぁ……

 しょうがない友達だ」


「そこまで隠して……」


話を聞くたびに『信じられない』という気持ちが強くなる。

アマノは同情するような目でパンツを見つめた。


「だからアマノっちは、

 このパンツについて思ったことを正直にヨシキに言うんだ。

 それはアマノっちのためにもなるし、

 ヨシキのためにもなる」


「分かったわ……。

 でも意外と種類あるわね。

 イチロウのおすすめは?」


「おれっちがそれを答えるわけにはいかないぜ。

 こういうのは自分で決めることだ」


イチロウがにやりとカッコつけながら言った。

そこでミコやヒナタの言っていたことを思い出す。

――ちゃんとアマノちゃんが考えること。


なにを送るかは決めても、

どの種類にするかとかは自分で考えること。


――でないと贈り物としては不十分ですわ。

(なるほどこういうことなのね)


ようやくふたりの言っていたことを理解した。

アマノはうなずいてから、

今度は疑うような顔をイチロウに向ける。


「こんなにして、なにが目的なのよ?」


「おれっちは、ヨシキとアマノっちが

 いつもどおりにしててくれればいいだけさ。

 そのついでにおれっちのこと

 踏んだり蹴ったりしてくれれば嬉しいなーってだけで」


「分かったわ。イチロウ、

 あんたの目的覚えておくわ」


「そいつはどうも」

ムカつくイチロウの礼を見てから、

陳列されたパンツに再び目を向けた。


(ヨシキに似合いそうなの、

 あたしが決めてあげるんだから)


考えていると、偉そうに腕を組み、

文字通り鬼のような強気な顔になっていく。


(どれもかっこいいのねぇ……。

 全部買ってあげてもいいけど、

 多分いくつかは持ってるわね。

 それにヨシキって見た目よりはき心地を考えてそう。

 さっきも『これじゃないと落ち着かない』って聞いたし)


そうなると質感を確認したくなる。

アマノは偉い鬼に伺うような顔をイチロウに向けた。


「さ、触ってもいいのかしら?」


「もちろんだぜ。

 だが、あまりいやらしい触り方をしないでくれよ?」


「しないわよ!」


なにはともあれ触っていいのなら全種類触って確認する。

どれが心地よいのか?

どれがヨシキにとってはいいものなのか?

もし自分ならどれをはいていてほしいのか。


全部触って見ると、

やっぱり値段が高ければ肌触りはよくなっていく。

それに高くてもアマノのお小遣いで二枚も買ってもいいと思える値段だった。

これならばヨシキも遠慮しないで受け取ってくれるだろう。


そう思うとアマノの頬が緩んだ。

仕方なくやっていたはずなのに、

楽しいと思えてきたのだろうか。

ヨシキへの復讐を考えているときよりもおもしろいのは確かだ。


(っていけないいけない!

 あたしはヨシキへ復讐しにきたの。

 これはそのひとつよ。

 あえて塩を送って油断させるのよ)


顔が緩みきる前にアマノはブンブン乱暴に首を振った。


「じゃあこれをちょうだい」


大妖怪の偉そうな顔を作り直すと

アマノはパンツを二枚手に取り、イチロウに渡す。


「あいよ。ていねいに包むぜ。

 このあとそのままヨシキんところ行くんだろう?」


「どこまでお見通しなのよ?」


「このでかい1つ目は伊達じゃないんだぜ」


「関係ないでしょそれ」


アマノの細い目を見て、

イチロウはにんまりと笑った。

「うまくいくといいな」

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