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クソザコ復讐鬼  作者: 雨竜三斗
26/31

3-4 復讐鬼とケンカしたけどどうすればいい?

今朝はなにもされなかった。

怒り狂ったアマノが文字通り自分を襲ってきてもおかしくない。

たとえ殺されたとしても、

ヨシキは受け入れるつもりで普段どおりにしていた。


無事に学校につくとヨシキはダルそうに席に座って、

腕に顔をうずめた。


「あれ、今日はアマノっちからなんかされたのか?

 めっちゃ疲れた感じだが?」


その後でやってきたイチロウが意外そうな顔で聞いてきた。


「なんもされてない」

「なんかあったのか?」

「なにもないな」


いつもは平気な問答もなんだかうざく感じた。

まったく関係のないイチロウに当たるほどではないが。


「本当か?

 菩薩級の心の広さを見せるヨシキがなにかあったとすれば、

 アマノっちのことだと思うんだが。

 逆にアマノっちになにかしちまったとか?」


「やれやれ。鋭いな」

ようやく顔を上げた。

にっかりとした表情のイチロウが、

自分の目玉を親指で指す。


「このでかい目ン玉は伊達じゃないんだぜ」

「いや、関係ないだろ」


「そうそう。

 その調子でいつもどおりツッコミ入れてくれよ。

 それでどうしたんだ?

 ここじゃ話しにくいか?」


ヨシキは首を振ってから話し始めた。


昨日アマノが家に来たこと。

スキを突かれて鍵をかけたタンスを開けられたこと。

下着を見られたこと。

そしてショックといらだちで説教をしてしまったこと。


教室なので小声で、

周囲に聞こえないように気をつけながら話した。


「いや、アマノっちもやりすぎたな」


「とは思うが、

 アマノだって興味本位とか

 俺へのイタズラでやったことなんだ。

 あまり怒りたくはなかった」


「これすらも許すのかよ……。

 マジで菩薩様か?

 悟りひらいてるか?」


信じられないとイチロウは

瞳を比較的小さくして首を引いた。

ヨシキは特に気にせずにまた目線を下に向けた。


「もしアマノが俺の下着をバカにするようであれば

 もっと怒ってたかもな。

 だけど、アマノは驚きこそしたがバカにしなかった。

 だから許したい」


「って思ってるけど怒ってしまった。

 後悔してると」


「ああ。だが、許してない自分もいる。

 こういうときどう謝ったらいいか分からなくてな……」


「どう考えても謝るべきはアマノっちなんだよなぁ……」


イチロウは困ったような、

呆れたような顔をして眉をひそめた。

それからふと思いついたように顔を近づけてきた。


「で、見られたときの反応はどんなだったんだ?

 驚いた以外にあるだろ?」


「なんか信じられないものを見たような顔をしてた。

 やっぱ他の男子と違うのをはいてるのはショックだよな」


思い出すと胃が痛くなるような気がする。

ヨシキは答えながらお腹を抑えた。


「そんなことはないと思うぜ。

 そりゃ、他の男どもと違えば驚くことはあるだろうが」


「にしたってあの驚き方は大げさすぎるだろ」


「もしかしたら鬼の目から見たら、

 あれはメッチャクチャかっこいいパンツだった。

 なんてことがありえるかもしれないだろう?」


「そんなわけあるか。

 男子はともかく、女子が見たらドン引きだろう?」


「まあまあ、世の中広いし、

 今は人間と妖怪の価値観がごっちゃになった時代だ。

 なにがあってもおかしくないだろう?

 これはヨシキが言ったことだぜ」


「そうだが……」


言い返すも良い言葉は思いつかなかった。

かと言って納得もできず、ヨシキは顔を挙げられない。

イチロウはかまわず話を続ける。


「それに需要がなければ服屋に置いてない。

 ましてや俺の店はコモンメイドを扱ってるんだぜ。

 大量生産するってことは

 ほしいやつが思った以上にいるってことだ」


「だが売れてるのを見てるか?」


「数字上は売れてるぜ。

 俺はヨシキ以外の男が買うのを見たことないが」


ヨシキは大きなため息をついてから、

「どうしたらいい?」


イチロウに頼み込むように聞いた。

こんなこと今までなかったし、

なるとも思っていなかった。


自分には友達も少ないし、

パンツの事情を理解して納得して

なにも言わないでくれている相手はイチロウしかいない。


イチロウは上でをくんで大きな目を瞑った。


「どうするもこうするも……。

 アマノっちが謝るべきなんだから、

 向こうの動きを待ってみたらどうだ?」


「それだと落ち着かない」


「いや様子を見ようぜ。

 我慢できないアマノっちのことだ、

 向こうから動いてくれるだろうさ」


ヨシキはそれを聞いて隣の席を見た。

アマノはまだ来ていない。



一方で妖怪三人娘は階段の踊り場で会議を始めていた。

アマノは階段に座り、

この世の終わりを見たような顔でげっそりとしている。


「だからわたくしは賛同しかねたのですわ」


それを見てヒナタは呆れたように言った。

対してミコはおもしろそうに笑う。


「あたいはヨシキくんの秘密がちょっと気になるけどねー」


「ダメよ。これは教えられないわ」

「ヒナタちゃんは予想つかないの?」


「さぁ……」

ヒナタはかわいいと思っているような角度に首を傾けた。


(普段なら『思わせぶりを』って

 イライラするところだけど、

 ヒナタも見たのだから知ってるわよね)


「ま、いいわ。

 あたしはヨシキくんのことはマークしてないからー。

 それでアマノちゃんはどうしたの?」


「仲直りしたいんですのね?」


アマノよりも早くなぜかヒナタが答えた。

アマノは階段に響くような声を上げる。


「仲直りなんて!

 そもそも仲良くないし」


「『仲直り』とは『仲を直す』と書きますわ。

 ですから、仲良くても悪くても、

 元の鞘に収まることを言うのです」


「あたしは刀の話はしてないわ」


「たとえ話ですわ」

「知ってたし!」


「ですがわたくしはこのようなとき、

 どうすれば殿方がご機嫌を直してくださるのか、

 検討が付きませんの。

 またミコ様のお知恵だよりになります」


そうしてヒナタはペコリと頭を下げた。

ミコは肩をすくめながら仕方ないと言いたげな顔で口を開く。


「現金な方法だけどー、プレゼントはどう?」


「贈り物でしょうか?

 ヨシキ様の好きそうなものをお渡しして、

 謝るきっかけを作ると」


「そういうことー。

 学生のあたいたちに渡せるものなんて、

 そう高価なものじゃないけどねー。

 ヨシキくんの性格だとー、

 あまり高いものは受け取らなさそうだしいいんじゃないー」


「大妖怪にも等しい鬼のあたしが、

 人間に贈り物!?」


踊り場を通して上下の階にも響き渡る大声を上げた。

何事かと上の階から人間の女の子が覗き込んでくる。


当然だが大妖怪は人間から貢がれる側だ。

命、あるいは大切なものを取られないよう、

妖怪の機嫌を取る。


後世に神社を建てられたような妖怪はそうして恐れられて、

生活のために必要なものを手にしたり、贅沢をしてきた。


それと同じようなことを大妖怪側がやるというのだから、

アマノにとっては型破りな提案に感じた。


大声を上げてもヒナタはまったく動じずアマノに聞く。


「ヨシキ様と仲直り――

 いえ、ご機嫌を戻したいのでしょう?」


「そういうわけじゃなくて……。

 今のままだと復讐しづらいから、

 ヨシキが気構えてるのをどうにかしたいだけよ」


「でしたら、なおさら仲直りすればよいのです。

 贈り物は相手の警戒を解く良い方法ですわ」


そう言われるとアマノは言い返せなかった。

鬼はそうされてきたのだから。


「なんでも見透かしたような言い方ムカつく……」


苦し紛れに言うとヒナタはニコニコと笑みを見せつけてきた。


「もういっこ方法あるよー。

 アマノちゃんにはできないんじゃないかと思うけどー、

 いちょー聞くー?」


「むっ。あたしにできないとは逆に聞き捨てならない。聞くわ」


代わりにいらだちをミコにぶつけた。

ミコは頬を少し染めつつ、

ニヤリとイタズラな笑みを浮かべる。


「えっちするの」

「えっち?」


「ミコ様それはちょっと」


ヒナタは顔を真っ赤にしてうつむいた。

思わぬ反応をされてアマノは、

ヒナタとミコを交互に見つめる。


「どういうことよ?」


「つまり男女の交わりをしちゃうってことー。

 男なんて昔っから色仕掛けに弱いしー。

 ご先祖様は何人もの男をたぶらかしたっていうしー」


「はぁ!? そんなのできるわけないじゃない!」


アマノは先程よりさらにでかい声を上げた。

もしかしたら教室にいるヨシキに聞こえたかもしれないが、

そんなこと気にしてられないほど心臓が締め付けられる。


「男女の交わりなんて……

 そういうのは、ちゃんとした仲にならないとダメじゃない。

 ましてや復讐の相手とするもんじゃ」


それからアマノも耳や鬼のツノまで真っ赤にした。


(でもあんなパンツをはいているなら、

 ちょっといいかも?)


ふとそう思う。

それからちょっとでも、

ヨシキに色目づいたことに、

さらに顔を赤くして、

首がねじ切れそうな勢いで首を振った。


(なに考えてるのよ!

 あたしは復讐に来たのよ。

 あいつにできなかったから、

 瓜二つのヨシキにやるの!)


酔って来る前に首を止める。


(でもあいつとヨシキは違う。

 だって、あいつは『はいてなかった』

 だからあたしはすごいやだった。

 ヨシキはステキなパンツをはいてる。

 だから違うヤツ。本当に復讐する必要あるの?)


アマノの反応に、

ヒナタは意外だが嬉しそうな表情で見てくる。


「あらあら、

 わたくしたち真逆だと思っておりました。

 ですが、そういうところは気が合いますわね」


「合わないわよ!」

「まー、この作戦はないわねー。

 それにヨシキくんも嫌がりそうだしー」


「そ、そうね」

アマノは大げさにうなずいた。


(他の男子はあたしのパンツに興味津々だったのに、

 ヨシキはそんなことなかったものね。

 あたしが居眠りしてもなにもしてこなかったし。

 だからあたしとえっちなことしたいなんて、

 これっぽっちも思ってないわよ)


うなずくのに疲れたところで、

(それはそれでムカつく。

 あたしのステキなパンツ見なさいよ)

と少し顔をしかめた。


「じゃあ、贈り物がいいわね。

 アマノちゃんさっそく真剣に考えてるし」


「アマノ様、なにか検討がついていらっしゃいますか?」


顔をしかめていたことが、

真剣に考えていたと見えたようだ。

しかめた顔をそのままふたりに向ける。


「贈り物なんてしたことないわよ。目上の鬼に上納品なら渡したことあるけど」


「そういうのではなくて……。

 贈り物とは、相手のことを考えてするものですわ」


「普通は相手が喜びそうなものを渡すよねー。

 アマノちゃんは、復讐のためにヨシキくんのこと見てたけど、

 なんか検討つくー?」


ミコに聞かれて考えるが、

「んー、そいえばあたしって

 ヨシキのことなんにも考えてなかったかも……」

と感じた。


今まではヨシキの後ろにいる陰陽師のことばかり見ていた気がする。

だからヨシキ自身のことを意識するようになったのは、

本当にパンツのことを知ってから。

そう考えると復讐のためににも考えが足りなかったのかもしれない。

そう思ってアマノは目線を落とした。


ミコは人差し指を立ててヒントを教えてくれる。


「なら、ヨシキくんのこと

 詳しい男子に聞けばいいじゃない。

 もちろんヨシキくんのいない間にこっそり聞くの」


「そんなヤツ、どこにいるのよ?」


ミコはスマホを取り出してちゃちゃっと操作した。

アマノに地図を見せる。


「ここね。あたしも前に服を買いに行ったわ。

 やっすいやつだけどねー」

言ってからミコは少し真剣な目で言う。


「ただしひとつ重要なことがあるわ」


いつもの伸ばした語尾ではなく言い切った。

ミコにしては珍しい口ぶりに、

アマノは重要なことじゃないかと思って息を呑む。


「ちゃんとアマノちゃんが考えること。

 なにを送るかは決めても、

 どの種類にするかとかは自分で考えること」


「ではないと贈り物としては不十分ですわ」


ヒナタも続けて言った。

ふたりの揃って同じことを考えているらしい。


アマノはいまいちピンと来なかったが、

取っ掛かりを聞いてから考えることにする。

ふたりに深くうなずいた。


「ところでふたりはどうしてあたしにこんな協力してくれるの?」


「あたいはー、

 アマノちゃんとヨシキくんが仲良くしてほしいだけー。

 そしたらあたいがまたヒナタちゃんとデートできるからねー」


「だから、あたしはヨシキと仲良くしたいわけじゃないって!」


ミコに言い返している間に、

ヒナタは少し考えてから答える。


「わたくしは……そうですわね。

 アマノ様と『対等』でありたいからでしょうか」


「はぁ? どういうことよ」

さっぱり分からない。

アマノは顔をしかめた。こういうところがムカつく。


「アマノ様と同条件で勝負がしたいのです」

「げえむの話?」

「ですわ」


本当は違うが、

そう解釈したのならそれでいい。

まるでごまかされたような言い方だった。


アマノは疑問符を浮かべたままで、

隣りにいるミコも分かっていなさそうな顔をしていた。


「ま、いいわ。放課後ここに行けばいいのね」


「そうよー。がんばってね」

「がんばってくださいませ」

お読みくださいましてありがとうございます。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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